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    hagi

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    hagi

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    🍄💪の世界観に魔法少女を混ぜたらどうなるかの続き。最後です。

    魔法少女を求めて 3鏡の前で身だしなみを整えて、フィンは荷物を手にドアへと向かう。
    「じゃあマッシュくん、行ってくるね」
    「うん、行ってらっしゃい」
     バイバイと二人揃って手を振り合い、寮の部屋を出た。今日は待ちに待った休日だ。久しぶりにレインと会うので、フィンの心は踊っている。まずは買い物に行く予定が、その後はレインの家に行ってウサギにも会えるので本当に楽しみだった。
     兄がまだイーストンに在籍していた時は寮内で待ち合わせをしていたが、卒業してしまった今はフィンが町に出てそこで落ち合っている。逸る気持ちとは裏腹に苦手なホウキはそれほど早く進まないが、うっかり操作ミスをしてしまうなんてことはなく町に着く。
    (ちょっと早かったかな)
     待ち合わせ時間にはまだ余裕がある。でも待っているのも楽しいかと、そのまま約束した場所へと向かおうとした。しかし近道しようと入った路地裏で、丸く厚みがあり、真ん中にはハートマークに削られた宝石が嵌め込まれ、その周りにも小さな石が散りばめられてとにかくキラキラしているコンパクトが落ちているのが見えてしまった。
    (またしても……ッ)
     思わず両手で顔を覆う。なぜよりによって今日、町で罠を張っているのか。ていうか、イーストンから出られるのならもっと早くそうしておけばよかっただろ。一回で諦めなかった理由がさっぱり理解できなかった。
     まさかこんな事態に出くわすとは思っておらず、フィンは焦燥感に苛まれそうになったがよく考えればこのコンパクトと出会うのは初めてではない。不本意だがこの件に関しては経験値を積んでいる。焦らずに対処する方法は既にわかっているのだから、冷静になるべきだと深呼吸をした。
     何度か繰り返し、落ち着いた心でくるりとその場から踵を返す。見なかったことにするのだ。拾わなければあのおかしな存在に絡まれることはないのだから、これがお互いにとっての最適解だった。それにレインとの待ち合わせ場所はこの道を使わなくても辿り着けるのだし、時間だって十分ある。あまり人気のない路地裏を好んで通らなければならない理由はもうない。
     これで恙なくレインと会うことができる。すたすたと早足で表通りに戻ろうとしたフィンの背中にぼたっと何かが落ちてくる。
    「キャアアアアアア!!!」
     あまりの気持ち悪さに悲鳴を上げる。
    「えっ何!?」
    「落ちてるものを拾おうともしないとは、親切心が欠片もないようだな……」
     あの白い自称マスコットだった。しかし形が前とは違って、まだちょっとドロドロとしている。精神的ダメージから回復しきれていないのだろうか。めちゃくちゃ感触が気持ち悪いので一刻も早く離れて欲しい。
     恨みがましげな言いがかりに、目を泳がせながら反論する。
    「あ、あの……僕男なんで……拾う方が迷惑かなと思ったんですけど」
    「そう、お前は男だから本当なら用はない。でもお前の友達のせいでオレは本当に酷い目に遭わされてきた……」
    「えっ、あ、まぁそうですね……?」
     確かに酷い目には遭ってきたように思う。しかしイーストンは元々そんなに治安が良い学校ではない。マッシュ達ほどではなくても、壊されたり捨てられたりした可能性は十分にあったはずだ。
    あんなところで女の子をスカウトしようとしていた方にも問題があるのでは?
     そう思ったが、円らだったはずの目が完全に据わっていてとても言えそうにない。フィンはとりあえず話を合わせる。
    「だからお前が責任を持って可愛い女の子をこの場に連れてこい」
    「えっ!? 何で!? ていうか絶対無理!!」
     アビスのように女の子と喋ることもできないようなシャイではないが、知らない人に話かけるのは普通に緊張するのに「魔法少女になりませんか?」なんて声をかける度胸なんてあるわけない。というよりも変質者として通報されそうだ。
     勢いよく首を振って拒否の気持ちを示しながら、あわよくば背中からマスコットが落ちてくれないかと思っていたが粘性が上がっているのか全然離れない。本当に一体どういう生物なんだ。めちゃくちゃ気持ち悪くて泣きそうになる。
    「オレをあれだけ傷つけておきながら、女の子も連れてこれねぇだと!?」
    「ヒィ! 苦情は本人たちにお願いします……」
     何で僕が怒られなきゃいけないんだ。何もしていないのに。
    理不尽にマスコットに凄まれて、フィンは呆気なくしくしくと泣きだす。肩を縮め、びくびくしているとぬるりと背中から剥がれたマスコットがフィンの正面に浮かび上がった。ようやく去った気持ち悪さに少しほっとしていると、ずいとコンパクトが目の間に突き出される。
     相変わらずキラキラしているなと思いながら、その行動に戸惑っていると目の据わったマスコットがぼそりと何かを言った。
    「え?」
     聞こえなくて首を傾げると、「押せ」と聞こえた。
    「え?」
     意味が分からなくて聞き返すと、またマスコットが凄むようにフィンの顔を覗き込んでくる。
    「何回聞き返すんだテメェ! 押せって言ってんだよ!」
    「聞き間違いじゃなかった! 何で!? 僕、男ですけど!!」
    「お前が女の子連れてこれないって言うからだろうが! それならもうお前がなれ!」
    「いやいやいや結論がおかしい!!」
     あんなに魔法少女に固執して、ウン十年もかけてコンパクトを完成させたと言っていたのに一体何がどうしてそうなったのか。マッシュとランスがコンパクトを完膚なきまでに壊してしまったから自棄にでもなっているのだろうか。さっぱり理解できないが、無関係なのに巻き込まれる側はたまったものではない。
     ぎゅっと強く胸の前で手を組む。絶対に押さないという意思表示だ。
    「男でもいいならもうドットくんの変身見てるじゃん! 同じでしょ僕がやっても!!」
    「いやお前の方があいつよりかなり細身だからワンチャンいけるかもしれん」
    「いけてたまるか!」
     細かろうが何だろうが同い年の男には変わりない。思わず強く言い返すと、ギラリとマスコットの目が怪しく光る。いや本当に赤く光り始めた。咄嗟に距離を取ろうとしたが、すでに体が金縛りにあったように動かなくなる。
    (えっ!? 何で!?)
     反射的に出そうとした声も音にならない。そもそも口が動かなかった。冷や汗だけが体を伝っていく。赤い目がフィンを見つめたまま、じりじりとコンパクトを手の方に近づけてきた。もしかして指で押さなくても、あのハートの部分がへこみさえすれば押したと判断されるのだろうか。それなら手を胸の前に構えてしまったのは失敗だった。
    (ギャアアアアアアアア!!!! 絶対にいやだあああああああああ!!!!)
     ドットのようにあんな服を着せられて、無理やりポーズを取らされたりなんかしたくない。見開かれたままの目からぼたぼたと涙だけが落ちていく。
    ──にいさま!
     思わず兄に助けを求めた瞬間、真上から何かが降ってきてフィンの前髪を風圧が吹き上げた。途端に金縛りが解けて、巻き起こった砂埃に目が勝手に閉じる。急に緩んだせいで体がよろめくが、その背中に手が添えられた。
    「……兄様!」
    「こんなところで何してる。そいつは何だ?」
     薄目を開けて肩越しに振り返ると、レインが眉を寄せて突き立った剣に真っ二つにされたコンパクトとマスコットに視線を落としている。その頼りになる姿にワッと泣きながら抱き着いた。
    「うおおおおおおおお助かったぁぁぁああ!!! 怖かったよぉおおおおお!!!」
    「……泣いてないで状況を説明しろ」
     そう言いながらも引き剥がされはしない。ぐずぐずと鼻を啜りながら、フィンはこのコンパクトとマスコットについての出来事を全て話す。
     何度壊れても直ってまた現れると聞いて、レインは「呪いのアイテムか……?」と顔を険しくした。魔法道具管理局のトップとしては見過ごせない事態なのかもしれない。
    「封印した方がいいかもしれねぇな」
    「そうなんだ……」
     兄のお陰で助かったが、どうやら休日は返上されてしまいそうだ。せっかくレインと過ごせるはずだったのにと、フィンはがっかりと肩を落とす。もうおかしな目に遭わなくなるのだから良いことなのだが、それとこれとは話が別だ。
     こんなたった数分でもう別れなければならないなんて。
     剣を消し、綺麗に断ち割られたコンパクトとマスコットの残骸を少し大きくしたハンカチに包んでいるレインの背中を見ながらフィンは靴の爪先でいじいじと地面を突いた。わかってはいてもなかなか割り切れない。
     立ち上がったレインが振り返る。別れの言葉が出てくると思っていたフィンは、思わず俯いた。だから「行くぞ」と言われてびっくりする。
    「えっ? ぼ、僕も?」
    「三回も巻き込まれてるんだ。封印が終わるまで何が起こるかわからねぇ。一緒に来い」
     すたすたと歩き出すレインの背中をぽかんと見つめる。すると、大通りに出ようとしていたその影が振り返った。
    「フィン」
     早く来いと呼ぶ声に、フィンの顔はみるみる喜びに染まっていく。足取りも軽く兄の元へと向かった。
     元々の予定は狂ってしまったし、レインは仕事になってしまったが、フィンはそれでも良かった。買い物に行けなくても、ウサギに会えなくても、ただ兄と一緒にいられればそれでいい。
    それこそが、フィンの幸せだった。
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