大器晩成日進月歩「ちょっ…と待ってくれないか」
アキラの部屋で2人肩を並べ映画を鑑賞していた。
映画の中では所謂ラブシーンというやつで恋人同士であるアキラとライトもこの流れに乗ってどちらともなくキスをした。
触れるだけのそれはライトにとってふわふわと幸せな気持ちになるには十分なものでちゅ、ちゅと合わさる度に多幸感に包まれた。
それはアキラとて同じでライトとのキスはたとえ触れるだけのものでも幸福感をもたらす。しかしである。
アキラとて若い男なので、戯れる程度の触れ合いを続けていれば更に次へ進みたくもなる。
そろりと上着を脱ぎ薄いTシャツのみになっているライトの脇腹を意思を持ってそっと撫でる。
途端にビクッと揺れた身体は反射的に遠のいていった。
そして冒頭のセリフである。
「…ごめんよライトさん。驚かせてしまって。」
明らかな拒絶にズキリと胸が痛む。一瞬固まったもののすぐに眉を下げライトに謝る。
アキラの姿にハッとしたように目を見開いたライトはそのままうろうろと視線を彷徨わせた。
「いや…大丈夫だ…少し、驚いただけで…」
「うん…本当にすまない。あなたが嫌がることはしないから」
困ったように笑ったアキラにライトの眉も下がる。
傷つけてしまったのだとその表情で分かった。ライトはアキラとの触れ合いが嫌いなわけじゃない。寧ろ大好きなのだ。
己から距離を取る細身の身体に咄嗟に手が伸びる。
腕を掴み前のめりになると自ずと近づいた顔にぐっと唇を寄せる。
押し付けるようにキスをしてから離せばアキラがぽかんと固まっていた。
「い、嫌じゃない…アンタに触れられるのも…ただ、その…慣れてないんだ…。だから、」
言いながらじわりと顔が熱くなっていくのがライト自身でも分かった。ぽつりぽつりと詰まりながらもアキラに伝えなければと拙い言葉を漏らす。
そんなライトにアキラはそっと両手で顔を包みキスを落とす。
ゆっくり離しお互いの息がかかる距離でライトを見つめた。
「うん、ありがとうライトさん、二人でゆっくり進んでいこう」
優しく美しく微笑むアキラにライトの目が釘付けになる。そっと頬を撫でられぴく、と身体が揺れた。
*
「ライトさん、大丈夫かい?」
「……ぅ」
「今日はもうやめようか?」
お互いに向き合ったまま見つめていくら経っただろうか。
触れるだけのキスをして、ハグをして、手を握れば僅かに強張りながらも持ち堪えたライトは次の段階へと進む為じっとアキラを見つめていた。
恋人同士の触れ合いに長いこと身を置かなかったためか免疫をごっそり無くしたライトは身体をそういった意図で触られるのにも過剰に反応しキスですら触れ合うだけのものしかまともにできていなかった。
今時小学生だってここまで初心ではないだろう。
ライト自身も分かってはいた。
けれど久しぶりに出来た好きな人、そんな人物との触れ合いはライトの想像以上にハードルが高かった。
寛容なアキラはそれを受け入れ付き合ってくれている。
そのことが申し訳なくて情けない。それでも甘えてしまっている。
だからこそ今日は自分からここまで、というラインを決めて提案したのだ。
そう、今日は絶対にディープなキスをする。
ライトは既に騒ぎ立て口から出そうな勢いの心臓をぎゅっと目を瞑り叱咤する。
「…いや、する、アキラ、目を閉じてくれ…」
険しい顔をしながら震えた声で、それでも確固たる意思を示すライトにアキラは握っていた手にきゅ、と力を入れる。
「分かったよライトさん、落ち着いて…何があっても僕はあなたがずっと好きだから」
暗に失敗しても構わない、と伝えてくるアキラの優しさにライトの胸がまた痛む。
ここでやらねば男が廃る。
口の中に溜まった唾をごくりと飲み込みライトの言われた通り目を閉じじっと待ってくれているアキラの唇へ己のそれを合わせる。
恐る恐る舌を差し出せばゆっくりと唇が開かれる。
中に入れば熱くぬるつく他人の口内にやや引き腰になるも優しく招き入れるように擦り寄ってきたアキラの舌と合わせお互いの舌を絡める。
思わず強張る身体に落ち着かせるように繋いでいる手をアキラの指が優しく撫でる。
ぢゅ、と軽く吸われた舌にひくっ、と喉が引き攣る。
「ンっ、ふ、ぅ…」
「ライトさん、顔傾けて、」
一度離された口から唾液が溢れる。
ふぅふぅと荒くなる息をお互いに感じつつ薄目を開ければ普段よりいくばか欲情し余裕を無くしたように眉を寄せたアキラの顔があった。
「あき、んぅ」
瞬き開いた口にアキラのそれが押し付けられ次はライトの口内に舌が侵入してくる。
角度をつけたそれは先程よりも深く生き物のように中を這い回る。
驚いて縮こまるライトの舌を捕まえると促すように擦り寄る。
触れて絡めて口の中の唾液を吸われる。
じん、と頭が痺れて多幸感で眩暈がする。
いつの間にか繋いでいた手はアキラの背中に縋るようにしがみついていた。
アキラが愛おしむようにライトの耳を擽る。
それだけでピク、と震える身体に熱が上がる。
「ライトさん、鼻で息をして」
はふはふと荒い息を繰り返すライトに僅かに口を離しそう言えば聞こえているのかいないのか離れたそれを追うように口を塞ぐ。
夢中になっているらしいそれにぐらりと頭を殴られたような衝撃を覚える。アキラの理性が崩れそうになるがぐっと堪えライトの肩を押す。
簡単に剥がされたそれにやはり酸欠になっていたらしいライトがぼやりと涙の膜を張った瞳で見つめてくる。
首まで赤く染まり荒く息をするライトの壮絶な色香に視覚的暴力を受けながらアキラは誤魔化すようにゴホン、と咳をした。
「ライトさん、大丈夫かい?」
唾液でてかる唇を拭ってやりながら問えばぼやりと呆けていたライトが下を向ききゅっとアキラの服の裾を掴む。
「…すまん、…大丈夫じゃ、ない…」
耳まで赤く染まっていたらしいライトが項垂れアキラの肩に頭を預ける。
耳元で聞こえるライトの熱の混じる吐息にアキラはこれは忍耐力が鍛えられるな。と思うのだった。