豪奢な部屋だ、柔らかなベッド、質のいいテーブル、踏み心地のいい絨毯。ロナルドに与えられた部屋は快適なものだった。窓と、扉が開かないことを除けば。ここに閉じ込められてからもう随分たつが、ロナルドはまた逃亡を諦めていなかった。いつか、ドラウスが鍵を閉め忘れる日が来るのではないか、とずっとチャンスをうかがっていたのだ。
ドラウスが部屋を去った後、いつも通り、半ばダメもとで、ドアノブを回した。がちゃり、とあっけなくそれが開いたから、ロナルドはつんのめる。開いた、ロナルドの心臓が興奮と緊張で高鳴る。何か月ぶりの外だろう、恐る恐るロナルドは一歩踏み出す。逃げられる、思わず笑みがこぼれた。
しかし、扉の外は迷宮だった。似たような廊下、扉、明かり、目印になるようなものはなんにもなくて。同じところを回っているのか、それとも少しは出口に近づいているのか、はたまた、深淵に飲み込まれようとしているのかすらわからない。どれだけ歩いてもどこにたどり着くこともなく、やがて無尽蔵に思えたロナルドの体力も削られていく。いや、体力より精神面のほうが苦しかった。
まるで、暗闇で迷子になっているような、そんな不安感。ひとりぼっちで、彷徨い歩く。やがて何時間、それとももう何日もたったのだろうか。とうとうロナルドは廊下にへたりこんでしまった。冷たい床、もう脚を動かすことはできない。このままここで死ぬんだろうか、お腹空いた、脚が痛い、寒い、こんな、こんな寂しい最期になるとは思わなかった。やがて、視界はぼやけ、瞼が伏せられていく。
「ロナルド、こんなところにいたのか」
優しい声、抱き上げられたのだろうか浮遊感、やっと迎えに来てくれたの。
「……パパ。」
心地よい揺れに合わせ、ロナルドは意識を手放した。
夢の中で、ロナルドはドラウスに抱かれていた。そこに足枷も首輪も閉ざされた扉もなく、どこまでも自由に愛し合っていた。濃厚なキスを交わし、手足を絡め、腰を振る。このまま、目が覚めなければ、ああ。