【伯チ】コンビニ行くけどなんか欲しいものある? コンビニ行ってくるけど何か欲しいものある? と玄関先で靴を履いている千鉱に声をかけられ、伯理は大きいクッションに預けていた身体をがばりと起こした。
「俺も行く!」
伯理はばたばたと慌ただしく立ち上がり、ハンガーに掛けられていた上着を引っ掴んでスニーカーを爪先にひっかけた。
「ごめんお待たせ」
「そんなに急ぐとぶつけるぞ、ハクリ」
「だって夜中にコンビニ行くのってなんかワクワクしねえ?」
「うーん……そうかな……」
「なんか罪! って感じするじゃん!」
罪……? と千鉱の頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのが目に見える。伯理からしたら、夜更かししたり、夜食を食べたり、夜中に出歩いたりすることが「罪」、要は悪いことだと思っているのだろう。それには千鉱も同感であった。
玄関のドアを開けて一歩外に出るともう冬の匂いがし始めている。日中はまだ暖かい日が多いが、夜と明け方は上着を羽織らないと肌寒く感じてしまう気温だった。
「寒いな」
「そうだな~。あ、チヒロ」
「なんだ?」
「肉まん食べたい、それかおでん」
「……作るか?」
「え、いいの!?」
「時間かかるけどおでんは作れる。肉まんは……材料と器具揃えないと……」
「いやいいよそこまでしなくて。コンビニで買おう、俺たまごとウインナー串食べたい」
肌寒くなってきたとはいえまだ十月下旬。肉まんはあるかもしれないがおでんはあるのだろうか、とぼんやりと考えながら二人でコンビニの灯りを目指した。
自動ドアが開くと同時にお馴染みのメロディが流れる。千鉱の隣で伯理はメロディに合わせて鼻歌を歌っていた。
「おでんまだやってないのか……」
「来週からだって」
「へぁ、本当だ。来週また来ような、チヒロ」
「そうだな」
伯理はウキウキでカゴを持って店内の商品を物色し始めた。千鉱が夜中にコンビニに来た理由といえば、ストックしておいた箱ティッシュのラスト一個の封を開けてしまったためである。封を開けてしまったとはいえ、一晩は余裕で過ごせる量ではある。なんとなく、深夜に散歩をしてみたかった、という理由もあった。柴が聞いたら、「アカンよチヒロくん!」と言いそうではあることだが。
「チヒロ~あったか?」
「あった。会計するからカゴ貸して」
「はい」
伯理が千鉱に手渡したカゴの中には、お菓子やアイスがいくつか入っていた。この時間からこんなに食べるのか……? と千鉱が伯理に目を向けると、意図を察したであろう伯理は親指を立てた。ウインク付きで。朝にシャルに見つかったら全部食べられるぞ、と思いながら千鉱は店員にカゴを手渡した。店員がぴ、ぴ、と商品のバーコードを読み込ませていくのを眺めていると、カゴの下の方に明らかにお菓子類ではない、透明フィルムに包まれた箱が入っていた。
「全部で千百二十円です」
「あ、はい」
明らかにお菓子類ではない箱を視界に入れてしまった千鉱の思考は、一瞬といえども彼方へ飛んで行ってしまったいた。自分が買うのは特に何も思わないが、まさか伯理が買うとは想定していなかった。それをできるだけ切らさないようにしていたから。
少し慌ててレジトレイに千円札と百二十円の小銭を置いてレシートを受け取り、店員にありがとうございましたと礼を言って自動ドアへすたすたと歩いて行く。
「あ、おい、チヒロ! 肉まん買ってない!」
自動ドアが開く寸前に雑誌コーナーにいた伯理に呼び止められ、ああそういえば忘れていたなと伯理へ小銭を渡した。
「外で待ってる」
「ん、わかった」
千鉱は努めて平静を装っていたが、耳が熱かった。きっと顔も赤くなっているのかもしれない。ああ、伯理にバレてなきゃいいな、多分大丈夫だと思うけど、と考えながら冷えるコンビニの外へ出た。
「チヒロごめんお待たせ……ってなんか顔赤くね?」
「寒いからだろ」
「まあ寒いよなあ。中で待ってれば良かったのに」
「……外の空気吸いたかったし」
「そか、じゃあ帰ろうか。あ、肉まん半分こしようぜ」
「いいのか?」
「当たり前だろ、ほら」
伯理の手によってぱかりと半分に割られた肉まんは断面からほかほかと湯気を立てている。はい、と手渡されたそれを受け取ると、冷えた指先からじんわりと熱が伝わってきて心地よかった。
「温かい」
「む、チヒロ! やっぱり顔赤い!」
「寒いからだって。ていうかハクリ、ついでにゴム買ったでしょ」
「あっ……」
今度は伯理がぽぽぽと顔を赤くして、口に詰め込んだ肉まんを頬張りながら両手で顔を覆った。
「もうストックなかったっけ」
「…………あと三つしかなくてぇ……」
「言ってくれれば安い日に買ってきたのに」
「いや、いつもチヒロに買ってきて貰ってるからさぁ……申し訳なくて……」
やっぱりハクリは可愛いな、と千鉱は少しだけ温くなった肉まんを囓った。
「帰ったらする?」
「い、いいのか? 本当に?」
「一回だけなら」
「一回かあ……」
伯理はうんうん悩んでいる。一回だけ、の約束で一回で済ませたことがないからだ。そして現在午前一時半。夜はまだ長いが、今から帰って準備して、と考えると微妙な時間ではある。
「……また、別の日でもいい……?」
「ん。わかった」
誰もいないよな、と伯理がキョロキョロと周りを確認して、千鉱に顔を近づける。千鉱は近付いてくる伯理の顔を左手で制した。
「ぁにすんだよ」
「誰もいなくても外だぞ、ここ。キスしたかったら帰ったらいくらでもしてやる」
「チ、チヒロ~!」
目をキラキラさせてこちらを見てくる伯理にぶんぶんと振れている尻尾の幻覚が見えた気がした。千鉱はやっぱり伯理は可愛い、と再度思う。しかし、情交中に見せる伯理の雄の顔がたまらなく好きなのだ。そのことを本人に言うつもりはないが、そのうちバレてしまうだろうなとは思っている。帰ってからキスしてやると言ってしまったが、キスだけで終わる気がしないのは恐らく伯理も同様だろう。明日何時に起きれるかな、とがさがさとビニール袋を鳴らしながら少しだけ足早に帰路についた。