薄暗く無機質で冷たい空間で部屋を満たす。この部屋にいる人間はみな感情はいらない。なぜなら今から死ぬ人間に情けなどいらないからだ。
これが処刑執行の”いつも”の風景だ。
「………。」
吉村はこの光景を少ない数ではあるが何度か見てきている。しかし、これに慣れる人間がいたとしても大抵ろくな性格を持っていないであろう……。普通の人間なら当然の考え方だ。だが稀に全く対照的な意見を持つ者がいる。
そう頭の中考えているうちに時が経ち、いつの間にか誰かが放った冷たい銃声が部屋で静かにこだました。
吉村の経験上1度だけこの光景を見ないですんだ事がある。それは大道寺にしては珍しい”賭け”であり、この賭けは見事にこちらの勝ちであった。最初この話を主任から聞いた時、反吐の出る話だと思った。何故、情の要らないこんな場所でそんなことをしなければならないのか…と。それに死ぬ相手は吉村に対して反抗的な人間であったため余計に不満だった。しかし、振り返ってみると正解だったのだろう。目を離せないほど危険だが、大道寺には必要な人材を確保出来たからだ。
「まぁこれも個人的には気に食わないがな。」
「なーに一人で険しい顔してブツブツ言ってんだよ。」
やりたくもない仕事が終わり報告部屋に戻っていた吉村。そこには西谷もいたらしい。いた事に驚いたが考え事をしながら部屋に戻っている自分にも驚いていた。これがいわゆる職業病なのだと理解した。
「いや。先ほど事務処理を終わらせてな。」
「事務処理ぃ?鮮血が彼岸花咲かせたみてぇになる状況が?」
「…ッチ、知ってたんなら聞くな。」
いつものようにニヤニヤと薄気味悪い笑顔を向ける西谷。
「俺は処刑執行係やりてぇけどな。」
言うと思った。しかも”係”と軽い言葉で片付く仕事では無い……そんな顔しながら西谷を見る。これがごく稀にいる対照的な意見の人間だ。
「当たり前だろ?人が目の前で死ぬ瞬間が見れんだ。そんな最高な係喜んでやるよ。知ってるか?頭撃ち抜く時ってさ……んぐ。」
聞きたくもないことを言おうとしたため吉村は西谷の口を思いっきり掴む。
「いい加減にしろ。何度も見てきてんだ、知らねぇわけねぇだろ。後ろにも大量の血が飛ぶって話だろ。」
「せいかーい。さっすが吉村。返り血っていいよなぁ…。それが気に入ってたヤツとかのが飛ぶとかさ。ハハッ。」
「………お前と話すと気分が悪くなる。」
「そりゃどーも。」
「で、なんでここにいるんだ。」
「現場の感想を聞きに来ただーけ。」
「……その顔だと収穫はなかったみてぇだな。さっさと持ち場に戻れ。」
「その係さ、耐えきれなくなったらいつでも俺にいえよ?いつでも変わってやるからよ。」
「…はっ、いつかくるといいな。」
残念そうに部屋から離れる西谷。吉村は西谷がもしこの仕事を自分の代わりにやるのならきっとすぐには終わらず、殺すほうもその場に居られなくなることがめにみえた。
――そしてこうも思った。
万が一、西谷を殺る日が来たとして銃口は向けれるのか。きっと向けることが出来るだろう。西谷も西谷で殺されるくせにニヤニヤといつものような顔をして煽るのだろう。
「なんでこんなこと考えてるんだ。」
今までの自分なら考えもしないことを考える自分に気味悪がる。ここに来てからは何も考えないと、他人に感情みせてはならない……そう自分に誓っていた。いくら上の命令だからといえ西谷は所詮ここの代用品に過ぎない。自分もその中の一人だ。いつここから消えることになるのか、必要とされなくなるのか……。なのに今更他人を気にしてしまうようになった。
「馬鹿馬鹿しい。住職の言う雑念ってやつか……ッチめんどくせえ。」
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少々時間が経ち、頭の中身を切り替えるべく外に出ることにした。普段この時間では人を見ない場所に人影があった。しかもよりによって獅子堂と西谷だ。お互いに合わせるとろくな事がないのでできるだけ避けさせていたのだがあっさりと二人でいるとこを見てしまった。一服もしたかったため、ため息をつき踵を返そうとするとふと二人の会話が耳に入る。
「なぁ獅子堂。なんであいつこんななんもねーとこよく来るんだろな?こんなとこでタバコふかさなくても俺たちのとこでしてたっていいわけだろ?」
「知りませんわ。なんも無いのが意外にも年寄りには必要なんとちゃいますん?」
「は?」
西谷の目は何故か殺気立ち「俺もそんなふうに見えるのか?」と言いたげな目で獅子堂を見る。が、獅子堂からしたら自分と似たような歳なのに何故そんな目で見られなければいけないのか不思議だった。
「……会長、そんな目で見ぃへんでも。」
「……ッチ。あ、いいこと考えた。」
殺気立っていた西谷が急に悪いことを考える顔をした。
「あいつがここ来て一人でいるとこに俺が邪魔してやる。」
「………………。(ガキか……。)」
「俺はあいつを殺さなきゃいけねぇんだ。それはお前も同じだろ?こんな規則ばかりで縛られてるとこからおさらばするにはそれが最善策だって。そしたらよ、一人でいる時のあいつを狙えば早くここから出られる……そう思うだろ?」
「…………………………。(それが出来たら苦労しませんわ。)」
「何か言いたそうだなぁ獅子堂。」
「いや、別に。」
楽しそうにしている西谷と面倒くさそうに虚空を見つめる獅子堂。
そんなやり取りを見ていた吉村はというと、踵を返えしたまま固まっていた。「めんどくせぇ…。」空っぽになるはずだった脳内にはこの言葉が埋め尽くされ、この日を境に吉村がひとりで休憩しようものなら是が非でも西谷はちょっかいをしにいく日々が始まり、それがどうしてか吉村にとって退屈しのぎにはなっていくのであった。