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    hagi

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    hagi

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    🍄💪の世界観に魔法少女を混ぜようとしたらどうなるのかなと真面目に考えてみた話です

    魔法少女を求めて「あれ、何か落ちてる」
    「え?」
     マッシュがじっと地面を見つめる視線を追う。次の魔法薬学の授業は薬草採りから始まるので、薬草園までの道のりを一緒に歩いていたところだった。平らなはずの道の上に掌くらいの大きさの何かが落ちている。
    「何だろ、これ」
     二人は落ちている物を覗き込むように見下ろした。丸く厚みがあり、真ん中にはハートマークに削られた宝石が嵌め込まれ、その周りにも小さな石が散りばめられてとにかくキラキラしている。
    「化粧品……かなぁ? コンパクトだっけ」
     縁も興味もないので詳しくはないが、こういう形の化粧品が世の中に売られていることはフィンも知っている。マッシュは見たこともなかったのか、「へー、フィンくん物知りだね」としきりに感心してくれた。
    「こんなとこにあるってことは、多分落とし物じゃない? クラスの子のかな」
    「とりあえず持ってってみますか」
     そう言ってマッシュがコンパクトに手を伸ばした。その指が触れるかどうかのところで、どこからか制止の声が上がる。
    「それに触るな!! 男はお呼びじゃないんだよ!」
    「え?」
     キンキンとした甲高い声の主を探そうとマッシュとフィンは辺りを見回す。しかし、姿は見当たらない。
    「幻聴……?」
    「いや二人同時に幻聴はないんじゃ……」
     突っ込みながら、フィンはマッシュの傍に寄る。何かおかしなことに巻き込まれそうな気配をひしひしと感じ始めていた。
    「いいからさっさとどっかに行け! じゃないとひどい目に遭わせちゃうぞ!!」
    「え、例えばどんなのですか」
    「えっ!?」
     淡々と質問するマッシュに声が狼狽える。
    「え、えーっと、それはぁ……」
    「何だ、具体例があるわけじゃないんだ。じゃあ持って行こ」
     容赦なくマッシュがコンパクトを掴もうとする。すると、近くにあった木の上から何かが飛び降りてきた。べちゃりとマッシュの頭に白い物体が張り付いている。
    「やめろ──ッッ!! それにはオレの夢が詰まってるんだぁぁ!!」
    「」
     白い生き物がひたすらマッシュの頭を殴打し始める。殴るたびにポカポカと可愛い音がしているのに、マッシュから出る声はやたら濁っていた。
    「ま、マッシュくん大丈夫?」
     そうそうどうにかなるような体じゃないことは知っているが、念のために確認するとマッシュが「フン」と頭に手を伸ばして白い生物を引き剥がした。
    「たまには頭皮マッサージもいいな」
    「殴打とマッサージを一緒にしないで!?」
     フゥとどこか満足そうなマッシュのおかしすぎる認識に突っ込む。彼の強靭すぎる体にとってはあれくらいの殴打は撫でられているようなものなのかもしれないが、それにしたってひどい。恐らく渾身の力で殴っていたのだろう、白い生き物もべそべそと泣いている。
    「うっうっ、オレは何て無力なんだ……」
    「いや、それなりに気持ち良かったですよ。自信持って」
    (そこじゃないんだよな……)
     全く通じ合わない会話を聞きながら、フィンはまじまじとマッシュに首根っこを掴まれている生物を見つめる。この世界に数多いる魔法動物は未だその全容が把握されているわけではなく、図鑑に載っていないものもたくさんいるがそれにしたってこんな生き物は見たことがない。長く垂れ下がった耳はウサギにも思えるが、犬っぽくも見える。いや、形の崩れた竜とも言えるかも。見た目からしてそんな具合で、一体何の種族に属しているのかも検討がつかなかった。本来特徴が多く出る顔がとにかくのっぺりしていて本当に判断がつかない。
     新種の魔法動物かと思いながら眺めていると、その生き物が泣きながら自分の目的を漏らし始める。
    「オレは、オレはただこの世界で魔法少女に活躍して欲しいだけなのに……」
    「まほうしょうじょ?」
     聞き慣れない単語にマッシュとフィンは顔を見合わせる。
    「フィンくん、魔法少女って何? 知ってる?」
    「ううん知らない、聞いたことない。魔法使いと何が違うんだろ……?」
     こそこそ話していると、よくぞ聞いてくれたとばかりに白い生き物がパッと顔を輝かせた。興奮しながら語られたところによると、魔法少女というのはこの世の危機を救うため悪と戦う存在らしい。
     フィンは首を傾げる。
    「魔法界が危ない時は神覚者が揃って戦ってくれるけど……神覚者の別名ってわけじゃないよね多分」
     明らかに『少女』がそぐわない。現在の神覚者は、圧倒的に男性の方が多いからだ。
    「えー、でも無邪気な淵源との戦いの時、そんな人いたっけ? ていうか無邪気な淵源はマッシュくんが倒したから……」
    「えっ、じゃあ僕が魔法少女だったってこと……?」
     初耳だとマッシュが無表情なのに驚いた顔をしている。こっちだって驚きだ。
    「いやマッシュくん魔法使えないし、少女でもないじゃん」
    「だよね。良かった、知らないうちに変なものにならされていたのかと……」
     ほっとしているマッシュに対し、首根っこを掴まれたままの生き物がワッとさらに激しく泣きだす。
    「うおぉおおおぉおおおお──ん!! 何でこの世界には神覚者なんてものがいるんだ!! いやいてもらってもいいんだけど!! コスチュームが!!! 可愛くないんだよぉぉぉぉぉ!!」
    「コスチューム……?」
     兄も着ている神覚者ローブのことだろうか。かっちりとしていてレインに似合うし、フィンは格好良いとしか思ったことがない。それに神覚者は公の行事にも出ることも多いので、全員がフォーマルな格好をしているのは当然といえば当然のことだった。そもそも可愛さは求められていない。
     だがこの生物にとっては違うらしかった。
    「オレが見たいのは!! 可愛い女の子がひらひらした可愛いコスチュームで悪と戦う姿なんだ!! 神覚者は確かにみんなカッコいいけども!! キラキラが足りないんだよぉぉぉ!!」
    「そうかな。ライオさんめちゃくちゃ光ってるけど」
    「あれはギラギラっていうかビカビカだろ!! オレが求めてるのはもっとこう可愛い感じのキラキラなの!! 目が潰れない程度の輝きがいいんだよ!! ていうか可愛い女の子がいいっつってんだろちゃんと聞いてたのかテメェ!?」
    「こわ……何かすごい怒ってる」
    (何かちょっとドットくんに似てるな、この生き物……)
     モテが関わるとドットも正気を失いがちになるが、その時の様子によく似ている。本人が聞いたらそれこそ激怒しそうなことを思いながら、フィンはこの生物の発言を簡単にまとめてみた。
    「えーと、つまり魔法少女は神覚者じゃなくて、まだこの世界にいない存在だってことでいいのかな」
    「そうだ。だからオレは魔法少女になってくれそうな可愛い女の子に拾ってもらおうと、この変身コンパクトを道に置いておいたのにお前らが邪魔しようとするから……!」
    「何と、親切が仇になったパターンか」
    「いやこんな誰でも通る場所に置く方がどうかしてない!? 女の子だけが使うとこでもないと絶対無理じゃん!!」
     それに男女同数というわけでもないイーストンは、どちらかと言うと男子の方が多い。それに拾われることなく放置される可能性だってある。明らかに作戦ミスだ。
    「ていうか普通に声かけた方が早いよね」
    「確かに。それじゃ駄目なの?」
    「……オレだってそれが一番だってわかってる。ていうかやってみたんだ! でも……」
     沈鬱な雰囲気を出しながら、勧誘に挑戦したあらましを語り出す。
     一人目は金色の髪を持ち、頭上で結ばれたリボンが特徴的な女の子だったそうだ。魔法少女になって僕と一緒に世界を救って欲しいとお願いしたところ、
    「え? 世界はもうマッシュくんが救ってくれたじゃないですか。もしかしてあなた、マッシュくんを知らないんですか? そんな人がまだこの世にいるなんて……びっくりです! マッシュくんは私の婚約者ですよ! とーっても素敵な人なんですけど、本当に知らないんですか? まぁ彼の良さは私だけが知っていても全然いいんですけど、どうしてもって言うなら事細かに教えてあげてもいいですよ!」
     そう言って、どうしてもなんて一言も言っていないのにマッシュの本当に細かい情報を延々と語り出したのだという。
    「何か目が怖かったし、逃げようとしたんだけどその子の魔法で拘束されて……」
    (初っ端から人選ミスが凄いな)
    「僕の個人情報が知らない人に漏れてる……」
     違う所でマッシュもショックを受けていた。
    「ようやく解放されて、次に会った子にも勧誘をかけてみたけど……『ねぇ私のこと好き?』とか『私って可愛い?』しか言ってくれなくて……いや可愛い子だった! だから可愛いって言ったのに、満足してそのままどっかに行っちゃって魔法少女にはなってくれなかったんだ……!!」
     またまた心当たりがありすぎる人物像にフィンが遠い目をする。なぜよりによってあの二人に声をかけたんだ。個性が強すぎる。その時の様子を思い出していたのか、円らな瞳から滂沱の涙を零す生き物が血を吐く様に言った。
    「三人目にも断られたら心が折れる……!! だから落とし物作戦に切り替えたんだ」
    「諦めが早いのか往生際が悪いのかわかんないな。そこまでして女の子に変身させたいの?」
    「欲しいに決まってんだろ!! そのためにウン十年かけてこのコンパクトを開発してきたんだぞ!!」
    「あ、それ自作なんだ……」
     キラキラして可愛らしい物に見えていたが、そう知ると一気に執念じみた何かを纏っているように感じてくる。だが、マッシュは違ったようだ。なぜか感心している。
    「その手で器用なもんですな」
     言われてみれば、人間の指とは違って短くバラバラに動かしにくそうな手(いや前足か?)をしている。まさしく見かけによらないなと思っていたら、生き物が爆弾発言をした。
    「いや、作った時は人間だった」
    「えっ!?」
    「コンパクトを完成させるのに時間がかかりすぎて、魔法少女を世に送り出す前にぽっくり逝っちまったんだ……。しかしオレの無念を神が哀れに思って下さったのか、気づいたらこの姿になっていた。お陰でマスコットとして魔法少女を傍でサポートできる! おお神よ、感謝します!!」
    「ちょっと待って、じゃあ魔法動物じゃなくてお化けってこと!?」
     ゾッとして思わず距離を取る。神がどうとか言っているが、内容からしてどう考えてもこの世に未練たっぷりの怨霊の類にしか思えなくなった。
    「マッシュくん、放した方がいいよ。お化けだよ!」
    「お化けじゃない! どう見ても可愛いマスコットだろうが!!」
    「か、可愛い……?」
     まさかの自己認識に改めてまじまじと自称マスコットを見るが、やはり何かわからない不思議な生き物でしかなかった。
     いやどう見ても可愛くはないだろ。
     そう思っていると、二人のやり取りを聞いていたのかいなかったのかもよくわからない顔でマッシュが変身コンパクトを指さした。
    「お化けでもマスコットでもまぁどっちでもいいんだけど。とにかく君はこのコンパクトで人を変身させたいってことだよね」
    「え? いやまぁ人をっていうか可愛い女の子に可愛い格好で戦って欲しいんだけど」
    「どうやって使うんすか、これ」
    「え、ああその真ん中のハートを押すだけ」
     ぐいぐい押すマッシュに流されたマスコットが戸惑いながら短い指でカットされて盛り上がっている真っ赤なハートの宝石を示した。刹那、マッシュの人差し指がそのハートを貫通する。
    「!?」
     いきなりの行動にフィンとマスコットが息を呑んだ。だが、マッシュは「あ、しまった。勢いよく押しすぎた」と慌てて人差し指を引き抜く。その衝撃のせいか最初の一撃でかはもはやわからないが、バカッとコンパクトが真っ二つに割れた。
    「あっ」
     まずいと言わんばかりの声を上げて、マッシュが割れたコンパクトを掴んで元に戻そうと力を籠める。そんなことをすればもっと壊れていくに決まっていた。めきゃめきゃと不穏な音を立ててコンパクトが無残に形を失っていく。
    「ア……ア……オレのコンパクトが……」
     呆然とするマスコットに、マッシュはずーんと落ち込みながら「ごめんなさい……」と素直に謝る。
    「とにかくコンパクト使えば満足できるかなって思って……」
    「それで押しちゃったの!? こんな怪しいものホイホイ押したら危ないよマッシュくん!」
    「まあ変身するくらいならいいかなって」
    「女の子の格好だよ!? もうちょっと考えて行動しなきゃ駄目だって!」
    「ごめん……」
     思わず叱るフィンに、マッシュはやはり陰鬱な空気を背負いながら素直に謝るばかりだ。その殊勝な態度に、そう強く出られなくなる。
    「まぁ、何も起こらなかったからいいけど……」
     押すという行動は一応マッシュもしたはずだが、恐らくコンパクトが正常に作動する前に壊されてしまって起動しなかったのだろう。しかしそうなるとマスコットの反応が恐ろしい。何せ何十年もかけて作り上げ、死んだ後も思い込みで自身の姿を変えるほど『魔法少女』という存在に執着していたのだから。
     本当に怨霊みたいになって襲ってきたらどうしようと恐る恐る未だマッシュに首根っこを掴まれたままのマスコットを見る。
    「え……」
     さらさらと、よくわからない生き物をした体が砂のように崩れ始めていた。呆然とコンパクトを見つめたまま、どんどんその姿がなくなっていく。そうしてあっという間に消えてしまった。
    「え……成仏したってこと……?」
     あまりの展開にフィンも呆然としていると、マッシュはなぜか満足そうに頷いた。
    「終わりよければ全て良しってやつですな」
     止めを刺した張本人が言うと素直に同意しにくいが、確かに明らかに様子がおかしい存在がこの世に残り続けるより何事もなく成仏してくれる方がいいに決まっている。だからフィンも「そうだね」と頷いておいた。
    「あっ! そうだ、授業!」
     何だかよくわからないことに巻き込まれそうになっていたが、薬草園に行かなければいけないことを思い出して慌ててマッシュを促す。
    「やばいやばい、遅刻になっちゃう! 早く行こうマッシュくん」
    「それはまずい。急がないと」
     あわあわと立ち上がったマッシュが、ひょいとフィンを抱え上げる。
    「えっ?」
    「じゃ行くよ、フィンくん」
     じっとしててね。
     その言葉に嫌な予感しかしない。
    「ちょっ、まっ……」
     制止の言葉は最後まで紡ぐことはできず、すぐに悲鳴へと変わったのだった。
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