『嵐珠ちゃんは許してくれない』ピアノの鍵盤を前にして、私はただ黙って座っていた。
譜面の上には、途中まで書きかけた音符がいくつか並んでいる。でも、どうしても次の一音が思いつかない。どれだけ手を動かしても、心に響くメロディにならない。
─────才能がないんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎる。
もともと普通科にいた私が音楽科に転科したのは、みんなの夢を応援するうちに「音楽」というものに惹かれたからだった。
ピアノは昼休みに遊び半分で弾く程度だったけれど、本格的に学び始めたのは最近のこと。最初のうちは授業についていくのが精一杯で、それでも必死に食らいついてきた。
でも─────
「やっぱり、才能がある人には敵わないのかな……」
ポツリと呟いた言葉は、空気に溶けて消えていく。
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