今ここに居る奇跡 この日バーンと二度目の対談に臨んだクロムは、ほんの数秒、会議室で白昼夢を見た。
空想の中で、彼は黒雲が垂れ込める荒野に独りで立っている。上空では数多の稲光が雷鳴を響かせ、不穏な雰囲気を醸していた。先刻まで目の前に座っていたバーンの姿はどこにも見えず、クロムは驚きと共に辺りを見回す。何事かと空を仰ぐと、ちょうどそのとき漆黒の龍が雷雲から出現した。
魔性の生物は凶暴な目を光らせ急降下し、地上に居るクロムへと迫った。
飢えた獣の如き瞳と、触れたものすべてを引き裂く爪牙。魔龍の凄まじい形相が空を見上げるクロムに肉薄した。‟はっ”と目口を開きクロムは息を止める。己を丸呑みにするであろう龍を前に、彼は微動だに出来ずそして。
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