銀高ss 中学を卒業して、高校に上がった。腐れ縁の幼馴染二人も同じ高校で、更にもう一人バカが加わって騒がしくなった。
何も変わらないと思っていた。あいつらも、俺もずっと変わらずにいるって。
だけど、違った。
ヒートが来た。それが一番大きなきっかけ。一人で熱にもがいて苦しんで、ひたすら流したくもない涙を流した。終わりの方、頭が冷静になるにつれてどうしてと、惨めな気持ちは増幅していっそ死にたくなった。
それからだ。昨日まで何も感じない、同じ人間だと思っていた奴らが怖くなった。情けない。どうして。そんなわけない。分からない。ただ自分を見る目が違う奴らが一定数いると、気づいてしまった。
「高杉」
今一番聞きたくない声。うつ伏せのまま、どこか行けよと無視をした。しかし相手はそれを許さなかった様で、ガン、と机に衝撃が走る。
「テメー何無視してんだコラ」
渋々顔を上げれば不機嫌さを滲ませる顔。
怖い。
……そんなはずないと思うのに、自分のなかの何かが言う。こわい、怖いと。俺がこいつを、銀時を恐れるなんてあり得ないのに。どうしてやさしくしてくれないのと、何かが泣いている。
「なんだよ」
「……お前最近俺たちのこと、避けてるだろ。バカ二人が気にしてうるせーんだよ。」
優しいことに、他の二人を気遣ってわざわざ日頃気に食わない相手に会いに来たというわけか。ご苦労なことだ。
「避けてない」
「いーや避けてる。帰りだってさっさと消えてるし」
「……」
事実だ。最初のヒートがあってから、あいつらに近づくのを避けた。あいつらの近くにいると、胸がざわざわするから。
黙りこくる俺を前に、銀時は大きくため息をついた。そうしたいのは俺の方だ。さっきから胸の中がうるさい。怒ってるの?怖いのは嫌だ。痛いのも。やさしいのがいい。こっち見て。おれだけをかわいがって。
うるさい!
「うるさい」
「あ?」
「避けてねぇって言ってんだろ。」
もう一秒でもこいつの顔を見ていたくない。
帰る、と立ち上がって銀時の横を通り抜けようとしたが、腕を捕まえられてしまう。まだ半袖だから素肌が触れ合って、びりと電気が背中を走った。
「そんじゃあ、一緒に帰ろうよ。高杉くん。」
「はな、せっ」
「おら行くぞ」
「おい…っ!」
抵抗虚しく、ずるずると半ば引きずられる形で教室を出る。
心の奥で、また何かが喚いた。
蝉が鳴く通学路を二人無言で歩く。銀時が押す自転車のカラカラという音だけが二人の間に流れている。
どのくらい黙っていたかは分からない。だけどこのまま喋らなくていいと願うも虚しく、銀時が沈黙を破った。
「お前、どうしちゃったワケ。この間風邪拗らせてからおかしい」
風邪。そういうことにしてある。本当はヒートだった。
「だから、何でもないって言ってんだろ。しつこい」
「……変わったんだよ」
銀時が足を止める。
「分かんないけど、変わった。なんか、うるさいし」
「は、」
「怖いとか嫌だとか言ったと思ったら、今度は、その」
可愛がって、とか。
さぁっと、血の気が引いていく。なんで
なんで聞こえてる。どうして、なんで、見るな。俺じゃない。
がくん、と足から力が抜けて、その場に座り込む。目の前が真っ暗だ。あんなのが銀時に聞こえてたなんて。違う、俺じゃないのに。否定しないと。なのに声が出ない。なんで。
「どうした高杉、」
ガシャと自転車の倒れる音。砂利を踏み締めて、銀時が駆け寄ってきた音。それから。
「あれ、お前」
「なんで、こんないい匂い、すんの?」
うんめいのひと、と何かが叫んだ。