アサイーボウル 店内には甘い香りと、かすかに流れるジャズが漂う。窓際の席から差し込む午後の陽光が、テーブルの上でまだらな影を作っている。留三郎は時折、通り過ぎる人々の姿を眺めながら、伊作の戻りを待っていた。
「お待たせー」
聞き慣れた声に顔を上げると、伊作が困ったような笑みを浮かべて立っていた。手には注文したはずのクレープではなく、紫がかった鮮やかな色合いのボウルが握られていた。
「なんだそれ」
「アサイー……?って言うらしいよ」
らしい、ってなんだ。お前が頼んだんじゃないのか。
「いやあ、なんか店員さんが間違えちゃったみたいで」
席に着きながら説明を始める伊作に、留三郎は呆れたような表情を浮かべた。
「なんで言い直さなかったんだよ」
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