銀高ssしばらく暑かったのに、ここ最近雨が続いている。まだ梅雨入りではなかったはずだが、低い気温と雨雲が江戸の街を覆っていた。
「だいじょぶ?」
朝10時。普段ならとっくに起床している時間だが、自分より早起きの高杉は未だ布団の住人だ。寝室を仕切る襖を開けて様子を伺ってみるが、毛布をしっかり被っており自分が起きた時に見た光景と何も変わっていない。
返事はなく、寝ているのか、はたまた痛みと闘っているのかは窺い知れない。
高杉は、続く雨のせいかここ二日ほど頭痛がすると言って寝込んだままだ。見かねて市販薬を飲ませてやったが、時間で効果が切れるとまた顔を歪めて横になってしまう。
何か身体に異常があるのではとソワソワする自分を見て、もしかしたら気圧のせいじゃないですかと助手は言っていた。雨の日って調子悪くなる人多いみたいですよ、と。
襖を閉めて、足を台所へ向ける。高杉が起きたら何か腹に入れさせてやりたい。起きているとつらいといって、食事も少量しか食べていない。何かあったかいものでも作るかと冷蔵庫を漁った。
昼時。雨で外に出る気にもなれずソファでぼんやりテレビを観ていると、寝室の襖が開いた。電気の光に目を細めながら寝巻きのままの高杉が起きてきた。
「何時だ」
「12時近く。なおった?」
「まだ痛ぇ。薬、のむ」
「腹に何か入れねぇとだめだ。スープ作ってやったから飲め」
「いらねェ。食欲ない」
はあと息をついて、高杉はふらりとこちらへやってくる。それから隣に腰を下ろして、俺の肩に頭を預けた。
「雨の日、いつもこうなの」
「たまに」
こんな酷いのは久々だと高杉は目を閉じていった。昔からこんなだったかと思い出してみても、特に思い当たらない。体質が変わったのか、単に悟られないよう隠し通していたのかは分からない。
高杉の眉間に皺が寄っているのを眺める。痛いのだろうか。聞かなければ口に出さないから、イマイチどんななのか把握しにくい。
そういえば、雨の日は身体も痛むと新八は言っていた。例えば古傷、とか。
「なあ、」
「なんだ」
「痛いの」
高杉の閉じられた瞼に触れてみる。高杉と自分にとって、終わりの、或いは始まりの傷。
「痛くない」
高杉がはっきりと言った。深緑が、いつの間にかこちらを見ている。
「もう、痛くねえよ」
ふっと高杉の口元に笑みが浮かぶ。
愛しむような、そんな瞳の色。それにひどく安心して、無意識に強張っていた体から力が抜けた。
「そう」
言葉はいらない気がした。でも、無性に触れたくなって、優しげなその瞼に唇を寄せた。