拝啓阿含くんへ♡
あなたが不良どもをボコす時の楽しそうな顔が好きです♡返り血を浴びて笑っているあなたが好きです♡とてもカッコいいです♡大好き♡
ヒル魔より♡
「何だよ、この気色悪ぃ手紙」
「カッコいい阿含くんの為に愛をしたためてみたの♡嬉しい?」
「嬉しいわけあるか。バカかよ」
「つまんねー反応だな。『嬉しいよ、ハニー』くらいの冗談も言えねえの?」
「言うかボケ」
「テメーが『バレンタインは毎年面倒くせぇ』っつうから、少しでも面白くしてやろうと思ったのに。俺に感謝しやがれ」
「面白くねぇよ」
「つまんねー」
◆
「阿含くんへ♡?こいつは……」
今日は2月14日。この日は最悪だ。そこら中から甘臭え匂いが漂ってくるから。
部活終わり、女子に囲まれる阿含を置いて、先に阿含と同棲している家へ帰ってきた。
部屋着に着替えたところで気づく。阿含の奴、靴下しまい忘れてる。きっと落としたのだろう。しまっといてやるかと思って阿含の部屋に入った。
靴下をしまって部屋を出ようとする時、机の上に置かれたノートの切れ端に気づく。勝手に見るのはどうかと思ったが、好奇心が勝って、手に取ってみた。それは、乱雑な文字で書かれたラブレターだった。しかも俺からの。
覚えている。これは、中学の時に自分がふざけて送ったラブレターだ。何でこんなものが……。
考えていると、阿含が帰ってきた。部屋着に着替える為、自室に入った阿含と鉢合わせる。
「?何で俺の部屋にいんだよ」
「靴下、しまい忘れてたぞ。だからしまってやったんだ。感謝しろよ」
そこで、阿含がヒル魔の手元を見た。カッと阿含の顔が真っ赤になる。
「何勝手に見てんだテメー!!」
「俺のラブレター」
「デリカシー死んでんのか?!人のもん勝手に見るな!」
「俺たちにデリカシーとか似合わなすぎだろ。こんなもの取っといたのか?」
「……チッ」
阿含はバツの悪そうに、頭を掻いた。こいつは毎年大量の菓子やラブレターを貰って、中身を見もせずに即座に捨てる。
なのに、こいつが、こいつだけが残っている。
「ーマジ最悪。これは、あれだ。捨て忘れただけだ」
「何年間も?こんな机の上の、目立つところに置いてあるのに?」
「チッ」
阿含はその場にしゃがみ込み、どうしたもんかと考えている。なんとか誤魔化したいらしい。こんな決定的証拠を前に、無理な話だ。
「さっさと観念しちまえば?」
「ー……ったく、碌なことしねえなヒル魔は」
「で?これは何だ?」
期待に胸を膨らませながら、阿含の回答を待つ。今、すげえワクワクしてる。阿含が追い詰められているからではない。阿含からのまっすぐな愛を、見られるかもしれないから。もちろん、いつも愛はもらっているが、いくらでも欲しくなる。それが愛というものだ。
「テメーが考えてる通りだよ。取っておいたんだ。……あの時、本当は嬉しかったから。バレンタインには、いつもこれを見返す……」
尻窄みになっていく阿含の言葉に、愛しさが爆発する。俺もしゃがみ込み、阿含の額にキスをした。そして、頬を両手で挟み込み、視線を合わす。
「嬉しい。……本当はこの手紙とも言えない紙切れに、精一杯の恋心を乗せて渡したんだ」
「……」
阿含が何も言わずに俺を抱きしめた。俺も阿含を抱きしめ返す。言葉にしなくても伝わってくる。「愛してる」って。大きな大きな愛が降り注がれている。俺も同じ。バカでかい愛を阿含に注ぐ。
「なあ、俺も阿含からのラブレターが欲しい。書いてくれよ」
「……今度な」
後日、立派な便箋に入った手紙が、俺の部屋の机の上に置かれていた。開封すると、5枚にも及ぶ愛が、びっしりと書かれていた。何度も読み返してから、俺はそれを両手で抱きしめ、阿含がいるリビングへ向かった。
「嬉しい、ダーリン」
「そりゃよかった、ハニー」
冗談などではなく、心の底からそう言った。