少し大人になった君も恐ろしい青リンゴの匂いのもの増えたなーとかそんな。丸井くん元気にしてるかなとかそんな。
青リンゴのグミやガム、歯磨き粉に、シャンプー、ヘアワックスまで並ぶスーパーを見て中学の頃にあんなに好きだった赤髪のあの子のことを思い出す。
結局大学まで一緒だったっけなんて思うけど、大学になると学部が違うと顔を合わせることも姿を見かけることもなくなったあの男の子。
何気なく、青リンゴのグミに手を伸ばしかけたとき、視界の端に他の人の手が映る。
「あ、すみません。」
「こちらこそ、すみせん。」
短い言葉を交わしたあと、視線が絡む。
もちろん目の前の相手は期待したあの人ではなく優しげな顔の女の人だった。
その人は、伸ばしかけた腕を引っ込め通り過ぎていく。
「いるはずないんだよなー。」
そう、口に出しグミを手にしたとき背後から声がした。
「呼んだ」と。
その声に振り向くと、きれいな赤髪が目に入った。「い、え、人違いです。」
咄嗟に口から嘘が溢れる。
「なーんだ、勘違いだったのかよぃ。たまたま、見たことある顔だなーと思って追いかけてたのに。」
「たまたま、行くところ行くところで会うなーなんて思ってたのによぃっ」
その人は、頬を膨らませながら言葉を発し、私の様子を見て言葉をさらに言葉を付け足す。
「……丸井くんいつから…」
「スーパーに入るところ。」
「知ってたの」
「…まぁ、で、やっぱりオレのこと考えてたんだろぃ」
「私はほんとさっき。」
「…ふぅ~ん。」
興味があるのか無いのか丸井くんは軽い返事をしてから笑みを漏らす。
「それなら、別にいいけどさ。久々の再会だしどっかで話でもしねぇなっ☆」
きっと、丸井くんはあの頃からずっと変わらないのだろう。他意無く人を自分のペースに巻き込んでいく。
「丸井くんは今も昔も恐ろしい男だね。」
はは、と笑えば、何人の悪口言って笑ってんだよぃなんて丸井くんも笑った。