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    高間晴

    @hal483

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    ぼんど800字。バレンタインのチェズモク。

    ##BOND

    ■チョコレートよりも甘いもの


     よし、とチェズレイは決意を固めるとテーブルに手をついて、椅子から立ち上がった。
     今日は二月十四日。バレンタインデーだ。モクマも喜びそうなミカグラ料理のフルコースを出す店にディナーの予約を入れたし、渡すペアリングもしっかり確認した。あとはどうやってスマートにモクマを誘うか、だが。それについてはまだ何も考えていない。ちょっとその辺の道でもぶらついてこようと思ってセーフハウスの玄関まで来ると、モクマとばったり出くわした。
    「あぁ、おかえりなさい、モクマさん」
    「ただいま~っと。……えーと、チェズレイ」
     モクマが左手で背後に何か隠しているのがわかった。またこっそり酒でも買ってきたのだろうかと思っていると、目の前に赤とピンクのハートでカラフルなラッピングのされた小さな包みが差し出される。
    「バレンタインおめでとう! ……ってのも変かな? なんて言えばいいのかおじさんわかんない」
     てへへ、と少し困ったような顔で笑うモクマ。それを目の前にしてチェズレイは彫刻のように固まってしまった。
    「あ、チェズレイ? どったの? ……あ、これね、チョコレートだよ?」
    「……モクマさんっ」
     感極まったチェズレイがモクマを抱きしめる。「わっ」とモクマは一瞬だけ驚いたようだが、おとなしくチェズレイの腕の中で抱きすくめられるままになっていた。
    「本当に、あなたにはいつも敵わない」
    「何の話?」
     きょとんとした声音でそう訊かれるものだから、チェズレイは何もかもが馬鹿らしくなってきた。ああ、自分はこのひとの前では唯一仮面を被らなくてもよいのだと。ぴったり合わせたお互いの胸から調子外れな心臓の音を感じるが、今のチェズレイにはそれすら心地よかった。
    「モクマさん。今日は外で夕食をとりませんか。あなたの好きそうな店に予約を入れたので」
    「えっ、本当かい? じゃあ一緒に酒も飲んでくれる?」
    「ええ、もちろん」
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