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    かとうあんこ

    赤安だいすき

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    かとうあんこ

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    ★男子高校生な赤安にイチャイチャしてほしくて時系列(主に赤井の年齢)を操作してます
    ★今回は👻でません!
    ★いろんな赤安を楽しめる方向け!

    ##赤安
    ##降谷くんと赤井先輩

    うちのクラスの降谷は赤井先輩と同棲してるらしい③あなたのキスは数えられない「あっ、ちょ、ちょっと待って……そんなとこにキスするなんて聞いてないっ」
    「俺もキスする場所に指定があるとは聞いてないな?」
     赤井は僕の首筋に唇を這わせながらそう言った。そんなとこで喋られると余計にゾクゾクしてしまう。赤井はわかっていてやっているんだろうか。
     赤井と一日十回キスする約束をしてから早一週間。僕はもう体のどこもかしこも赤井にキスされて、服から見える場所でキスされてないところはないんじゃないかというぐらいキスされまくっている。
    「そ、そうだけど……ねえ、もう十回しましたよね?離してください!」
    「まだ三回だ」
    「ええっ!?」
    「唇を離すまでが一回。何度言ったらわかるんだ?」
     赤井は首筋から唇を移動させ、耳たぶを甘噛みした。そんな部位を口に含まれたのは生まれて初めてだ。僕は腰から下にうまく力が入らなくなってしまって、背中を壁に押し付けないと立っていることさえできない。
    赤井はキスが、多分、上手い。他のひととキスしたことがないから僕はキスの技術についてああだこうだ言える立場にないが、こんな風にキスしながらお喋りできる高校生がそうそういるわけないことぐらいはわかる。
    赤井はハンサムだし、なんだかんだ言って優しいからきっと女性にモテるのだろう。とんでもない場数を踏んでいてもおかしくない。そんな男に迫られてしまったら、僕には勝ち目はないのだ。
    「もう遅刻しちゃうから……!」
    「……仕方ない。残りは夜だな」
     赤井と壁の間に閉じ込められて早三十分。僕はそのままずりずりと床に座り込んだ。
    「そんなに良かったか?」
    「ち、ちがうっ、足が疲れただけ!もう、これから朝練なのに!」
     僕は赤井が勝手に開けた制服のシャツのボタンを閉めていった。赤井が飲んでいた紅茶の匂いが僅かに残っている気がする。部活の仲間に気付かれないといいんだけど……。
    「僕、先にでますけど、あなたも後からちゃんと学校に来てくださいね?」
    「ああ」
    「絶対ですよ?僕、三年生のところまで見に行きますからね!」
     一年生の僕と三年生の僕は使っている校舎が違う。同じだったらすぐに確認できるんだけど、朝練からホームルームまでの時間があまりないので、朝一に確認することはできないのだ。
    「ああ、もうこんな時間だ!」
     僕はテーブルの上に用意しておいた弁当箱を掴んで玄関へと向かった。
    「学校行ってすぐに練習するならウェアで行けばいいのに。着替える手間が減るだろ」
    「あのねえ。校則を読んだことないんですか?通学は制服でって書いてあるでしょう?……あっ」
    「どうした、忘れ物か?」
    「もしかして……赤井、僕に痕付けた?」
    「はあ?」
    「着替えるときに見えるのを心配してるんじゃ……」
    「つけてない」
     赤井は顔を顰めて断言した。嘘はついてないみたいだけど、ちょっと面白くない。僕なんかの体にキスマークは付けないって?はいはい、そうですか。
    「それならいいんですけど!」
    「あ、おい」
     赤井に呼び止められたような気がしたけど僕は振り返らずに玄関を駆け出した。
     最近の僕はちょっとおかしい。赤井にキスされるのは仕方なくなのに、赤井にとって自分がどういう存在なのかが気になって仕方ないんだ。
    こうやって付き合ってもない男の僕にキスしまくってるぐらいだから、赤井が相当キス好きなのは間違いない。
    それなら赤井は、本命の相手にはどんな風にキスするんだろう。体中にキスマークを付けるんだろうか。顔も知らない赤井の本命は僕の頭の中で幸せそうに赤井からの甘いキスを享受していた。


     朝練を終わらせた僕が教室に入るのと同時にホームルームの始まりを知らせるチャイムが鳴った。
    「ゼロ、おはよう」
    「おはよう、ヒロ。先生は?」
    「風邪ひいちゃったらしいよ。さっき、副担任の先生が来て言ってた。ホームルームの時間は自習だって」
    「そうなんだ……」
     昨日は元気そうだったのに。
     僕たちのクラスの担任の西島先生はうちの学校の先生の中では若い方に分類される。最後の独身なんて言われているからおそらく一人暮らしだ。風邪をひいて世話をしてくれるひとがいるのだろうか。なんて、先生が聞いたら「余計な心配するな」って言われそうなことをつい考えてしまった。
     でも、そんなことを考えていたのは僕だけではないようで、大丈夫かどうか連絡してみようと言っている生徒たちがいた。今は一応、自習の時間だから休みの時間に掛けてみることになったようだ。
     そんな感じに西島先生は生徒にとても慕われている。他の学年の生徒から相談を受けている姿も何度か見たことがあった。
     かくいう僕も、盗難被害に遭っていたときに西島先生には何度も相談に乗ってもらった。先生の紹介がなければ、こうして赤井と暮らすことはまずなかっただろう。そもそも赤井は僕のことを認知していなかったに違いない。僕は同じハーフということで赤井のことを先輩伝てに聞いたことがあったけど、直接話したのは西島先生に紹介してもらった時が初めてだった。
    「西島先生、早く良くなるといいな」
    「そうだね」
     自習とは名ばかりの雑然とした教室の中、僕はとりあえず次の授業の教科書を取り出した。
    「降谷くんはいるか」
     突然、教室のドアが開き教室の中はしんと静まり返った。
    「えっ、赤井、先輩!?」
     ドアを開けたのは赤井だった。僕のクラスに来たのはこれが初めてだ。
     席から思わず立ち上がった僕にクラスメイトの視線が集まった。みんなの顔には「どういう関係?」と書いてあるように見えた。
    「話があるんだが」
    「わ、わかりました」
     僕は慌てて教室を出て、赤井の背中を押すようにして教室を離れた。
    「なぜ押す」
    「だ、だって、みんな僕とあなたがどういう関係なのか気になってる感じだったから……」
    「ホオ、君は俺の家で同棲していることを友人に話してないのか」
    「寮を出たとだけ……親友のヒロにはあなたの家で住まわせてもらってるって言ってありますけど。っていうか、同棲じゃありません!ルームシェア!!」
    「そんな大きな声を出していいのか?クラスメイトの好奇心を擽ってしまうんじゃないか?」
     赤井の言葉にハッとして振り返ると、教室のドアに付いている窓から数人がこちらの様子を伺っているのが見えた。
    「あっちの空き教室に行きましょう!」
     僕はまた赤井の背中を押して廊下を進み、ほとんど使われていない空き教室に押し込んだ。
    「それで、話って?」
    「今夜、バイトが入ってな」
    「ああ、なんだそんなこと」
     赤井は、僕もまだよくはわかっていないのだが、心霊現象絡みのアルバイトをしているらしい。幽霊がでるという物件に行ってお祓いをしたり、憑き物を落としたりするのだという。
     赤井に出会う前の僕だったらとても信じられない内容だが、僕はこの目で二回、赤井が除霊するところを見ている。多分、結構強いと思う。
     そんな特殊なアルバイトだからか、報酬はいいようでアルバイトがある日は大抵、僕にお土産を買ってきてくれる。しかし、シフト制ではないため、今日のように突然呼び出されることもしばしばのようだった。
    「わかりました。今朝も伝えましたけど、僕も今日はバイトです。それでも帰りは僕の方が早いと思うので戸締りには気を付けます……って、この程度の連絡だったらメッセージでいいじゃないですか。わざわざホームルームを抜けてくることないのに」
    「三年になるとホームルームは毎回自習だから問題ない。今日は、西島先生の授業も自習だと聞いたんでね。君を呼び出せると思ったんだ」
    「はあ……」
    「今日の分がまだ終わってないだろ?」
    「えっ……ええっ、まさかここで!?」
    「ああ。あと七回。約束が残ってる」
     赤井は悪い顔でニヤリと笑った。
    「ここ学校ですよ?!」
    「問題ないだろ」
    「ありまくりますよ!!いつ誰が来るかわからないのに!」
    「ホオ、約束を破るのか?」
    「うっ……帰ってからでいいでしょ……?ね?」
    「待てない」
     赤井はそう言うと僕の唇に自分のを押し付けた。嘘だろ……僕、学校で、赤井と……!?
    「や、やだ……んっ」
    「あと五回……どこにキスして欲しい?」
    「やだってば……お願い、許して……」
     僕は思わず縋るように赤井の肩を掴んでいた。
    「……そんなに学校は嫌なのか?」
    「嫌です……」
     実は、赤井とキスをするとちょっとだけ下半身が兆してしまうのだ。学校でキスなんかしたらしばらく教室に戻れなくなってしまう。学費を免除してもらってる特待生が授業に遅れるわけにないかない。でも、そんなことを赤井に言えるはずもなく僕は駄々っ子のように嫌々を繰り返すことしかできなかった。
    「お願い……赤井……」
    「はあ……わかった。その代わり」
    「え?」
    「どこでキスマークなんて言葉を覚えたのか言いなさい」
    「……は?」
    「今朝、君は俺に痕を付けるなと言った。つまり誰かに痕を付けさせたことがあるんだろ?いつ誰にどこに付けられたのか言いなさい」
     コイツ……何言ってるんだ?キスマークなんて、小説にも漫画にも出てくるし、僕だって男子高校生なんだ。経験がなくったってそういうことに興味はある。
     それなのに赤井ときたら、まるで幼い子どもが変な言葉を覚えてしまったときの親みたいに腕組みをして怖い顔で僕を見ている。
     本当にこの男は僕をなんだと思っているのだろう。
    「ばかばかしい。いつなんて、そんなの覚えてませんよ」
    「ホオ……?」
    「それに、どうしてあなたに僕がそんなことを話さないといけないんです?揶揄うのも大概にしてください!」
     どうせ童貞だってことを揶揄いたいだけなんだろ。ファーストキスが自分だと知っているから、僕にマウントを取りたいのか。赤井がそんなことにこだわるなんてがっかりだ。
    「君はわかってない」
    「はあ!?どっちが!!」
     思わず大きな声を出すと、僕の口を赤井がまたキスで塞いだ。この調子じゃきっと本命と対面している時も面倒になるとキスで話を遮るに違いない。
    「や、め、ろ!嫌って言った!」
    「大人しくしろ」
     赤井は僕の顎を右手でつかむと、そのまま壁に押し付けた。大人しくさせるにしたって乱暴すぎる。本気で怒りが沸いて来た。
     そんな僕の気持ちを知らない赤井は僕の首筋に唇を這わせ始めた。
    「んん!?」
     赤井は今朝の優しい唇の動きとは対照的に、僕の首に強く吸い付いた。痛いぐらいに薄い皮膚を吸われて、赤井が僕にキスマークを付けようとしているのだと気が付いた。
     信じられない!!
     僕は自由になっている右手で赤井の鳩尾にフックを食らわせると、赤井の手の力が弱まった隙をみて空き教室のドアへと走った。
     そして教室を出る前に、床に膝を付く赤井を振り返った。
    「赤井なんか大嫌いだ!!」
     僕の大声はホームルーム終了のチャイムと共に空き教室に響き渡っていた。


    「はい、お待たせしました!ラーメン、半チャー、餃子一枚です!」
    「おお、待ってました!」
     常連さんは僕が運んだA定食を見て嬉しそうに箸を割った。
     ここは僕がアルバイトしている中華食堂・万来亭。大将と女将さんの二人で切り盛りしている小さな中華料理店だ。僕の仕事は皿洗いと配膳で、調理は二人が全てやっている。
    実のところ、僕はあまり料理が得意ではない。赤井の前ではできるフリをしたけど、ヒロに教えてもらったものしか作ることができなかったりする。ここをバイト先に選んだのも、美味しい賄いつき!という文句に惹かれたからだった。
    「零くん、そろそろ休憩入って」
    「今、旨いの作ってやるからなあ!いっぱい食べろよ!」
    「ありがとうございます!」
     そう言われると急に腹の虫が鳴きだした。今日の賄いは何だろうなあ。
     そんなことを考えながらシンクの周りを拭いていると店のドアが開いた。入ってきたのはギターケースを背負ったヒロだった。
    「ヒロ!」
    「お疲れ様、ゼロ。バンドの練習が終わったらお腹すいちゃってさ。食べに来ちゃった」
    「いらっしゃい!好きな席に……え」
     ヒロの後から店に入ってきた人物を見て僕の口から間の抜けた声が出た。ヒロの後ろに立っていたのは私服に着替えた赤井だったのだ。
    「ど、どうして、ヒロが赤井と!?」
    「あはは……ゼロのバイト先を教えて欲しいって言われてさ。教えたらラーメン奢ってくれるって言うから、つい……」
    「やあ、降谷くん」
    「ど、どうも……」
     何しに来たんだ、赤井秀一。
     僕は朝のあれでかなりきまずいというのに、赤井はいたって普通の様子で「いい店だな」なんて委員柄店の中に視線を巡らしている。友人のバイト先に初めて来た男子高校生と言う感じだ。
     それもそうか。だって僕と赤井は、友人なんだから。毎日キスしてるけど。きっと赤井が育った国では友人同士のキスなんて当たり前なんだろう。一緒に暮らしているのだって、考えてみれば寮と変わらないじゃないか。
     馬鹿みたいだ。僕ばっかり、特別だって思ってる。
    「はあ……ご注文は?」
    「俺は万来ラーメン!」
    「赤井の奢りなんだから定食頼んじゃえよ」
    「えっ、いや、そんな」
    「金ならある。好きなものを頼んでくれ」
    「えっ……じゃあ、餃子も……」
    「俺も彼と同じものを」
    「はいはい」
     僕が注文を持ってキッチンに戻ると、大将が僕の賄いを用意して待っていてくれた。
    「友だちと一緒に食ってていいぞ。友だちのぶんもすぐに用意するからな!」
    「あ、ありがとうございます……」
     今日の賄いは僕が大好きなセロリといかの炒め物を乗せた丼だった。ラーメンのスープを使ったわかめスープ付き。僕はトレイに乗せてヒロたちのテーブルへと向かった。
    「ゼロもこれから夕飯?」
    「うん」
    「うまそうだな」
     ヒロの隣に座っている赤井が僕の賄いを覗き込んだ。
    「あげませんよ」
    「それって確か、広東料理だよね。家で作ってみたいなあと思ってレシピ調べたことある」
    「「えっ」」
     赤井と僕の声が重なって僕たち三人は顔を見合わせた。
    「え、俺、そんなに変なこと言った?」
    「いや……俺はこの料理を家で作るという発想に驚いたんだ」
    「僕も……このイカなんてすごく難しそうじゃないか」
     僕は細かい切れ目が入ってチェック模様みたいになったイカを箸でつかんだ。
    「あ、それはそんなに難しくないよ!もちろん、大将みたいに綺麗にはできないけど、包丁を浅く入れてその向きを変えて交差なるように入れるんだ。そうすると火を入れた時にそんな風に……」
    「あらあ、ヒロくん、大正解!」
     そう言ってテーブルにラーメンを運んできてくれたのは女将さんだった。
    「よくお料理するの?」
    「はい」
    「そう!ああ、そういえば、零くんもヒロくんから料理を教わったって言ってたわねえ」
    「お、女将さん!」
    「え?」
     慌てる僕を女将さんが不思議そうな顔で振り返った。すると別のテーブルのお客さんから声が掛かり、女将さんは「ゆっくり食べて行ってね」と言って、そっちのテーブルに行ってしまった。
    「降谷くん」
    「な、なんですか……」
    「君、料理が得意なわけじゃなかったのか?」
    「それは……」
    「ええっ、ゼロ、そんなこと言ったのか!?」
     最初は料理上手ぶるつもりはなかったんだ。赤井が僕のためにピザを注文するって言うから、家に住まわせてもらう上にそれはさすがに申し訳ないと思って夕飯づくりを買って出ただけ。でも、赤井が僕の料理が美味しいって言ってくれたから、引っ込みがつかなくなった。
    ヒロに教えて貰ったり、レシピサイトを見たりして、試行錯誤をして赤井の前でだけ料理上手の皮をかぶったのだ。
    「別に!得意だなんて言ってない!作れなくはないだけです!」
    「ふうん?」
     ヒロは意味深な相槌を打つとラーメンを口に運んだ。僕も賄いをレンゲで掬ってほおばった。美味しい、美味しいけど。赤井がじっとこちらを見ているせいでうまく食べられなかった。
    「こっち見るなよ……食べにくい……」
    「気にしないでくれ」
    「ほら、ゼロ、俺の餃子いっこあげるから、な?」
    「うっ……」
    「俺のもあげよう」
    「え、あ、ちょっと、僕」
     そんなに食べられない、と言おうとしたところで、今度は厨房から大将の声がした。
    「零くん、今日はお替りしないのか?遠慮しないでどんどん食べろよ!育ち盛りなんだ!」
     ああ、大将……!そのお気遣いは今は……!
     僕の前でヒロと赤井がニヤニヤと笑っている。こうなったら自棄だ!
    「ありがとうございます!お替り貰いたいです!スープもいいですか!!!」
    「おうよ!」
     僕はいつもの調子で自分でご飯とスープをお替りした。その様子を見た赤井は、レンゲを持ったまま俯いていた。肩が震えるほど笑ってくれてどうも!!
    「なんだよ、笑いたければはっきり笑え!」
    「はははっ、君、最高だな」
    「へ……?」
    「ますます好きになった」
     赤井は目尻にくしゃっと皺を寄せて笑っていた。そんな顔を見たのはこれが初めてだ。いつも余裕たっぷりか意地悪な笑い方をするのに。このひともこんな顔して笑うんだなと思うと、僕の胸が変な音を立てた。キュン。慌てて賄いを食べたせいだ。きっと。ううん、絶対。
    「ごちそう様」
     僕たちの中で一番最初に食べ終わったのはヒロだった。


     バイトを終えて家に帰ると、赤井がリビングでテレビを見ていた。黙って通り過ぎるのも大人げない気がしたから「ただいま」と声を掛けると、赤井は「おかえり」と言って立ち上がった。
    「今朝はごめん」
    「……ふん」
    「本当はそれを謝りたくて諸伏くんに君のバイト先を教えてもらったんだ」
    「へえ。そんな感じには見えませんでしたけど」
     僕は可愛げのないセリフを吐いて、手を洗うために洗面所へと向かった。赤井が謝ってくれたこと、謝るためにわざわざ僕のバイト先にきてくれたことが嬉しくて赤井を直視することができなかった。
     そんな僕の複雑な胸の内を知る由もない赤井は僕のあと追って洗面所まで付いてきていた。
     赤井が僕の後ろに立ってる。そのことを意識すると、うなじがカッと熱くなった。お願いだから、気付かないで。そう思っているのに、赤井は僕を後ろから抱きしめた。
    「本当だ……無理強いをしてごめん。もう学校ではキスしない」
    「わ、わかってくれればいいです…………僕も殴ったりしてごめん……」
    「いいパンチだったよ」
    「う……本当ごめん……昔から手が出やすくて……」
    「はは、君って本当に」
     可愛い。赤井は僕の肌に沁み込ませるようにそう言うと僕の項にキスをした。
    「ひっ……」
    「ここはダメだったか?」
    「そ、そういうわけじゃ……」
    「じゃあ、許してくれ。俺はあと三回しか君にキス出来ないんだ……」
     唇が触れるか触れないかの距離。くすぐったくて恥ずかしいのに、離れないでと思っている僕がいた。
    「……あれから考えてみたんですけど……」
    「ん?」
    「多分……図書館で借りた小説だと思うんです」
    「え?」
    「だから……キスマーク。……本物は見たことない」
    「……本当に?」
    「こ、この期に及んで嘘を吐くわけないでしょう……」
    「見てみたいか?」
    「え?」
    「君が許してくれるなら、俺が本物のキスマークを教えるよ……」
     僕は洗面台に手を着いた。そうしていないととてもじゃないけど立っていられそうになかったから。
    「……教えて……ください」
    「いい子だ……俺のベッドに行こう」
     赤井は僕の手を掴んで歩き出した。向かった先は赤井が自室にしている書庫。入るのは今が初めてだ。心臓がうるさいくらいに音を立てて耳が熱くて痛い。
     赤井がドアを開ける。僕の目にまず飛び込んできたのはグランドピアノだった。
    「えっ……ピアノ……?」
    「それについてはまた話す。今は焦らさないでくれ」
     赤井はそう言うとピアノの隣にあるベッドに僕を座らせた。
     すごい数の蔵書だ。見上げても背表紙が判読できないぐらい高いところまで本がある。赤井はこれらすべてをもう読んだのだろうか……。
    「どこならいい?」
    「え?」
    「キスマーク。君、もしかして俺のことを揶揄ったのか?」
    「えっ、そんなつもりは……えっと、見えないところならどこでも……」
    「つまり、服の中にキスしてもいいってことだな?」
     赤井がなぜか鋭い目つきで僕を見下ろすので僕はたじろいでしまった。
    「あっ。ま、待って、僕、部活やったあとシャワー浴びたけど、バイトして汗かいたからっ」
    「構わん」
     僕が構うんだよ!そう反論しようとしたけれど、次の瞬間にはもうベッドに押し倒されていた。
     赤井の指が僕の服の中を這う。キスする場所を探している。こんなことならどこって指定しておけばよかった。なるべく汗をかいてないところ、ふくらはぎとか、膝の裏側とか……。
     でも赤井が選んだのは僕の胸の上だった。ギリギリ制服に隠れるそこに唇が強く吸い付く。ああ、絶対汗かいてるところだ。僕はベッドに掛けられた濃いグレーのシーツを手でつかんだ。息が苦しい。胸が熱い――。
    「よし……」
     僕の胸から唇を離した赤井は満足げに僕を見下ろした。僕も見ようとしたけれど、自分ではどこにあるのかよくわからなかった。
    「どうしてそんなきわどいところ……」
    「俺が見える場所がいいからな。次は……」
    「えっ、まだつけるの!?」
    「あと二回残ってる」
     無理だ。あと二回もあんなに長いキスを体にされたら僕はまちがいなく呼吸困難で倒れてしまう。もうベッドの上に倒れてるけど。でも救急車で運ばれて「呼吸が苦しくなった原因は?」「キスマークです」なんてやりとりするのは恥ずかしすぎるだろ。
    「ま、待って……!次は僕に付けさせてください!」
    「ホオ?」
    「僕がしてもキスはキスでしょ……?」
     僕がそう言うと赤井はニヤリと笑った。そして、僕の横に寝転がった。
    「いいよ」
    「あ、どうも……えっと、じゃあ」
     赤井と同じところに付けようと服を捲る。なんだ、このいやらしい感じは。目の前に現れた赤井の白い肌と綺麗に割れた腹筋を見て、僕はごくりと唾をのんだ。
    「どこにする?」
    「えっと……赤井とおなじとこ……」
    「そうか。おいで……」
     僕はおずおずと赤井の胸に自分の唇を近づけた。その上から赤井の腕が回る。頭を抱き絞められた僕は腹をすかせた赤ん坊のように赤井の胸に吸い付いた。
    「そう、上手だよ……」
    「ん……付いたかな?うーん、もう少しだな……」
    「んん」
     赤井がなぜか咳ばらいをしたけど、僕は気にせず赤井の胸を吸った。左右の胸筋の間。その下にある心臓が鼓動しているのが伝わってくる。赤井も緊張してたりするのだろうか。そう考えると興奮してくるのに、なぜか安堵してもいた。このまま瞼を閉じたら眠ってしまうかもしれない。
    僕の居場所が世界中のどこにもなくなったとき、この胸にたどり着けたらいいな。そんな夢想をしている間に、赤井の白い肌にピンク色の花が咲いていた。
    「できた!」
    「上手に残せたな……」
    「そうですか?僕初めてだから……」
     赤井の顔を見上げて僕は言葉を失った。なんでそんな、顔を赤くしてるんだよ……まるで初めてみたいな……。初心なフリしたって赤井が経験豊富なのはもうわかってるのに。
     いや、そうじゃない。僕と赤井はこれが初めて。誰に何回吸い付いていたって、これが僕たちの初めてのキスマークなんだ。
    「最後の一回はどうしようか?」
    「……く」
    「ん?」
    「口にして……赤井、キスしよ……」
     僕は赤井に跨ってちゅっと唇を重ねた。そして赤井の寝室を飛び出すと、そのまままバスルームに飛び込んだ。
     じれったい気持ちで服を脱いで、鏡に自分を映す。赤井とは違う色の肌。その中心は僕の心臓が飛び出したみたいに赤い痕が付いていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
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    かとうあんこ

    DOODLE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする話、第三話。
    「その日のことはよく覚えてます。パパと姉貴とわたしの三人でママの誕生日プレゼントを買うために出掛けていたんです。姉貴は小学生、私は保育園に通っている頃で、パパが贔屓にしているアンティークショップに……え?名前?なんだったかなあ。随分前に倒産しちゃったから、もうありませんよ。……いえ、ママはドールハウスには全然興味なくて。アンティークショップのガラスの戸棚に飾られていたワイングラスをプレゼントすることにしたんです。それをお店のひとがラッピングしている間に、オーナーさんが『お嬢様たちにこちらはいかがですか?』と言って見せてくれたのが、そのドールハウスでした。本物の西洋のお屋敷を小さくしたみたいですごく素敵だったから、私も姉貴もすぐに気に入りました。ふたりでパパにおねだりして、買ってもらえることになったんですけど……パパがお会計している間、奥さんが、あ、オーナーの奥さんです、がこんなことを言ってたんです。『このドールハウスに人形は絶対に入れないで』って。私たちは不思議に思いましたが、奥さんがあまりに真剣な表情だったから「うん」と答えました。でも家に帰ってドールハウスを広げて、別に梱包してもらった家具を並べているうちに……人形を入れて遊びたくなったんです。ほら、子どもってダメって言われるとやりたくなるところあるじゃないですか。それに……人形がないほうが変な感じがしたんです。とても精巧にできていたから……ううん、そうじゃないな……人がいる気配がするのに誰もいない……そんな感じでした。でも、うちにあるのは着せ替え人形ばかりで、そのドールハウスのサイズにちょうどいい人形がなかったんです。そしたら姉貴が「紙のお人形を作ってドールハウスに入れよう」と言ったんです。「紙の人形なら約束を破ったことにはならないだろうから」って。私はすぐに部屋にあった画用紙に黒いマジックで女の子の絵を描いてソファに座らせました。その隣に姉貴が書いた猫の絵を置いたところで夕飯の時間になって、私たちはドールハウスをそのままにして部屋を出たんです。……あはは、大丈夫よ、真さん。子どもの頃の話だから。それに、もし何かあっても真さんが守ってくれるでしょう?……はい。そうなんです。夕飯を終えてドールハウスがある部屋に戻ってきたら、紙の人形が切られていたんです。バラバラに……。「やっぱり人形を入れたのがいけなかったのかし
    9903

    かとうあんこ

    DONE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする第二話
    烏丸怪談②友人の話「え?僕には怪談はないのかって?う~ん、そうだなあ……僕の友人の話でもよければ。はは、そういうことが多いね。まあ、どちらでもいいじゃないか。これは友人が保育園に通っていた頃の話だ。彼はいつもお迎えが一番最後でね。母親の仕事が忙しかったんだ。彼は保育園では周りの子どもたちとうまくいってなかったから、園児が少なくない遅い時間のほうが遊びやすかった。だから、母親の迎えが遅くても気にならなかった。嬉々として居残っている彼を見て羨ましかったのか、園児のひとりが意地悪を言ったんだ。『あいつはいらない子だからお迎えが遅いんだ』って。気丈な友人もこれにはショックを受けた。いつもは独り占めできて嬉しい積み木も全然楽しくない。今すぐに母親に抱っこしてほしかった……。そんなことを考えてると、友人の前に見知らぬ男の子が現れた。『キミ、いらない子なの?』友人は当然ムッとして無視をした。ちょっとだけ泣いてたかもしれない。その寂しさを見抜いたように男の子は『じゃあ、一緒に遊ぼうよ』と言った。友人は少し悩んでから『ウン』と言った。それから二時間、彼は行方不明になった。保育園の先生はもちろん彼を探したし、お迎えに来た母親も一緒に探した。家に帰ったんじゃないか、散歩で行った公園にいるんじゃないか。いろんな場所を探したが、見つからない。いよいよ警察に連絡しようとなった時、子ども用トイレから友人が現れた。『やっと帰ってこれた』と言いながらね。二時間だけの神隠しだ。……どう?名探偵の君には物足りなかったかな」
    8690