銀高ss*
やさしい匂いがした。冷たい世界がほわりとあったかくなる、初めての感覚。それを手放したくなくてぎゅうと掴んでしまった。
鳥の鳴く声がして、瞼を持ち上げる。柔らかい朝日が昇っていてしばしぼうっと天井を見つめた。
知らない天井。狭い部屋。
ここはどこだったかと思い出そうとしても、困ったことに一つも記憶は蘇ってこない。しかし身体は幾らか軽くなったし、思考もこうして正常に戻っていることに安堵した。あの甘いだけの匂いを嗅ぐと頭がぼうっとして、何も考えられなくなって、だんだん自分が溶けていく。前後の記憶がないのもいつもの事だから特段驚くことでもない。起きたら家じゃなかったなんて前にもあった。確かその時は更に好き勝手されて酷い目に遭ったけれど。
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