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    なかむろ

    @BoGinaco

    真桐🐍🐉相手左右固定です

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    なかむろ

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    お酒を飲む兄さんが気になる桐生ちゃん。

    まきりのWebオンリー4で公開していた小説です。

    ##うぇぶおん

    しらない微笑み 酒を飲んだ時の兄さんはやさしい。

     べつに普段が悪い人というわけではない。相変わらず言動は読めないが、なんだかんだ俺のことを気にかけてくれているし、頼りになる人だ。
     ただ、酒が入ると……なんといっていいのか、甘ったるいのだ。
     それに気づいたのは約一ヶ月前。例によって喧嘩をふっかけられた後、なんと呑みに誘われたのだ。喧嘩の後は大体スッキリした兄さんが陽気に去っていくか、情けない俺の姿に苦言を呈してそのまま解散するばかりだった。そういえば真島の兄さんと酒を飲んだことはなかったな—一方的に酒を飲まされぼったくられたことはあるが—と思い、快諾した。
     行きつけのバーがあるというので大人しく着いて行く。道中の様子はいつもと変わらなかったように思う。誘ったことについて話題にあがらなかったし、俺もただ珍しいこともあるものだと気に留めなかった。
     そのバーはカウンターのみで、他に客はいなかった。地下にあるのと、表の看板があるようでないようなものだったので多くの人は存在に気づかないのだろう。兄さんは勝手知ったる様子で注文し、店内を眺めていた俺の分まで用意してくれた。
     場所故か、いつもよりトーンを落とした口調だったと記憶している。話だって他愛のないことだった。しかし、やたらと俺の世話を焼くのだ。酒は足りているか、つまみはこれがうまい、俺の酒も試してみるか、とか—。酒を飲み始めた若者や女性相手なら分かる。とても紳士的だ。しかし現実は同世代の男で、もちろん酒だって飲み慣れている。なぜこんなにも気にかけるのか。
     見慣れない仕草に戸惑い警戒してしまったが、不快ではなかったので厚意に甘えることにした。しばらく酒と会話を楽しんだ後、またなと言って別れた。真島の兄さんの静かな姿を知る貴重な機会だった。
     それからも変わらず奇襲を受け絡まれる日々だったが、喧嘩の後に食事や呑みに行くようになった。先日のようにバーで酒を嗜むほか、居酒屋や焼肉など食事を楽しむことも増えた。食事の席でも酒を飲む。やはり酒を飲んだ時の兄さんは俺を甘やかす。注文は全部やってくれるし、折を見て肴に合う酒を追加する。もちろん焼肉なんて食べ頃の肉を取り分けてくれる。しまいにはタイミングよく口直しのデザートを頼むくらいだ。
     人と食事をするとこうなるのかと思ったが、ラーメンなど酒を飲まなかった日はいつもの兄さんだった。早く食え、食後の腹ごなしに喧嘩しようとか、やかましかった。

     やはり酒を飲んだ時の兄さんが俺にやさしいのだ。

     兄さんは自分で気づいているのだろうか? 深酒もしていないし記憶がないなんてことはないだろう。昔からああなのだろうか。誰が相手でも、周りに人がいたとしてもああなのか。兄さんにとってはいつものことだから俺には何も言わないのか。

     じゃあ急に俺を誘ったのは何故なんだ?

     最近は兄さんに誘われると少し気が重い。なんだってこんなに俺が気にしないといけないのか。結局兄さんに振り回されているではないか。しかし断れない。だって兄さんとの酒は楽しい。酒はうまいし、兄さんの話も面白い。兄さんと平穏な時間を過ごすなんて貴重だ。思い返せば親しいと言える兄貴分が俺にはいなかった。柏木さんが思い浮かんだが兄貴分とはちょっと違うし尊敬する目上の人だ。気の置けない関係ではない。どちらかというと兄さんは錦といる時みたいに気が楽だが、錦は家族のようなものだから違う。二人とも俺によくしてくれたが兄さんのそれとは少し違う気がする。
     酒の入った兄さんは俺に甘い。それが分かるせいか、俺は心地よさを感じるとともに緊張もしている。なんというか、女性をエスコートするような甘さなのだ。それであんな態度だから、まるで口説いているみたいじゃないか。


    「桐生ちゃん、お酒付き合ってや」

     また誘われた。正直喧嘩をしている時は兄さんのことを考えなくていいので楽だ。喧嘩相手が兄さんなのにおかしなことだ。しかし喧嘩の後誘われると一気に現実に戻って少し憂鬱になる。どうして俺も断らないのか。なぜ誘う理由を聞かないのか。
     今日はいつもと違う小洒落たバーだった。ビルの上階にあって、窓側の席なら夜景も楽しめそうだ。

    「桐生ちゃん、外見たいん?」

     え?と思う間もなく、ちょうど視線を向けていた窓側の席に連れられた。いつものようにバーカウンターに座るつもりだったので驚いた。どうしたんだと聞くと、ずっと外の方気にしてたからと言われた。どうやら店に入ってから早々に窓の方を見ていたらしい。礼を言い、腰掛ける。思った通り夜景がきれいだ。窓側の席もカウンター式になっているので、スツールに座るだけで正面に夜の神室町が一望できる。夜景を肴にするとは気障ったらしいが、たまには悪くない。

    「お気に召したようやな」

     隣を見ると、兄さんが笑っていた。笑うというより微笑むが正しいか。目を細めて、口元が緩く弧を描いていた。兄さんが目を細めるのは獲物を前にした時だ。もちろん喧嘩の。でも今日の顔は知らない。なんだその愛しいものを見るような目つきは。俺の錯覚か? それなら誰か早く教えて欲しい。





     あれからもやもやして気分が晴れない。たまたま酒を飲んだ兄さんが口説いてるみたいだと思った時だった。たまたま夜景が見える雰囲気のいいバーだった。たまたま兄さんがそういう顔をしていた。偶然が重なっただけだ。ではなぜこんなに気にかかるのか。俺には分からない。

     ふと気づく。なんで兄さんのことで四六時中悩まなければならないのか。ただでさえ頭の中に声が聞こえてくるのに。そう思うと急にあの微笑む顔が憎らしく感じるから不思議だ。問いただしてやる。そうだ、聞けば兄さんはなんだって答えてくれるじゃないか。何を一ヶ月も躊躇していたのだろう。

     真島組の事務所に向かっている途中近くで西田に会った。せっかくなので酒の席での兄さんについて聞くと、普段と違って比較的大人しくとにかく気が回るらしい。組員が使い物にならないので、ひとり静かに飲んでいる兄さんが店にも気を配り、席の後始末をして潰れた組員を返してやるそうだ。スマートで格好いいんすよ、滅多に見られませんよと西田は嬉しそうだ。自慢なのだろう。親父がいる酒の席で部下が潰れるなんてことあるのだろうかと疑問だが、真島組は組長があれなので組織自体他とは違うようだ。飲み会のときは兄さんも部下が可愛いのかもなと言うと、そういう感じではないらしい。部下に好きにさせているだけで、話を振られない限りほぼ無表情で黙って飲んでいるらしい。店に迷惑がかからない程度を見定めているようだとのこと。西田は側近なので酒の席でも会話が多い方だ。その西田が言うのならそうなのだろう。俺の知っている酒を飲む兄さんと違う。サシ呑みかどうかの違いだろうか。
     あまり収穫にならなかったなと思いつつ組長室まで歩を進める。ノックして扉越しに声をかけると、ど〜ぞ〜と気の抜けた声が聞こえた。中に入ると、兄さんは行儀悪く椅子に腰掛けてバットを磨いていた。書類が山積みになっているのが見えたのだろう、俺の後ろで西田が頭を抱えているのが分かった。話を通してくれた彼に礼を言い、兄さんの前に腰を下ろす。

    「珍しいのう、桐生ちゃんが事務所に来るなんて。ワシに会いたかったか? ヒヒッ」

     まあそうだなと肯定すると、少しだけ目を見開いた。どうして最近食事や酒に誘うのか聞くと、桐生ちゃんと一緒にいたいから♡とぶりっ子されたので睨みつけてやった。えーんひどい、嘘じゃないのにとまだ続けるので帰ろうとすると流石に引き止められた。

    「せっかくやんけ、帰らんといて」

     あんたがふざけるからだろと釘を刺す。先を促すと、少し考える素振りを見せた後、敵情視察だと言った。シノギかそれとも抗争があるのかと身構えるが、そんな俺の動揺は続く兄さんの発言で更に増大した。

    「落としたい奴がおる」

     流石の俺でも喧嘩沙汰の意味でないことは分かった。そうか、口説きたい相手がいて下見に俺が連れ出されていたわけか。確かにその理由であれば俺に言いづらいだろう。連れが俺なら仮に相手に見られてもダメージがないし、そもそも一緒に入った店だって男二人でも違和感のない店ばかりだから第三者からも不審がられない。さすが兄さん、抜かりない。
     合点がいった。頭の中ではものすごいスピードで理解が進んでいる。なのに指先が冷えていく感覚がある。心なしか耳が遠い気もする。兄さんの声が聞こえにくい。耳鳴りだろうか。

     どうして俺なんだ?

     デートの下見、それっぽくない相手、いくらでも誤魔化せる練習台。
     じゃあなんであんなに世話を焼いた? 甲斐甲斐しく俺を気にかけ、エスコートし、甘い声で囁く。
    実験なのか? 相手は相当な脈なしなのだろうか。だから同性の俺でテストして、俺の反応で感触を確かめていたのだろうか。
     いつも兄さんに俺はどう見えていたのだろう。

     なんで嬉しいと思っていたのか。


    「帰る」


     そのまま事務所を後にした。まったく記憶がないが気づくとセレナのソファで寝転んでいた。さっきは指先が冷たいと思ったが、今は鼻先がツンと痛い。

     あれから何をする気にもなれず、いけないと思いながらもセレナから出られなかった。
     しばらくして気分転換にバッティングセンターでも行くかと思い立ったが、なんとなく兄さんに鉢合わせる気がしてやめた。兄さんに会いたくない。幸いなことにセンサーを駆使してタイマンを避けることはできた。しかしチンピラとの喧嘩に兄さんが乱入してくるのは防ぎようがない。

    「久しぶりやなあ、桐生チャン! さみしかったでえ〜」

     気が乗らない。集中力を欠いているのが自分でも分かる。案の定負けた。

    「ようやく会えたしごはんいこ!」

     ニコニコと誘われる。俺は初めて断った。兄さんの嬉しそうな顔を思うと少し胸が痛んだ。
     断られると思っていなかったのだろう、兄さんは目を丸くしてなんで?と執拗に聞いてくる。気分じゃないと言っても信じてくれない。

    「なんやお前変やぞ。この前も真っ青な顔して急に帰るし。体調悪いん?」

     事務所に行った時のことだ。動揺が顔に出ていたらしい。でも体調が悪いのはそうかもしれない。確かに指先が冷たかったし耳鳴りもしていた。体調不良で気分が落ち込むのもよく聞く話だ。

     気分が落ち込む?

     落ち込んでいるとは気づかなかった。兄さんのことを考えるともやもやするし、外出したら兄さんと会いそうで億劫だった。兄さんに会いたくないのは喧嘩したくないからかと思ったが、なにか違う気もする。
     ぐるぐる考えていたらほっぺをつままれた。強く引っ張られて痛い。

    「なにを一人で百面相してんねん。体調悪くなさそうやし付き合えや。今日はワシが勝ったんやから言うこと聞け」

     むう、勝敗をダシにされたら断れない。しょうがないので久しぶりに兄さんに付き合うことになった。

     今日は定食屋だった。まだ日も明るいので酒はない。兄さんは最初静かだったが、少しするといつものようにおしゃべりになった。食事もおいしい。そういえば兄さんに連れられる店はどこもおいしくていい店だったな。

    「ご機嫌になったな」

     酒なんて一滴も飲んでないのに、あのときと同じ顔をして兄さんは笑った。





     兄さんとの付き合いは表面上元に戻った。しかし酒の席はもう楽しくない。口説きたい奴がいるならその人を誘えばいいではないか。いつまで俺で試すのだろう。その人の話を一切しないので、俺はただ食事と酒をご馳走になるだけだ。そもそも脈なし相手の実験用である俺に裏が割れていたら意味がないのではないか。


    「兄さん、呑みに連れてけ」

     考えるのが面倒になったので今回も聞くことにした。事務所でドスの手入れを始めようとしていた兄さんは、突然の来訪と命令に文句も言わず、道具を丁寧に片付けた後飛び上がって喜んだ。
     俺の希望で最初に連れてきてもらった小さなバーへ。特にこだわりはないが、落ち着ける場所がいいと思ったのだ。とはいえ話したいことがあると啖呵を切ったものの、いざ聞くとなるとどう言えばいいのか迷ってしまい、口を開いては噤んでいた。酒ばかり進む。兄さんは俺が話し出すのを待っていてくれたが、あまりにペースの早い俺を見かねて静止の声を上げた。

    「桐生ちゃん、ちょおペース早いんちゃう? 焦らんでも兄さんここにおるで」

     それだよそれ。しょうがない奴だって顔をして俺を見るな。聞いたぞ、組の飲み会じゃあ我関せずで飲んでるらしいじゃないか。なのに俺の世話を焼くのは何故なんだ? 兄さんと出かけるの楽しくて、嬉しかったんだぞ。デートの下見に俺を使うな。使うならちゃんと説明してくれ。何も言わないで連れ出すな。なんで俺なんだ。

    「桐生ちゃん?」


     俺に優しくするな。





     気づいたらセレナのソファだった。最近こんなことばかりだなと呆れる。今回もまた記憶がないが、やはりペースが早くて酒に潰れたのだろう。結局兄さんと話ができなかった。さすがに迷惑をかけた自覚があるので謝らなければ。

    「起きたかあ?」

     聞こえるはずのない声に体が固まる。カウンターから水を持ってやってくる兄さんの姿が見えた。なぜここに? まさか店から運んでくれたのか? 顔に出ていたのか、兄さんは吹き出していた。おう、お姫様抱っこして連れてきてやったわ。さすがに嘘だ。言及せず、介抱してくれたことに礼を言う。それと、迷惑をかけたことと話ができなかったことを詫びた。

    「ちゃんと話聞いたで?」

     ここ数日で一番びっくりしたと思う。まったく記憶がない。せっかく兄さんの真意を聞くチャンスだったのに。
     すまない、覚えていないと謝ると、どうも話をしたというより泥酔した俺がずっと管を巻いていたらしい。それはそれで情けないし恥ずかしい。一体何を口走ったのか。

    「ヒヒッ、まーた百面相しとる。静かなくせに忙しいやっちゃな」

     水を受け取り、飲み干す。少しだけ冷静になった気がして、何を話したのか恥を忍んで聞くことにした。

    「まずな、桐生チャンは勘違いしとる」

     兄さんは隣に腰掛けて、俺の顔を覗き込むように見つめて話す。

    「ワシは口説きたい奴がおるとは言うてへんで」

    ? なんだと?

    「落としたい奴がおると言うたんや」

     おんなじじゃねえかと返すが、全然違うとのこと。曰く、口説きたいだったら今から行動を起こすが、落としたいはそう限定されないのだという。これから口説くかもしれないし、一方で口説き始めてるかもしれないだろうとのこと。あんまりピンとこない。じゃあ兄さんはもう口説いてたのか聞くと、そうだと言われた。また鼻がツンとした気がする。いや、口説き始めてるのであればそれこそ俺はいらないんじゃないか。

    「鈍ちんやなあ」

     また例の顔で笑われた。喧嘩じゃないのに目を細めて、愛おしそうに笑う。

     愛しいって

    「…えっ」

    「おまえやおまえ、桐生ちゃんのこと口説いてんの」

     呆けていると兄さんの顔がさっきより近いことに気づいて身じろぐ。

    「なんで俺なんだとか、優しくするなとかぶつくさ言うとったけど、俺が好きなんは桐生ちゃんなんやで。好きな奴は甘やかしたいし優しくしたいやろ」
    「いや、なんで、俺、だって」
    「桐生ちゃんの好きなとこ? まずはごっついとこやろ、ほんで一本芯が通ってるとこも好きや。おまけに別嬪さんやしなあ!」

     けらけらと楽しそうにマシンガントークが始まった。俺は動揺してろくに話せないのに何故こちらの聞きたいことが分かるんだ。

    「お人好しなとこもええけど、危なっかしいからのう。お前どっか行ってしまいそうやから、…俺が捕まえておかんと」

     兄さんの右目に射抜かれるようだった。強い眼差しに動けずにいると、両手を絡めとられた。


    「桐生ちゃん、好きや。俺の恋人になって」


     バーで聞き慣れた、甘い囁く声だった。
     心地よいと感じていたそれは最初からずっと俺に向けられていたものだったのだ。きちんと返事できたのか分からない。声を出せた気がしないから。分かったのは、兄さんがあの微笑みを見せて俺の唇に触れたことだった。





    「腑に落ちないことがある」

     兄さんの念願が叶い、恋人になった。一方酔いも動揺も覚めてかなり冷静になった俺は、聞き忘れていたことを思い出した。なぜ酒に誘ったのか、だ。今思うと露骨に口説かれていた。ただ弟分と酒を飲むだけならあんなに面倒を見なくてよいのだ。そもそも日中はそんな素振りを一切見せず、いつもの少し鬱陶しい兄さんだった。

    「俺は普段からアピールしてたで? でもお前冗談やと思ってなーんも気にしてなかったやろ。俺は嘘は言わん」
    「え…」

     確かに、一緒にいたいとかさみしいとか言ってたような気がする。それに兄さんが嘘をつかないのは俺もよく知っている。
     やっぱりな、というように兄さんは苦笑している。
     とにかく俺に意識してもらうため、酒を飲むという初めてのことに誘い、そのときだけいつもと違う姿を見せていたという。そして俺はその目論見通り、まんまと兄さんが気になってしまったのだった。

    「ま、これからはそんな小細工せんとぜーんぶぶつけたるわ。桐生チャンは相当な鈍ちんやから、ちゃあんと言わなまた勘違いしそうやしな」
    「う…」

     こちらはまだ自分の気持ちに気づいたばかりなのだ。お手柔らかにお願いしたい。うろたえていると、夜景の見えるバーにまた行こうと誘われた。

    「外を眺めるお前の目がまた見たいんや。普段のお前の瞳も好きやけど、夜景でキラキラ光ってきれいやった」

     恋人になったんやから、もっとじっくり見せて。

     目を細めて微笑む。この表情を見るのは何度目だろう。そういえば、初めて見たのは例の夜景が見えるバーだった。さっきようやく分かったが、愛しいものを見ていたのだ、実際。知らなかった、兄さんがそんな表情をするとは。静かに酒を飲む姿も珍しかったが、柔らかい表情もできるなんて。しかもそんな貴重な姿を見せるのは俺だけ。全部俺のためだったのだ。
     これは本当に真島の兄さんなのか? キャパオーバーだ、これが全部ぶつけるということか。自分の顔が熱くなっているのが分かる。時折兄さんが俺の頬を撫ぜる。ひんやりして気持ちいい。あ、手袋してないの初めて見たな。

    「ヒヒッ、これからは朝から夜までめいっぱい優しくしたるでえ」

     もう酔いは覚めているはずなのに、酒を飲んだ時みたいに意識がぼうっとしている。心地よい。しかし先ほどと異なり、今度ははっきり返事ができたと分かる。頬を撫ぜる兄さんの手に自分の手を重ね、目を閉じた。



    おわり
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