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    ゼロノチャン

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    ゼロノチャン

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    命日文

    #ヤマイノ文
    yamainoSentence

    安眠 寝苦しい。というか、息苦しい。何かが身体にのしかかっているような、……そんな嫌な感覚で目を覚ました。
     瞼は閉じたままに、ベッドに投げ出した片手を恐る恐る握る。寝起きで力が入らないものの、小指、薬指、中指、人差し指と、問題なく動かすことが出来た。
     ほっと胸を撫で下ろす。……大丈夫。金縛りではないようだ。
     だとしても、目を開けて事実を確認するのが怖い。
     この図体で怖がりだなんてあまりに滑稽な自覚はあるのだが、子供の頃から駄目なのだ。ホラーとかオカルトとかそういう、理屈が説明できない事象は、どうしたって怖い。
     寝てるうちに金縛りにあって、髪の長い女の霊が身体を這う。なんて、ホラーじゃよくある展開だし。

     それでもうっすらと瞼を開くことが出来たのは、その何かに体温があったからだ。
     僅かな隙間から己の胸の上を覗き見る。薄暗い朝の光に照らされぼやけた視界に、布団と身体の間に黒い何かの存在を捉えた。
     一瞬ドキッとしたものの、それが静かな寝息を立てていることに気付き、今度はしっかりと目を開けて確認する。
     外側に跳ねた特徴的な黒髪。それと同じ真っ黒な睫毛は伏せられ、頬に影を落としていた。
    「……イノ?」
     思わず名前を零す。
     よく見知ったその男は、上半身を俺の身体にのっけて、すやすやと睡眠を貪っていた。
     状況を理解した途端、意識がはっきりとしてくる。そういえば昨晩は夜な夜なこいつが俺の部屋に訪ねてきたのだった。
     ……確か、『眠れない』なんて下手くそな誘い文句に乗ってやって、そのまま寝床を共にしたんだっけ。普段なら違和感を覚える行動だったが、昨日は奏多の命日だったし、墓参りにも行ったし。イノが変な行動を起こすには十分な材料があった。
     俺の左胸に耳を当てながら眠る姿から察するに、恐らく心音でも確認していたのだろう。
     何故分かるかって、以前にも似たようなことがあったからだ。例えば俺が怪我で入院した時とか、流行り風邪で寝込んだ時とか。どちらのときも、咄嗟に寝たふりを決め込んでしまったのだが、イノが俺の鼓動を聴いていたことには気付いていた。
     きっと、癖みたいなものなのだろう。死んでないか確かめるなんて嫌な癖だが、そうでもしなければ安眠も出来ないこいつの心境を思うと胸が詰まる。
     姿勢を崩さぬまま首だけ動かして枕元の時計を確認すると、針はまだ五時前で止まっていた。
     自分は墓参りとかで疲れていたのもあって結構すぐ眠ってしまったのだが、イノが乗っかってきたのを覚えていない。つまりこいつはなかなか寝付けなかったのだろう。
     ……まだ早いし、少し可哀想だからこのまま寝かしてやるか。
     そう思って視線を戻した矢先、目が合った。
     さっきまで俺の胸を枕に眠っていたイノが顔をあげ、じとっと重たげな目で俺を睨みつけている。
    「な、なんだその顔……。言っておくが、お前が自分で乗っかったんだぞ」
     冤罪をかけられて理不尽に叱られるのは御免だから先に弁明をしたのだが、イノは黙って瞬きをするだけだ。
    「……おい?」
    「……ん」
    「寝ぼけてんのか」
     もう一度呼びかけるも、返事らしい返事が返ってくることはなく、イノは小さく「おう」とだけ呟くと、また俺の胸を枕に頭を預けた。
     そのまま、瞼を閉じ、一分も経たぬ間にすやすやと寝息を立て始める。
    「……寝やがった」
     いくらこいつが華奢でチビだとはいえ、身体に乗っかられたままだと息苦しいのだが。
     でも、猫とか飼ってたらこんな感じなのだろうか。
     少し想像をしてみる。いや、猫だったらもっと柔らかいし、暖かいだろう。
     そっと、外跳ねの髪を撫でた。見た目より柔らかいが、猫と比べたらやっぱり硬い。それに、チクチクしていてくすぐったい。
     まあ、でも。猫と違って潰してしまう心配もないか。

     華奢な背に腕を回す。低い体温を腕の中に感じながら、再び意識を手放した。

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