罰かご褒美か仮面カフェに来た俺は、エージェントと宗雲の誤字の話になった。
あいつは本当によく打ち間違える。クラス内の連絡でも、個人的な会話でも、関係なく誤字をする。
宗雲と恋人となった今では、誤字によって会話でのいい雰囲気を台無しにされたこともある。
「宗雲さんの誤字、読み解くの面白いんですけどね。結構頻発しますよね」
「今日はどれくらい誤字してた?」
エージェントはスマートフォンを取り出した。宗雲との会話チャットを確認しているのだろう。
「さっきの連絡では三回でしたね」
「へえ、三回か……」
確かに誤字は多い。
別に直してほしいわけじゃないが、打ち間違いが減ったほうが、時間のロスは少ないだろう。
そうだ、誤字をするたびに罰ゲームをしよう。
イタズラ……いや、彼にとっては罰だ。
どっちでもいい。とにかく、戯れをひとつ思いついた。
「誤字するたびに罰ゲームね」
「いきなり何の話だ」
宗雲との逢瀬の時間。
風呂に入った後、告げた。
「打ち間違いによる誤字を一つするたびに一分だ。打ち間違い直すきっかけになるよ。エージェントとのやり取りで三回したらしいね。じゃあ、三分かな」
「だから何を――」
矢継ぎ早に言って、有無を言わさず宗雲に口付けをし、早々に舌をねじ込んだ。
「っ、ん、……」
驚きで逃げる舌を追い、絡め、吸ったりした。
そうして宗雲の舌を弄んでいるうちに、三分経った。
俺からしてみれば短い時間だが、宗雲にとっては長い時間だったろう。
「はい、三分」
パッと手と顔を離し、宗雲の口を解放する。
何をされたのか理解しようと、息を整えながら考えている宗雲の様子をじっと見つめた。
呼吸を整えた宗雲は、じろりとこちらを睨みつける。
「……次は無い」
キスによって赤くなった顔で言われても、怖くはなかった。
それよりも面白いことを言う。打ち間違いばかりしている人間が、次は罰ゲームされることは無いと言ったのだ。
つまり、もう打ち間違いによる誤字はしない、と。
「へえ。頑張ってね」
多分無理だと思うけど、なんて余計な一言はきちんと喉の奥にしまっておいた。
「五分ね」
それから、たった二日後のことだった。
またしても、宗雲は打ち間違いによる誤字をやったのだ。
「………………」
「次は無いって言ってたのにね。残念だったね」
ムスッとした不満げな頬を、すり、と撫でてからキスをした。
今度は五分。前より二分も長くなっている。
「ん、……ん、ぅ」
何度も角度を変えて啄み、舌先で宗雲の唇をなぞり、そっと突き入れると、息を飲む気配がした。
その隙を縫うように舌を押し込み、逃げようとする舌を絡め取る。
鼻先が触れ合い、熱を帯びた吐息がこぼれる。
だんだんと漏れる声にも熱がこもり、甘くなっていくのを、気を良くしながら、招き入れられた咥内を舌で荒らす。
宗雲の背に腕を回し、引き寄せると、その体がわずかに震えた。
呼吸が苦しそうに乱れ、宗雲の肩が上下する。
それでも俺は舌を絡め、吸い、離さない。
宗雲が耐えきれず、俺の服を弱々しく掴んだ。
と同時に五分が経ち、口を離す。
口付けをして、潤んだ目と赤く染まった頬を見ていると、たまらなくなる。
「打ち間違い、減らせるといいね」
減らせそうにないけれど。今度もきちんと余計な一言は言わずに。
しかし、何回も罰ゲームをやっていれば嫌になってくるだろう。
冷静に確認するようにもなって、少しは減るだろう。
しかし、その後も誤字は減らなかった。
「誤字、全然減らないね。もしかして、わざとやってる?」
「わざとはやっている訳ではないが……別に直す必要も無いだろう」
目を伏せて、俺がキスしやすいように顔を傾けた。
罰ゲームなのに、むしろ望んでいるような仕草だ。
宗雲の耳がうっすら赤くなっているのを見て確信する。
「ああ、これ、宗雲には罰ゲームじゃなくて、ご褒美だったようだ」
誘われるままに口付けをした。
今度は七分。打ち間違いは増えている。
これで本当にわざとやっているわけではないのだから、手に負えない。
宗雲の口から時折漏れる甘い吐息に、小さく笑みをこぼした。