深夜のミイラ貴臣さんと同棲を始めて…と言うより、半ば私が引きづり込まれる様に気付いたら引っ越し手続きが終わって桧山邸の一室に荷物が運び込まれていた。
そんな引越しから早1ヶ月、忙しい貴臣さんと朝ギリギリ顔を合わせるもののマトリの仕事も慌ただしく泊まり込みなんかもあり全然離れて暮らしていた時より会えていない気がして寂しくなる。
彼の家にいるのに全く会えない寂しさを誤魔化していたが夜中ふとトイレに起きた廊下で自分の想いに襲われた。
広い廊下を薄暗い間接照明と月明かりが照らす廊下でハァと溜息を吐く。ふと目を瞑るとフワリと嗅ぎ慣れた香りが鼻に付く。
気付くと貴臣さんの部屋のドアの隙間から灯りがこぼれ出しているのを見つける。
「(帰って来てる!)」
遠慮がちに中を覗く様にそっとドアを開けるとソファに腰掛けお茶を飲みながら何かの書類に目を通す麗しき恋人の姿があった。
仕事中では申し訳ないと当初の予定通りトイレを済ませて部屋に戻ろうとドアを閉めようとしたら予想以上の音が立ってしまった。
「ん?誰かいるのか?」
久しぶりに聞く彼の声に先程の寂しさが襲いかかり再びドアを開けた。
「こんばんは。すみません、お邪魔するつもりじゃなかったんですが…」
「お嬢さんか。すまない、起こしてしまっただろうか?」
口では問いながらも手はソファの隣に誘ってくれる。久しぶりの2人の時間に心が躍る。
「いえ、トイレに少し起きただけだったんですけど…」
「…あぁ、香りに誘われたのか?」
クスリと笑いながらお茶の視線に気付いてくれた。
「こんな時間だからと紅茶やコーヒーは許してくれなくて、桂花茶になってしまった」
「前に遊びに来てた時に出して下さいましたよね」
「そうだったな。予備のカップもあるから玲も飲むか?」
「いただいてもいいですか?」
綺麗な所作で入れられるお茶を眺めながら先ほどまでの暗い気持ちはすっかり消え去っていた。
受け取ったカップは冷めているとは言えないが熱々ではない温度で、暑い今の時期にはちょうどよかった。
「お仕事中じゃなかったですか?」
「あぁ、これは高校の同窓会資料だ。軽く目を通していただけで大した問題はない」
そう言う桧山さんは母校の報告新聞を見せて来た。
「へぇ、こんな感じなんですね…」
「玲は違うのか?」
「うちは卒業生の寄付の紙と在学生の時に配られてた学内のお知らせが…」
「ほう、やはり学校によりだな」
「ですね」
そこからはたわいもない話をしお茶がなくなった頃一緒に寝ようと誘われた。
久しぶりの桧山さんのベッドに胸が高鳴る。
「…幸い明日は休みを取る事ができたし、今日は寝かせてやれないかもしれない」
ふと自分の明日の予定を思い返し休みなのを思い出した。一緒に住み始めて初めての重なった休み、その日がどうなったかはご想像にお任せしたい。