【モ椒】たとえばのはなし「もし、俺が飛霄様の暗殺に成功したら、お前はどうする」
なんてことのない。いつも通り夕食を済ませ、後片付けに食器を洗うモゼの、すっかり広くなった背をぼんやりと眺めて茶をすすっていた。そんな、食後のひとときのこと。
穏やかな空気が漂う部屋に似つかわしくもない不穏な単語に薄く目を見張れば、きゅっと蛇口をひねったモゼがこちらを振り返った。
「それは、君が将軍を手にかけたら、と。そういう話ですか?」
「そうだ」
頷きながら向かいに腰を下ろした男に、手元にある湯呑を包み持つ。
彼の言う『もしも』は、正直想像しがたいものがあった。
彼女がモゼを連れ帰ってから、もう随分になる。幼かった子供は、文字通りすくすくと育ち、今では3人で並べばひとりだけひょっこりと頭が出るくらいだ。育った身体に見合った筋力も身に着け、日々鍛錬を怠ることはない。
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