寝ぼけてる話寝惚けている話
「……さん、兄さん、起きてる?」
もう夜も更けている時間。
就寝する為の寝支度をちょうど済ませた時、扉の外で申し訳なさそうに自分を呼ぶ声が聞こえた。
「どうした?」
扉を開けて声の主に呼びかける。随分前に寝たはずの幼い弟が目に涙を滲ませて申しわけなさそうに眉を下げてこちらを見上げていた。
「……こわい夢見ちゃって」
怖い夢を見てしまった。また怖い夢見てしまうかもしれない。だから1人で眠るのが怖い。
不安でか細くなった声の説明を聞き終えると、安心させるように微笑んだ。
「そうか、こちらへおいで」
弟を自分の部屋に招き入れ、しっかりと扉を閉めた。
まずは自分が布団に入り、奥に体を移動させ、空いている自分の隣へ弟を寝かせる。掛け布団をしっかり肩までかけてやり、背中をとんとん、とゆったりしたペースで優しく叩く。
「もう悪い夢は見ないから、安心して眠るんだ」
「うん……ありがとう兄さん。えへへ、あったかい」
さっきの不安そうな顔は嘘のように、にこにこと笑った。しばらくくっついている弟の背中を叩いていると、安心したようで夢の世界へ入ったらしく、すーすー、と寝息が聞こえてきた。
あたたかいのはお前の体温が高いからだ。
そう思いつつ、ゆるやかな眠気がきてまぶたを閉じた。
こわくない、こわくない。
弟がいい夢を見られますように。
「……ん、宗雲」
自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
ぼんやり目を開く。
「、う……?」
なんだ。また怖い夢を見たのか。
宗雲は完全に夢と現実が混同していた。ここにはいない幼い弟を呼ぶように、手を伸ばして布団をたたく。
「はは、寝惚けているのかい?」
くすくすと男は笑った。定休日なのでゆっくりしようと宗雲のいくつか持つ別宅の部屋に泊まりに来た浄だ。
情事を終えて片付けをしている間に、宗雲は疲れて眠ってしまったらしい。寝るならちゃんと枕の方に移動して、あともう少し奥にずれて欲しいので、少し起きて欲しい。そう思って呼びかけたら宗雲はだいぶ寝惚けていた。布団を力なく叩く。
「どうした?」
ベッドに乗り上がり、宗雲の方に体を傾けると、そのまま胸に浄の頭を抱え込んだ。
普段の彼なら絶対しない行動に驚く。
「こわくない、こわくない……」
静かにされるがままになっていると、小さな声であやすような声が聞こえた。
「おいおい、誰との夢を見ているのやら」
どうやら宗雲の見ている夢に自分はいないらしい。
とんとん、とゆっくりしたリズムで背中を叩かれる。幼子を相手にするような抱き方は、レディにもあまりされない抱かれ方だ。
自分を夢の中の子どもと勘違いをしているようだった。
だが悪くない。
力は弱いため、簡単に抜け出すことも出来るが、そんなことはしない。今日はもうこのまま寝てしまおう。
(朝起きたらどんな顔するかな)
きっと驚くだろう。いつもは涼し気な男も困惑でいっぱいの表情になることだろう。朝一番にその表情を見るのが楽しみだ。
いたずら心のまま、宗雲の胸の中で眠りについた。
朝。
宗雲は眠りから目が覚めた。
なにか違和感がある。胸のあたりがくすぐったくて、暖かい。
「!?」
宗雲は視線を下にずらして驚愕と困惑をした。いつもは自分を背後から包み込むように寝ている浄が、自分の胸の中で眠っていた。
一体なぜこのような形になったのだ。
「?、?浄……?」
驚きと困惑のあまりに上擦った声が出てしまった。胸の中にいる浄へ呼びかけると、くすくすと浄は笑った。
「はは!なんて声出してるんだ」
いたずらが成功した子どものように嬉しそうに笑う顔に、思わずため息が出た。
「……浄。随分と甘えたのようだな」
呆れた声を出すと、おいおい、と眉を下げて浄が笑った。
「違うよ。お前がやったんだよ」
「俺が……?」
まさか指摘にさらに困惑する。自分から浄を抱いて寝た?何故?そんなことはしないが、と思ったところで夢を思い出した。昔、怖い夢を見てしまった弟と一緒に寝る夢。
どうやら自分は盛大に寝惚けてしまったらしい。 ちゃんと起こして欲しかったが、イタズラ心に火をつけた浄が起こすわけがなかった。
何故この状況になったのか、すべてに理解をした宗雲はさっきより深いため息をつき、起き上がろうと体に力を入れようとした。
「おっと」
その瞬間、ぐいっと強い力で腕を引っ張られ、呆気なく浄の胸の中へもたれこんだ。
「っ、浄!」
なにをする。じろりと睨むが、甘ったるい視線を返される。
「つれないじゃないか、昨日は熱烈だったのに。まだ早いよ。今度は俺がお前を胸に抱いて寝てあげよう」
浄はわざとらしく宗雲の耳に甘い囁きを吹き込み、頭と肩に腕をまわす。
「いらん」
胸を押し返そうとしたが、強い力で抑え込まれてしまっていた。
「おお、よしよし。寝ぐずりが酷いな」
「……」
この男、わざとらしく子ども扱いしている。とんとんと背中を叩く手は、子どもの扱いが苦手な浄らしく、どこか雑だった。ちょっと力も強い。下手くそだな。
そう思いつつも何故かまぶたが重い。肌を重ねるようになってから、この男の胸の中は何故か安心してしまうのだ。そういう風に体が馴染んでしまったのだ。
だから、別に寝ようと思っているのではない。こんな寝かせる気のない寝かしつけなど、寝れたもんではない。
まあ、何を思おうと結果、二度寝したことには変わりないのであった。