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    chino0814

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    投稿テストに過去にツイッターに上げたものをぽいぽい①
    獄ハルになるのかならないのか分からない獄+ハル

    閨のひまさえつれなかりけり「おまえは、しあわせにはなれない」

    目の前にいる男が発したその言葉の意味が最初はわからなくて、私はしばらくの間、自分をまっすぐに見つめる瞳の色を確認することしかできなかった。
    しばらくしてから台詞の意図をやっと整理したが、不思議と怒りや悲しみのような感情は沸いてこない。

    「わかってますよ、そんなこと」
    目の前に置かれていた暖かなカップに角砂糖をひとつ落としながら言うと、男は眉間のシワをひとつ重ねて「そうかよ」とつぶやき視線の呪縛を解いた。

    そういえば、以前彼に言ったことがあったかもしれない。
    『ハルのしあわせは、ツナさんのお嫁さんになることです』と。
    幼かった私は、自分の努力で夢を叶えてみせる、きっとそうなると、心の底から信じて止まなかった。
    しかし現実とは残酷で、歳を重ねるにつれ自分の努力だけではどうにもできないことがいくつもあること知った。私と、私の想い人だけの問題ではなかったのだ。色々な人の様々な関係性と気持ちが複雑に絡み合っていて、それを一本の糸にするのにはとても時間がかかった。そうしてツナさんの持った糸の先に居たのは私ではなかった。
    恋愛というものは、なんて難しいのだろう。あの数式なら、あの方程式なら、いくらでも解けるのに。私ひとりの力で。

    「ハルは可哀想に見えますか?」

    そう問いかけると、視線を落としていた彼はぴくりと肩を揺らして再び私を見る。
    視線は真っ直ぐに私を捕らえているが、何も言わない。きっと言葉を選んでいるのだ、私が少しでも傷つかないように。
    この人も変わったと思う。丸くなったというか、角が取れたというのか。『大人になった』と言うべきなのか。
    昔は顔を突き合わせればツナさんのそばにいるという理由だけで睨まれて怒鳴られて。
    それが今では対面でふたりでお茶をすることができるくらいにはなった。勿論それは私だけではなく、他の人に対してもそうなのだけれど。
    この数年で、彼の中でどのような変化があったのかは私にはわからない。でも、苦手な人間とも不器用に向き合おうとする彼の姿勢を私はきっと、嫌いじゃない。

    「……そうだな、惨めに見える」

    それが時間をかけて考え抜いて導き出した答えなのだろうか。前言撤回。この人、本当はちっとも成長していない。
    ああでも、どうしてだろう、今はそれが不思議と心地よい。
    頭の天辺から肩を撫でて脚へと、体の力がゆっくりと抜けていくような感覚。

    「ねぇ獄寺さん、ハル、どうしたらしあわせになれると思います?」
    「知るかよ。ひとりで勝手にどうにかしろ」
    「つれないですねぇ。乙女が恋に破れて傷心してるっていうのに。慰めの言葉のひとつもかけられないんですか?」
    「オレの役目じゃねぇ。慰めてもらいたいなら他のヤツをあたれ」
    「そうですよね。ハルもそう思います」
    「じゃあなんで、オレなんかと茶してるんだテメェは」

    どうしてでしょうねぇ。そう声に出したかったのに、急に喉の奥が熱くなって、言葉が詰まる。 気づいたときには遅かった。いやだ、この人の前では泣きたくなんてなかったのに。
    嗚咽する私の声が彼の気に障ったのか、舌打ちの音が聞こえる。

    「……クソめんどくせぇ、だから嫌だったんだ」

    目の前の男は今どんな表情をしているのだろうか。
    文句のひとつも言ってやりたいのに、あふれ出てくる涙が邪魔をしてそれを許さない。
    くやしい。どうして。なんでハルがこんな思いを。どうしてハルじゃなかったんだろう。どうしてハルを選んでくれなかったの。
    数えきれないほどに何度も頭を巡った言葉たちが、容赦なく降りかかってくる。
    誰かこの想いを、思考を打ち消してほしい。もういっそ、なかったことに―――

    瞬間、目元を塞いでいた腕を捕まれ引きはがされ、目の辺りに何か布のようなものを押し付けられた。
    そのままゴシゴシと乱暴に顔面を行き来するものが彼のハンカチだと気づいたときには、既に涙は止まっていた。

    「次、10代目と会うときにまだそんな顔してやがったら果たすからな」
    「……さいってー…」
    「今に始まったことじゃねぇ」
    「獄寺さんなんて、だいきらい」
    「知ってる」
    「ハル、絶対にしあわせになってみせますから」
    「あ?」
    「しあわせにはなれない、って言った、獄寺さんを見返してやるんですから」
    「……勝手にしろ」

    そう言うと彼は、テーブルの上に千円札を置いて店を出て行った。

    光は見えない。だけどこのままでは、あの男に自分の勇姿を見せなければ女がすたるというものだ。
    いつかこの世でいちばんしあわせな笑顔を彼に見せつけて、このハンカチを投げ返してやる。
    そう決意を固くして、私は目の前の紅茶を一気に飲み干した。
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