傘が苦手な、君と俺人間には得手不得手というものがあるのだろう。
歌が上手い奴がいれば下手くそな奴もいる。全てを得意とする人間なんてごく僅かだろう。
それに、別に他人の得手不得手なんて自分にとっては今まで大して興味のなかったことだ。
それが今、かなりピンチに陥っている…。
正直言ってここまでとは思わなかった。
「…下手くそにも限度ってものがあるとは思わないか」
「…はい、私も今自分に驚いております。」
そもそも、俺が傘を忘れたのが悪かった。だから黙っていたのだが二人で一本の傘を使うのがこんなにも大変な行為だとは思っていなかった。
「相合傘ってどっちかの肩が少し濡れるくらいだと思ってたんですが…」
「あぁ、そうだな。」
「しかもさしている側の配慮によるものだと。」
「…あぁ、俺もそう思ってた。」
「あの、糸師くん怒ってます」
「…どうして傘をさしているのに二人ともずぶ濡れなのかについて疑問には思ってるし、もういいから傘寄越せとも思ってる。」
並んで歩く女子の疑問に答えているうちに、つい本音が漏れる。
差し出される傘の持ち手を受け取るとまた歩を進める。
不格好な揺れ方をする傘の下で、相手は不意にくすくすと笑い始める。
「何だ」
「糸師くんもそこそこ下手っぴですね。」
「…」
「でも、楽しい下手っぴです。」
「なんだそれ。」
そうツッコむ俺の声も、なぜか楽しげに弾んでいた。