リクエストの銀高今日の料理当番は銀時。何食いたい、と聞いてきたので鯵の南蛮と答えた。
また手間のかかるモンを……とボヤきながらも銀時は買い物へ出掛けて行った。
揚げ物は暫く禁止されているので、手作りが食べたければ銀時に作らせるしかないのだ。以前唐揚げをやろうとして家を燃やしかけたし、出来上がったのは炭だった。最近は火の扱いにも慣れてきて、自信もあったから大丈夫だと思った矢先の失敗。目に見えて落ち込んでいたからだろうか、銀時はその炭を一口摘んで口の中を真っ黒にしていた。あいつ、何がしたかったんだ?
そんな訳で、本日の夕飯は銀時お手製の鯵南蛮だ。
二人揃って料理に手を合わせる。いつもの習慣。
期待十分に、メインの鯵を口に運ぶ。
じゅわと甘酸っぱさが広がって、これはなかなかと味わった。
「んまい」
「そりゃよかった」
リクエストした身として感想を伝える。
自分も食べようと、銀時が皿に箸を伸ばす様子を咀嚼しながら見つめた。
よく見ると、利き手の腕の辺りがぽつぽつと赤くなっている。
「……お前、腕のとこ」
「あ?あー、揚げ油跳ねたやつだ」
「油……」
自分もこの前体験した。暫くの間はひりひりと痛む。揚げ物を要望したことを少し悪く思いながら、夕飯を続けた。
風呂上がり。
お互いに髪を乾かし合い、並んで歯を磨いて寝室へ。
ゴロリと先に寝転がる銀時に、まだ寝るなと声をかけた。
「なに」
「腕、出せ。クリーム、塗ってやる」
「火傷のことか?大したモンじゃねえよ」
「いいから。俺が怪我させたみたいで、嫌だ」
「……ん」
体を起こした銀時が寝巻きを捲って腕を差し出す。以前銀時が買ってきた、火傷にも効く薬用クリームを指に取って、赤くなった所を中心に塗り込んでいく。
筋肉がしっかりついた、自分とはまた違うガッシリした腕。幾つもの傷跡がある。小さいもの、深いもの、ケロイド化したもの。ここの傷、もしかしたら俺か?なんてちょっと心当たりがあるものも。離れていた間、再開してからの間。銀時が生きてきた、誰かを護ってきた証。そう考えたら少し、いや結構、自分にとっても大切なものに感じてきて。一つ一つ確かめる様になぞった。
「あの、高杉さん」
「なんだ」
「くすぐったいんですけど……」
「そうか」
「いや、そうか、じゃなくて……聞いてる?」
「聞いてない」
「え〜…」
一通りクリームを塗り終わって、銀時の腕を解放する。不思議な時間だった。知らない銀時を、昔を辿る様な。クリームと一緒に指先から溶けていくように、心がじわりとあたたかくて。
「なあに、今日は甘えたなの?」
気がついたら、銀時を抱きしめていた。銀時が姿勢を直して、背中に腕が周される。より密着したことで、とくんと伝わる心音に安心して目を閉じる。
「話、聞かせろ」
「なんの」
「何でもいい」
「はあ?」
手始めに、ここの傷の話と腕をなぞってみれば、銀時に唇を奪われる。伺いを立てる舌を受け入れて、何度も口付け合った。
口を離して息を乱していると、頬を銀時に包まれ、目線が合わさる。
「覚えてねえよ。」
明日も、銀時と生きていく。
そうかと、答えて、今度は自分から口付けた。