裏の無い好意は怖い「イルちゃん!たくさん荷物あって大変だよね。ほら、貸して。」
「え……あぁ、うん。ありがとう。」
トントン拍子に決まったバディ選定。
それに加えて寮の引越しも付いてくるとなったら少し、忙しくなるわけで。
「それにしてもイルちゃんのお洋服はどれも可愛いなぁ。いつもイルちゃんオシャレでお洋服可愛いもんね。」
「……ありがと。」
同室になるらしいアルマはいつも、僕を可愛い可愛いと褒めてくれる。
悪い気分は無い……無いのだが……。
「着いた着いた、どうぞイルちゃん。」
「重いのにありがとう。……ただいま、でいいのかな。」
「……ただいま、だね。ふふっ。足元見づらいから気をつけて。」
自分も荷物を持っているのに、というかだいたい僕の荷物なのに扉を開けて手で押さえてくれているうえに足元の注意までしてくれる。
「……ありがとう。これからよろしくね。」
荷物を置いてほっと一息。
違和感を覆い隠して精一杯の「可愛いイル」の笑顔でアルマに微笑む。
「こちらこそよろしく!」
屈託のない笑顔でアルマは笑った。
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アルマを見ていて改めて感じたことがある。
この子は自分の可愛さを理解している。
そして自分の可愛さを使っている。
任務中相手に擦り寄るようにして微笑むアルマ。
するりと懐に入り込む様子は見事の一言だ。
それなのに
「イルちゃん!怪我とかしてないよね?」
ダーリンの治癒力の高さを分かっているだろうに心配をしてくるし。
「イルちゃんお疲れ!疲れてない?倒れてたりとかしてないよね。」
バディだからで済ませたいのに、やたら僕に優しい。
「イルちゃん可愛い!そのお洋服すっごい似合ってる。お化粧も甘めな感じがぴったりで可愛いよ。」
いつも可愛いって言ってくるし。
「イルちゃんの身体が動くようになるまでそばにいるからね。」
極めつけは、苦痛で倒れていた時に回収した時だ。
回収してから適当に部屋に放り込んで放置していればいいのに、抱きしめたり手を握ったりする。
「アルマはさ、すごく優しいよね。」
「えぇっ!?イルちゃん突然どうしたの?」
突然の言葉にアルマは素っ頓狂な声を上げる。
「だってさ、バディとはいえ倒れていたら適当に回収してベッドにでも放っていればいいじゃん。それなのに抱きしめたり手を握ったりさすったり……たぶんしてるよね?なんでかなぁって。」
「それは……イルちゃんが少しでも楽になるように……って。嫌じゃなかったら……なんだけど。」
じっとアルマの瞳を見る。
どうやら言ってることは本心のようで。
「感覚は伝わっているし、別に嫌ではないからいいよ。気遣いありがとう。」
裏の無い好意だ。
分け隔てなく優しいという子じゃないのに、ただただ純粋に僕に好意を向けている。
こわい
裏の無い好意は怖い
相手がどうして欲しいのかが分からない
相手の目的も分からない
「怖いんだよな。」
受け取れきれない好意をぽそりと、聞こえないように空に滑らす。
相手に聞こえないように。