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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    敦太800字。未遂。

    #敦太
    dunta
    ##文スト

    もう少しだったのに 太宰さんを捜していた。何時ものように匂いを辿っていたが、雨が降り出したので、此れは不味い、と焦った。此れでは雨が匂いの痕跡を流して辿れなくなってしまう。発見が遅れたら、自殺して居るかも知れない。
     僕は形振り構わず横浜の街を走って、あの人の居そうな場所を探す。
     喫茶店にも居ない。路地裏にも居ない。例の海が見える墓地にも居ない。
     何処だ……!?
     其処で最悪の結果に思考が至る。真逆、川か海……?
    「太宰さんっ! 何処ですか!?」
     大声で名前を呼ぶが、こういう時にあの人が返事をしてくれた事は無い。春先とはいえ雨は冷たく、僕の体温をどんどん奪っていく。鶴見川の雨滴が溶けていく水面を見つめながら、其の川沿いに海へと向かって走る。太宰さんの名前を呼びながら。
     そうしてどれだけ走っただろうか。海が見えてきた。ぞくっと腹の底が冷えて、嫌な汗が背中を伝うのを感じた。僕は繰り返し彼の人の名を呼びながら、躊躇わず海へ入る。余りの冷たさに鳥肌が立つ。だがそんな事に構って居られない。ざぶざぶと荒れる波を掻き分けながら目を凝らし耳を澄ませた。
    「……!?」
     今、あぶくのような音が聞こえた。本当に微かで、僕以外には聞き取れないだろう音が。
    「太宰さん!」
     大きく息を吸い込んで水面に頭から飛び込んだ。海の底に、砂色の外套が見える。あの人だ。蓬髪が揺らめいていた。水に潜って手を伸ばして、投げ出されている包帯の腕を掴む。瞬間、僕の方を向いた太宰さんの白い顔が、まるで眠っているように穏やかで。真逆、本当に死んでいるんじゃないか。そんな気がした。だから僕はその手首を掴む手に力を込める。良かった。まだ脈がある。急いで海面まで彼の人を引きずり上げた。水から顔を上げると反射的に息を吸い込み、意識を失っている彼の人の頬を平手で叩いた。
    「太宰さん!? 太宰さん!」
     瞬間、彼は咳き込み、水を吐き出した。其れが治まったかと思えば、濡れ張り付いた蓬髪の向こうから、震える目蓋が開かれた。鳶色の瞳が虚ろに僕へ焦点を結ぶ。其れは陽だまりで眠っている処を起こされた猫に似ていた。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。敵アジトに乗り込む当夜の話。■愛は勝つ


     とある国に拠点を移したチェズレイとモクマ。敵アジトを見つけ、いよいよ今夜乗り込むこととなった。「ちょっと様子見てくるわ」と言い置いて、忍者装束のモクマは路地裏で漆喰の白い壁の上に軽く飛び乗ると、そのまま音もなく闇に消えていった。
     そして三分ほどが経った頃、その場でタブレットを操作していたチェズレイが顔を上げる。影が目の前に舞い降りた。
    「どうでした?」
    「警備は手薄。入り口のところにライフルを持った見張りが二人いるだけ」
    「そうですか」
     ふむ、とチェズレイは思案する顔になる。
    「内部も調べ通りなら楽々敵の首魁まで行けるはずだよ」
     振り返って笑う顔がひきつる。その太腿に、白刃がいきなり突き立てられたのだから。
    「なッ……」
    「それじゃあ、今日のところはあなたを仕留めて後日出直しましょう」
     チェズレイは冷ややかな声で告げると、突き立てた仕込み杖で傷を抉った。
    「ぐっ……なぜ分かった……!?」
    「仮面の詐欺師である私を欺くなんて百年早いんですよ」
     それ以上の言葉は聞きたくないとばかりに、チェズレイは偽者の顎を下から蹴り上げて気絶させた。はあ、と息を吐く。
    「モクマ 820

    ▶︎古井◀︎

    DONE横書きで一気に読む用
    見えるモさんと祓えるチェのチェズモク洒落怖話
    「あ、」
     それに気付いてしまった瞬間、モクマは気付かなければよかったと心の底から後悔した。
     日の入り、夕暮れ、黄昏時――あるいはマイカでは逢魔が時、なんて呼んだりもする、そんな時間。
     モクマはとある雑居ビルの前で、別件で離れた相棒が戻ってくるのを待っていた。立ち並ぶ無数のビルが照り返す西日が妙にまぶしい。細めた目でふらふらと視線をさまよわせながら、ただ眼前の交差点を行き交う人の流れを追っていた。なんてことはない、相棒が来るまでのただの暇つぶしだ。本当に、それだけのつもりだった。
     最初に違和感を覚えたのは、横っ腹に突き刺さるような視線の濃さだった。多少ハデな風体をしていることもあって、モクマが街中でじろじろと見られること自体は珍しくもない。そんなときは大抵、その視線の主を見つけて目を合わせて、にっこり微笑んでやれば気圧されたようにその無礼者はいなくなるのだ。だからいつも通り、同じように対処しようと考えて、モクマは視線の大元を探してしまった。
     しかし今回に限っては、その行動は完全に誤りだった。探してはいけなかったのだ。そうとも知らず、モクマは送られ続けている視線と気配を手繰って周 5795

    ▶︎古井◀︎

    DONE春の陽気に大洗濯をするチェズモクのはなし
    お題は「幸せな二人」でした!
    「そろそろカーテンを洗って取り替えたいのですが」
     朝。さわやかな陽光が差し込むキッチンで、モクマはかぶりつこうとしたエッグトーストを傾けたまま、相棒の言葉に動きを止めた。
     パンの上で仲良く重なっていた目玉焼きとベーコンが、傾いたままで不均等にかかった重力に負けてずり落ちて、ぺしゃりと皿に落下する。
    「モクマさァん……」
     対面に座っていたチェズレイが、コーヒーカップを片手に、じっとりとした眼差しだけでモクマの行儀の悪さを咎めた。ごめんて。わざとじゃないんだって。
     普段、チェズレイは共用物の洗濯をほとんど一手に担っていた。彼が言い出しそうな頃合いを見計らっては、毎回モクマも参加表明してみるのだが、そのたびに「結構です」の意をたっぷり含んだ極上の笑みだけを返され、すごすごと引き下がってきたのだった。しかし今回は、珍しくもチェズレイ自ら、モクマに話題を振ってきている。
    「それって、お誘いってことでいいの?」
     落下した哀れなベーコンエッグをトーストに乗せなおしてやりながら、モクマは問う。相棒が求めるほどのマメさや几帳面さがないだけで、本来モクマは家事が嫌いではないのだ。
    「ええ。流石に 3560