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    ゼロノチャン

    しょしんしゃです
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    ゼロノチャン

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    #ヤマイノ文
    yamainoSentence
    #創作
    creation

    大人ハロウィン SNSを流し見ていると、タイムライン上やたらとオレンジと紫の二色が目立っていた。もしやと思い日付を見れば、今日は一〇月三一日。トレンドのタグをタップしたら、友人の泉野麗華が彼女の所属するアイドルグループのメンバーたちと、魔女のコスプレ衣装に身を包んだ写真がアップされていた。
    「そうか、今日だったか」
     独り言ちると、隣で音楽雑誌を読み耽っていた同居人の角田亥之介が顔を上げる。
    「何が」
    「ハロウィン」
    「あ〜〜〜」
     イノにとってもハロウィンは他人事だったようで、俺からその単語を聞いてやっと思い出した様子だった。
     そりゃあ、こいつは甘いものも苦手なのだし、メメとムムも今週は寮から帰ってきていないし、本日は泥棒の予定もないし、関心も向かないわけだろう。
    「最近じゃあ大人のがはしゃいでるよなあ」
     どうでも良さそうに言い捨てて、イノは雑誌のページを捲った。「確かにな」と、俺も別のニュースでも漁ろうかと画面をスワイプしたところで、「あ」と、イノが何かを思いついたような声を上げる。
    「んじゃ。俺たち悪い大人もちょっとくらいはしゃいでみっか?」
    「どういうことだよ」
    「定番の台詞、あんだろ。ほら」
     言ってみろよと促すように、イノが右手で軽く手招きをする。
     ハロウィンの定番の台詞といえば、勿論アレだろう。お菓子をくれなきゃ悪戯する、なんていう、脅迫まがいのアレだ。
    「と……」
     と、一文字目を口にしたところで何だか急に恥ずかしくなって口籠ってしまう。だいたい、トリックオアトリートなんて子どもが言うから許されるのであって、大人が言ったら問題発言だろう。悪戯の規模にもよるが、下手したら不審者扱いで即逮捕だ。
     とか、そんなことはどうでも良くて、純粋に恥ずかしいだけだ。
     イノは固まる俺に呆れもせず、まるで小さい子供を宥めるみたいに、「どうした?」と、優しく微笑みかけた。
    「……」
    「ん?ほら、がんばれ、がんばれ」
     他所行きの、とびっきりの笑顔。
     これは、物凄く馬鹿にされている。もしくはこれを“遊び”として愉しんでいるかのどちらかだ。分かっていながらも、さっさと言ってしまわなければこの地獄は終わらないと判断し、俺はその台詞をぶっきらぼうに呟いた。
    「トリックオア、トリート……」
    「よく出来ました。……ちょっと待ってろ」
     俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でたあと、イノはソファから立ち上がる。そのまま真っ直ぐキッチンへと向かった。何やら冷蔵庫を漁っているようだが、まさか、菓子の準備でもしていたのだろうか。だとしたら全く気付かなかった。
     バタン!と、乱暴に冷蔵庫のドアを閉め、イノがリビングに戻ってきた。その両手には、それぞれ五〇〇ミリリットルの大きな缶ビールが握られている。
     嫌な予感がして顔を顰める俺に、イノはいつも通りの悪い笑みを提げながら、それを一本差し出した。
    「ほうら、大人が一番喜ぶオヤツだぜ」
    「それは、悪い大人限定だろ……」
     小言を漏らしつつも、渋々と受け取る。イノはソファに座ると、さっそく缶のプルタブに指をかけた。缶が開くと同時に、炭酸が抜ける音がする。
     冷たい。冷蔵庫でギンギンに冷やされたビールは確かに美味いのだろうが。疲れた身体に染み渡るのだろうが。……少しだけ、ほんの少しだけ、甘味的なものを期待してしまったから。残念な気持ちが拭いきれなかった。
    「何。もしかしてケーキ的なもん期待してたんか?」
     俺の横顔を覗き込みながら、イノが訊ねる。バレバレなのが悔くて、「別に」と、そっぽを向いた。
     しかし、イノは俺の返事を気にも止めずに続ける。
    「仕方ねえなあ。じゃあなんか買いに行くか。つっても、この時間じゃあコンビニしかやってねえだろうが」
    「……別にって言っただろうが」
    「そう拗ねんなって。俺もちょうどツマミが欲しいと思ってたとこだ。今日はハロウィンらしいからなあ。なんでも好きなもん買ってやるぜ。……まあ、コンビニだけど」
     勝手に決めつけると、イノはまたソファから立ち上がる。今から出かけたら、ビールの炭酸が抜けてしまうだろうに。
     まあ、それで文句を言われたら自分の取り替えてやればいいか。などと納得をして、頑固なイノに続いて身支度をする。
     これがハロウィンかと聞かれたら、「はい」とは言い難いが、祭りごとなんて、所詮はただの口実で良いのだろう。
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