捕食「グロじゃん。もはや」
俺は鏡の前でひとり呆れていた。
昨晩はそれはそれは熱い夜だった。久しぶりだったからだ。
ここのところ仕事のスケジュールが絶妙に合わなくてなかなか時間が取れなかったのだが、ようやく俺の夜勤とがズレて、当然のように致す流れになった。
だからって、ここまでたっぷり痕を残していかなくたっていいだろうに。
まあ、こんだけつけられたのに覚えてねえ時点で俺も夢中になりすぎてたんだろうけどさ。それとも俺が寝てる間につけたんかね?それはそれでどんだけヤりまくってたんだって話だが。こんなはっきり痕が残るほど歯を食いこませられても寝てられたんなら、それはもはや気絶だっつの。
キスマークはもちろん、かなりくっきりとした歯形まで、首から下のあらゆるところに散りばめられている。なんかそういう柄の服着てるみてえにびっしりと。怖えよ。ここまで来たらもうエロくもなんともなくただただグロテスクにしか見えない。こんなの見たら誰でも引くだろ普通。
「クソ……シャワーすげえしみるしよ…皮に傷つくまで噛むのはやりすぎだろうが…」
今日の俺は夕方に出勤ということで、現在は昼過ぎ。もちろん一番はとっくに家を出ている。あいつは起きた時、横でこんな姿になってた俺を見て、どんな反応をしていったんだろう。流石にやりすぎたと反省しただろうか。それとも、夜みてえに満足気に笑ってたのかな。
「ちょっとは反省してくれてりゃいいけど」
これじゃおちおち袖もまくれねえよ。こんな手首にまでつける必要はなかったろ。なんなら指まで噛み痕があるじゃねえか。この部分はもう隠すのを諦めるしかない。
職場での俺は、やんちゃな犬を飼っている設定になっている。うっかり不注意で歯形を見られてしまったときのための対策だ。しかしここまで来たら8割方ホントの話と言ってもいいだろう。あの野郎、一番…ヒトの姿をした犬め。しつけ用の口輪をしてやりたいくらいだ。ああ、でもそしたらキスができないか。それは寂しい。
それに、動くたび服と擦れて噛み痕がうっすらとピリつくこの感覚も満更でもないというか…
「…あーあ、可哀想な俺。一番のせいで変態にされちまってんじゃねえかよ」
今ここでいくら文句を言おうが、全く一番に届かないことくらい分かっている。別にそれでいい。でも、あいつが今頃くしゃみのひとつでもしてりゃいいなと思いながら、俺はひっそりとほくそ笑んだ。