ちゃぷたー①「もう、やめろって!!!」
アダムが突然立ち上がって叫んだ。え、なに。どうしたんだ突然。
ルシファーは飲んでいた紅茶を置いて、表情を上から覗き込む。
血色に少し赤みを帯びていて熱があるのかと不安が過り、立ち上がって額に手を寄せた。
しかしバチッと電気でも走るかのような感覚に、手が振り払われたのだという理解が遅れてやってくる。
振り払われた手を見つめて、ルシファーは手とは別の場所がじくじくと痛みはじめるのを感じた。
誤魔化すように、胸あたりを数回撫でる。
「どうしたんだ?何を怒っている?」
アダムが怒るのは日常茶飯だった、やれ近すぎるだの、キスは嫌だの、愛してると言うなだの…
付き合っているのだから触れたいと思うのは当然だ、愛していると伝えて何が悪いのか。
これでは、まるで私がセクハラをしているみたいじゃないか。
「今度は一体何が問題なんだ?」
アダムにとっての問題は、大半が理解出来ないものだ。
最近であった事だと、手に触れただけでも喚くので、アダムは全身が性感帯なのか?と本気で疑ってしまう。
「優しくするな…ッそうやって…お前はいつも、私を!」
しどろもどろに吐かれた言葉は、やはり理解出来ない
恋人だから、優しくしたいだろう、普通。
「こんなんだったら付き合う前の方が良かった!!」
アダムの言葉に誘発されるように言葉が浮かび上がってくる。
さよならーーー
沈澱した記憶からぐるりとかき混ぜられ、巡る。
さよなら、あなた。さよなら、パパ。さよなら。さよなら。
みんな私から、離れていく。落胆して倦厭して軽蔑して
「へぇ、そうか。そんなに優しくされるのが嫌だったのか。気づかなくてすまない」
理解を示した言葉に、アダムが胸を撫で下ろし、喉の奥に詰まっていた息を吐いた。
そうした拒絶に、ルシファーは殺意を覚える
ルシファーの愛は、人間の愛とは違っていた。例えば今にも轢かれそうな犬がいて咄嗟に手が出る、それは人間が心で愛しているからだった。
心の無いルシファーは理性でアダムを愛している。
ルシファーにとって性欲は殺意とよく似ていた。セックスと暴力も。
どちらに傾いても、ルシファーにはプロセスが違うだけで、原点は同じだった。
でも愛しているから優しく扱おうと思っていた。理性的でいることが、ルシファーなりの愛だった。
しかし、アダムはそれを、やめろという。
「なら、お前を今からぶち犯す。泣いて叫んでもやめない」
アダムの唖然とした美しい顔に、精液をこびり付けてやろう。
ルシファーは小さく笑みを漏らし、逃げない内に、優しく手を取った。