Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In
    - or -

    高間晴

    @hal483

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Gift Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 362

    高間晴

    ☆quiet follow

    敦太(未満)。

    ##文スト

    残り半分のスティックシュガー 敦はうずまきで珈琲を頼むと、必ずミルクとスティックシュガーを入れる。それを見ていて太宰は気づいた。彼はいつも半分だけ砂糖を残すのだ。向かいで同じく珈琲を飲み乍ら、それは孤児院時代の名残だろうなと太宰は思う。
    「ねえ敦君。砂糖いらないなら貰っていいかな」
     そう声をかけると、はっとした顔の敦と目が合う。
    「ど、どうぞ。そういえばいつも癖で余らせてしまってました」
     口を折りたたんだスティックシュガーの残りを敦の手から受け取り、太宰は微笑む。ブラックの珈琲に砂糖を溶かし乍ら、その琥珀色した水面を見つめる。
    「君は優しいから、孤児院でいつも小さな子に砂糖を分けてあげていたんだろう?」
    「なんで分かるんですか」
     心底驚いたらしい敦が訊き返す。孤児院では甘いものは貴重で、よく取り合いになるだろうと太宰は思ったのだ。
     太宰は「さあて。なんでだろうね」といつものはぐらかす調子で答える。それを受けて敦が少し不満そうな顔をする。
    「なんかちょっとずるいです。僕は太宰さんの事何にも知らないのに、太宰さんは僕の何もかもを知ってる」
    「凡てを知っている訳ではないよ。殆どは憶測」
     太宰はほんの少し甘くなった珈琲を啜る。二人が座るのは窓際の席。昼下がりの陽光が射し込んでいる。
    「……そうですね。僕が優しいっていうのは間違いです」
     敦はカップを置いて俯いた。不揃いに切られた前髪がその顔を半分隠す。
    「僕だって砂糖や飴やチョコレートみたいな甘いものは食べたかった。だけど自分より小さな子が争奪戦に負けて泣きじゃくる、その姿を見ていられなかった。まるで少し前までの自分を見ているみたいで耐えられなかったんです。だから僕は甘いものを分けてあげていた。つまり、僕は弱いんです」
    「それを世間一般では優しさとも呼ぶんだよ。弱さを知る人間は優しくなれるんだ」
     敦の顔が上げられる。その瞳は丸く見開かれていた。
     太宰が飲むその珈琲は、何時もよりも一層美味しいと感じられた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🍬
    Let's send reactions!
    Replies from the creator
    Hide ads with PoiPass!  

    recommended works

    高間晴

    DONEチェズモク。チェズの髪を切るモクの話。■ノスタルジーに浸って


    「モクマさん、私の髪を切ってくださいませんか」
     リビングのソファで、暇つぶしにタブレットをいじっていたときだった。スリッパの音が近づいてきたと思ったら、チェズレイがだしぬけにそう言う。モクマは一瞬何を言われたのか理解できなくて、チェズレイに訊く。
    「え? 何つったのチェズレイさん」
    「ですから、私の髪を切ってほしいと言ってるんです」
     チェズレイは、腰まで届くプラチナブロンドを揺らしながら言った。その髪は流れの半ばをモーブカラーの細いリボンでゆるく束ねている。思えば、はじめて会った頃よりだいぶ髪が伸びたものだ、とモクマは感慨にふける。って、そうじゃなくて。軽く頭を振って思考を呼び戻すと、アメジストの瞳が瞬いてふわりと微笑む。――モクマがこの顔に弱いと知った上でやっているのだから、たちが悪い。
     チェズレイはモクマの隣に座り、その手を取って白手袋の手で包む。
    「お願いします」
    「い、いや。人の髪を切るだなんて、おじさんそんな器用なこと出来ないからね?」
     モクマはチェズレイの手を振り払う。下手なことをしてこの可愛い年下の恋人の美しさを損なってしまうのが怖かっ 1901