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    moguratataki30

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    覆面企画の再掲
    スタマイの初作品

    ##耀玲

    お気に入りの抱き枕「正義さん!」
    足がもつれそうになる程がむしゃらに走るも追い付けそうにない背中、土砂降りの雨の音、微かな紫煙と火薬の匂い。

    Prrrrrrr

    着信音が鳴った気がして意識が浮上する。
    ここ数日同棲しているワンコは仕事で一緒に寝られておらず、眠りは前の様に浅くなっていた。
    着信を確認するも仕事どころか玲からの連絡すら入ってはいなかった。
    嫌な夢をここ数日見ている所為かまだ午前3時だと言うのに眠れそうにはない代わりに「ふぁー」と欠伸を一つ。
    予想外に平和になってしまった捜査一課の静けさが今は逆に辛かった。
    外は夢と同じ様にここ数日土砂降りで、ベランダに出る窓を開けるもタバコを吸う気にはなれなかった。
    雨が遠い地面に当たる音をなんとなく聞きながら、数日前に一時帰宅していた玲を思い出した。


    あの時も同じ様な土砂降りの中帰ってきた俺を仮眠もせずに家事をしていた玲が迎えたてくれた。
    「耀さん!おかえりなさい!」
    エプロンを着けて満面の笑みでそう言った玲の目元には薄らクマができて少しやつれている様に見えた。
    「折角課長君が帰してくれたのに、何で寝てないの」
    そっと玲の頬に手を当てクマをなぞる様に指を滑らせると玲はくすぐったそうに笑った。
    「だって、私がいないと耀さんちゃんと食べないじゃないですか?」
    「…まぁ、夏樹や司じゃないけど、パンとかカップ麺だろうね」
    「だから作ったんですよ!いつもみたいにタッパーに入れて冷凍庫に入ってます!」
    この日だけでなく、潜入捜査で仮住まいの時や俺が泊まり込みの時はいつもそうだ。最近はいつも玲のご飯を食べている。
    「はいはい、ありがとうね。お風呂は入ったの?」
    「洗濯機を回しながら先に頂きました。耀さんはこのあとご飯とお風呂どっちにっ…ぎゃぁ!」
    それならと抱き上げると玲らしい悲鳴が聞こえた。
    「クックック、色気のない声だこと」
    「ちょっ!まだやる事がっ!洗濯物も畳んでませんし!」
    「はいはい」と宥めながらも赤くなり照れながら暴れるワンコを落とさぬ様に寝室のベッドへと運ぶ。
    「もう!まだやる事あるんですから!」
    「わかったわかった、明日は何時に出る予定?」
    「話聞いて下さい!…4時には出ます」
    「そんじゃぁ、もうおやすみ。あとはやっとくし、俺だって何にもできない子供じゃないんだから」
    「ぅぅ…普段やらない癖に…」
    「なぁに?おやすみのチュウでも欲しいの?」
    「ねっ!寝ます!お休みなさい!」
    バサッと布団を頭まで被った玲にクツクツと笑うといじけた目がこちらを捉えた。
    「ゆっくりおやすみ」
    覆い被さる様に玲の脇に手をつきおでこにキスを一つ落とす。
    その途端再び真っ赤になった玲がか細い声で「お休みなさい…」と言った。
    部屋を出て玲から奪った家事の続きを済ませ寝支度を済ませて俺もベッドに潜り込んだ。疲れもあったのだろう玲はしっかり寝付いていた。
    そっと抱き寄せると眠気がすぐに移ってきた。


    あの日以来俺のお気に入りの抱き枕は戻って来ずそろそろ捕物があると風の噂に聞いたのは玲が帰ってきていた翌日で、順調に行っていれば今日辺り事後処理も片付くだろうと有給も使ってあるが。
    もういっそ早い休日登庁してしまおうかとも思ったが、当直者に無駄な心労を掛けるのも無駄なので白紙に戻る。

    カッチャン

    遠慮がちにゆっくり回った鍵の音に続きそっとドアを開け入ってきたのは待ち人で違いなかった。
    「ただいま帰りましたー」
    コソコソと帰宅の挨拶を言うのが愛おしくて思わず微笑んだ。
    「おかえり」
    「えっ!よ、耀さん!起きてたんですか!?」
    「玲、御近所迷惑」
    「あ、すみません。じゃないですよ、まだ4時ですよ。どうして…」
    「お気に入りの抱き枕が無いと寝られなくなっちゃったみたいでね。責任取ってくれる?」
    「なっ!またそうやって抱き枕扱いして」
    「それに、実は今日あたり終わる頃だと思って一応休みも取ってあるよ」
    「…それじゃあ、今日はお昼寝三昧ですね」
    その後素早くシャワーを済ませドライヤー中の玲をベッドに拉致し布団に入れた。
    「これ、どうしたの?」
    玲の横髪の一部が焼けてチリチリになっていた。
    「あー、これはですね。犯人確保の際近くにあった放置された大量の揚げ玉が運悪く発火しまして…」
    「あぁ、揚げたての天かすそのまま捨ててたんだ。災難だったねぇ」
    「おかげさまで証拠も少し燃えましたが多方回収済みで犯人含み怪我人はいません」
    「それはいい子いい子。前みたいに火を消そうとして突っ走らなかったのは偉かったね」
    柔らかい髪を撫でつつグイッと抱き寄せた。
    心なしか雨音が止んだ気がした。
    『あぁ、これでぐっすり寝られそうだ』
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