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    かとうあんこ

    赤安だいすき

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    かとうあんこ

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    雷神✖︎探偵パロ

    グッバイ、神様「以上の証拠からあなたが犯人であることは間違いありません」
    座敷に集められた人々は驚愕の表情を浮かべ、犯人と名指しされた男と探偵を交互に見た。
    犯人の男は生まれも育ちもこの村で、淀んだ瞳も皺が寄った唇も、村の景色によく馴染んでいる。
    一方の探偵はまるで異質だった。透き通るような金色の髪に碧眼。それも子どもが画用紙に描いた空のような淡い青だ。
    長い脚と長い腕は築百年弱の日本家屋にはあまりにもミスマッチで、スマホの切り抜き加工で無理矢理嵌め込まれたように見えてしまう。
    東都で働きだした三女が雇った探偵だからシティーボーイであることは間違いない。
    とはいえ、これほどまでに美しい男が都会にうようよいるわけないことは、四方を森に囲まれた山間の村でに生まれ育った彼らにもわかっていた。
    「駐在さん」
    声を掛けられてハッとした表情で顔を上げたのは今年になって村に配属されたばかりの若い警察官だった。村人からも「駐在さん」と呼ばれているが、その探偵に呼ばれると、洋菓子屋の冷蔵ケースに並べられたケーキにでもなったような心地がした。
    「は、はい」
    手錠を出して見せると探偵は軽く頷いて障子を開けて座敷を出た。
    この部屋は北側の庭に面していて、今日集められた面々は縁側に靴をそろえて座敷に上がっていた。
    座敷を囲む廊下が殺害現場となっており、現場を保存するために通行禁止になっているからだ。
    もし通ってもいいと言われたとしても、廊下を歩きたいと思う人はいなかっただろう。それぐらい無残な殺し方だった。
    探偵が出て行く様子を見て駐在は慌てた。
    まだ事情聴取に付き合ってもらわないといけない。
    彼の謎解きは十分理解できる内容だったが、それを全て覚えていられる自信がなかった。
    そんな駐在の隙を見て、立ち上がった人物がいた。
    犯人と名指しされた男だ。
    あと少しで莫大な遺産を手にするはずだった彼はポケットに隠していた刃物を探偵に向けた……。
    「この野郎……!」
    座敷にいた人々が悲鳴を上げ、座布団から腰を上げる。
    しかし、誰もが間に合わないと思った。
    探偵はまるで犯人がそうするとわかっていたかのように、ゆっくりと振り返った……。
    「やめたほうがいいですよ」
    「うるせえええ」
    男が刃物を振り上げた、その時、夜空に閃光が走った。
    思わず目を閉じてしまうほどの光に数秒遅れて轟音が鼓膜を揺らした。
    駐在がようやくはっきりした目で庭に人が倒れているのを確認した。
    それは探偵ではなく、彼を刺そうとした犯人の男だった。
    縁側で靴をひっかけて近寄ると息があるのがわかった。
    髪はパーマを当てたようにクルクルになっている。
    昔見たコントの雷様みたいだと駐在は思った。
    「だから言ったのに」
    探偵は困ったように笑う。
    この表情をされると誰もが口が軽くなり、因習に縛られた村に生きる人々の事情を明らかにしたのだった。


    諸々の事後処理が終わり、愛車の白のスポーツカーに乗り込むことができたのは翌日の昼過ぎだった。
    安室はハンドルを握って、大きな欠伸をした。
    「だからやめておけと言っただろう」
    助手席にはいつの間にか髪の長い男が座っていた。濃い色の着物を身に纏い、目尻には役者がするような赤い化粧が施されている。
    瞳は翠だが、よく見ると虹彩に小さな金色のスパークがある。
    そんな不思議な男が助手席に突然現れても、安室は驚かなかった。
    なぜなら男は安室の神様だからだ。
    「仕方ないでしょう、鈴木園子嬢のご友人からの依頼だったんだから」
    「ボウヤにでも任せておけばいいだろう」
    「あのねえ、高校生に山奥の陰気な村で遺産相続が絡んだ殺人事件を調査させられるわけないでしょう?」
    安室は赤井に言い返しながらエンジンをかけ、アクセルを踏み込んだ。
    窓の景色が動き始めると、安室の中で事件が過去のものとなっていく。
    さようなら、コンビニもWi-Fiもない因習村。
    禄でもない大人ばかりだったが、子どもたちは無邪気で可愛かった。
    村と外界を繋ぐ唯一の道であるトンネルの前までくると、零は膝の上に乗せていた虫籠からカブトムシをだして窓の外に放った。子どもらが餞別にくれたものだ。
    籠の中に何か生き物を入れて飼うのはどうも好きになれない。
    子どもの頃からそうだった。
    村人たちは安室を都会的な人間だと感じていたようだが、実際は地方の出身だ。今暮らしている東都と比べたらそれこそ虫籠のような、小さな小さな村だった。
    独自の神を祀り、百年に一度生贄を捧げる。
    生贄には村で一番美しい子どもが選ばれる。
    それが彼、安室透だった。
    「零」
    「ん?なんです?」
    「ホテルに寄れ」
    「……えっ!?」
    本名を降谷零という。
    生贄に捧げられた時に捨てた名前だが、助手席の神様は今もその名で彼を呼ぶ。
    「ホテル!?」
    「高速沿いにあっただろう」
    村に向かう途中でホテルの前を通りすぎたのを男は覚えていたらしい。
    いや、彼の本性は万物を知る雷神であるから、高速道路沿いにホテルが並んでいる理由も用途も把握しているのかもしれない。
    この男こそが、探偵安室透が子どもの頃に生贄として捧げられた神様だ。
    安室は彼をライと呼んでいる。雷神のライだ。
    安室より前に生贄に捧げられた子どもがどうなったのかは知らないが、己がこの年齢まで生き延びていることを考えるとライは生贄を食う気はないようだ。
    依代にするのかと考えたこともあったが、ライは人前に顕現することができる。普通にスタバでコーヒーを注文することさえある。
    ということは……もしかして、交わる、とか?いやいや、僕、男の子だし。
    しかし様々な神様譚を読んでみると、神が人間と交わる話はいくらでもあった。
    「そんな、急に言われても準備が……」
    「準備?必要ないだろ」
    「ライはそうかもしれないけど……」
    神は村で『雷神さま』と呼ばれていた。安室も最初は『さま』をつけて読んでいたのだが、本神が「ライでいい」と言うので呼び捨てにしている。
    村の大人が聞いたら零は手ひどく折檻されていただろう。
    しかし、零が七歳まで育った海辺の村はもうない。
    零が生贄に捧げられた年、村役場に特大の雷が落ち、村自体がなくなったのだ。
    今では村の名前は都市伝説の中でだけ生きている。
    赤い雷が落ちて消えた村として。
    「なにを悩む必要がある?」
    「だ、だって」
    「君が徹夜明けだから休めと言っているんだ。たまには言うことを聞け」
    神は眉間に皺を寄せた。ワーカホリックな部下を嗜める上司のような表情だ。
    「……わかってますよ。着替えがないからどうしようか考えていただけです」
    ライにその気がないのはわかっていた。
    美しい子どもを差し出せと村人に迫っていたのに、二十九になるまで手を出されなかった。好みではないのだろう。人間界で七歳の子どもに手を出せば重罪であり、安室が最も軽蔑する犯罪の一つでもある。
    しかし、安室には雷神が世界の全てだった。安室の外見に差別的な視線を向ける村から連れ出し、普通の家庭とは言えなくとも寝る場所と食べるものを与えてくれた。うっとりするような低い声で絵本を読んでくれた。字を教えてくれた。友だちと喧嘩をして帰ってくれば眠るまでそばにいてくれた。
    全てを捧げる覚悟をするのに十分な優しさと時間をもらった。
    なのに求められない。
    切ないのを通り越して悔しかった。
    「この面食いめ……!」
    「おい、運転が荒いぞ」
    白のスポーツカーはゴム製のゲートをくぐり、恋人たちのためのホテルへと吸い込まれた。


    「そ、それで、ホテルで何があったんだ……?」
    親友の景光が頬を赤くしながら話の先を促す。
    「何もないよ、ヒロ。僕が目を覚ましたらアイツはもういなかったんだ」
    「そうか……」
    ヒロの肩から力が抜ける。親友の初体験を聞かされるのかと身構えていたのだろう。
    ここは毛利探偵事務所の下にある喫茶ポアロ。今は夕方からの営業に向けての休憩時間で、店内には僕とヒロしかいない。
    ヒロは村を出て初めてできた友だちだ。
    ライの正体を知っている唯一の友だちでもある。他の人には腹違いの兄弟と説明してきたが、ヒロには中学の時に本当のことを話した。
    「一体どこにいるんだろう?」
    ヒロの呟きが僕の心に波紋を広げる。
    ライが消えてから一週間が経っていた。
    「さあね!前にも一カ月ぐらいいなかったことがあるから、あんまり気にしてないよ」
    普段は人間界で暮らしているライだが、十月は神の宴に参加するため出雲へ行く。
    いつもは事前に伝えられていたのに、今回はそれがなかった。
    何か緊急の事態だったのか、それとも単なる気まぐれか。
    ライはスマホを持たないので確認しようもない。
    雷神である彼の身に何か起きたとは考えづらいが、自分に飽きたのかもしれないと考えると胸がぎゅっと狭くなった。
    「こんな時にごめんな?」
    「気にしなくていいよ」
    今日ヒロが僕を訪ねて来たのは、とある事件についての調査を依頼するためだった。
    ヒロは、幼馴染の贔屓目を抜きにしても、優秀な警察官なのだが、なぜかおかしな事件に遭遇しがちで、ひとならざるものが関与していることがままある。
    人生の三分の二以上をライと共に生き、そういう存在の知識がある僕に仕事を回してくれる。
    そうしてくれと僕の方から頼んだのだ。
    ライがいる限り僕がそれらに傷付けられることはないからだ。
    そのライがいないとわかってヒロは不安そうだった。
    「大丈夫だよ。ライの他にも伝手はある」
    「……無理はするなよ」
    「わかってる」
    この時の僕は、調査の途中でライがふらりと現れるだろうと鷹を括っていた。
    でも、調査が終わり、秋が来て、寒くなり、ベッドから出るのが辛いと感じるようになっても、除夜の鐘が鳴っても、ライは帰って来なかった。
    僕は生まれて初めて神様のいない正月を迎えた。

    部屋に着くとどっと眠気が押し寄せた。
    シャワーを浴びるつもりだったのにもう指先さえ動かすのが億劫に感じる。
    「そのまま寝るのか?」
    「んー……」
    「シャワーを浴びろ。嫌な匂いがする」
    バッと起き上がると自分の匂いを嗅いだ。
    ほのかに土の匂いと汗の匂いがした。
    今日の任務は山奥のトンネルの調査だった。ヒロからの新しい依頼だ。
    「あの山の古い神の匂いだ」
    「へえ……って、いつ帰ったんですか」
    ライは昨日もそこにいたかのように、僕のベッドに腰掛けていた。
    「うん?」
    「五カ月ぶりですね」
    「ああ、それぐらいだな」
    なんてことないようにそう言うと、ライはどこからともなく煙管を取り出しふかしはじめた。
    よほど僕の匂いが気に入らないらしい。
    どこにいたのかとか、何をしていたのかとか、聞きたいことは山ほどあったけど、やめた。
    聞いてしまったら寂しかったと白状してしまいそうだったから。
    僕は話をトンネルへと戻した。
    「そういえば、向かう途中に祠がやたらとたくさんありましたね」
    どれもが苔むしていて、傾いているものもあった。存在するが、忘れられている。周辺は新興住宅街で、学校から帰り途中の子どもたちを見かけたが、道端の祠は目に入っていないようだった。
    「祀ってはいけないからだろうな」
    「えっ?」
    「かつて戦があったのだろう。大勢の者が死に、荒れ野に散らばる死体を見て人々は恐れた。手厚く葬って、祠を建てたが、関わりあいにはなりたくないのだろう」
    まるで見て来たかのようなことを言って、ライは僕に向かって細く長く煙を吐いた。
    「ごほっ、何するんですっ」
    「これでいい」
    「はあ!?」
    「零は俺のだろ」
    僕に向かってずいと身を乗り出したライは口元は笑みを作っているのに、目が全く笑っていなかった。
    今のライに「お前を獲って食う」と言われたら信じただろう。
    獲物を横取りされた狼のような目だった。
    「五カ月も放っておいたくせに」
    「たった五カ月だろ」
    吐き捨てるようにそう言った口から紫煙と同じ匂いがする。
    煙草とは違う。薄荷と桂皮を混ぜたものを炙って、蝋燭から火を消した直後のような匂い。
    僕の神様は遥か昔から、こんな匂いだったのだろう。
    何人に煙を吹き掛け、何人の子どもを暇つぶしに引き取って、そして何人の前から姿を消したのだろう。
    そのひとりに過ぎないのだと、この五カ月が僕に思い知らせた。
    「もうやめる」
    「うん?」
    「神様と一緒にいるのはもうやめる」
    「……零?」
    虹彩の中で金色が瞬く。本気じゃないだろう?と問いかけるように。
    負けじと睨み返すとライの長い黒髪がぶわっと広がった。一本一本に神経が通っているかのようにうねる。
    「長い年月を生きるあなたにとって僕を育てたのはちょっとした遊びなんでしょう」
    空中でパチパチと音がして、小さな赤い稲妻が見えた気がした。
    所有物である僕が勝手に逃げようとしていることにライは怒っている。
    「そんな風に思っていたのか」
    それはこっちの台詞だ。
    こんな風に放置されるまで、僕はライに愛されているのだと勘違いしていた。
    神であるライは人間である僕と価値観が違う。
    ライにとって五カ月がほんのひとときだとしても、僕にとっては捨てられたと思うのに十分な時間だった。
    「俺から逃げられると思っているのか?」
    「逃げる?僕が?」
    こちらが顔を突き出すと、ライがわずかに驚いた顔をした。
    「逃げたくても逃げられないのはそっちですよ」
    「なに?」
    「いいものを見せてあげます」
    僕は薬種箪笥の引き出しから小さな虫籠を取り出した。黒竹で作られた籠の中にはエメラルドに似た石が入っている。おそらく隕石だと科学者の友人は言っていた。これが落下した瞬間を落雷と勘違いした昔の人が雷神の御本尊として祀ったのが始まりだったのだろう。
    「これであなたは僕のものだ、そうでしょう?」
    「……君が持っていたのか」
    ライが消えたあと僕は初めて故郷の村に帰った。といっても家も学校もすでにない。もしかしたらライがいるかもしれないという淡い期待は外れたが、かつて僕が生贄として捧げられた岸壁の洞窟でこれを見つけた。
    雷神様の祠の中で光っていた石だとすぐにわかった。
    ライはにやりと笑って、また紫煙を吐き出した。
    「俺をどうしたいのかな?」
    「…………恋人になって」
    「うん?」
    「だから!神様じゃなくて、僕の恋人になれ!僕のそばにいて、急にいなくなるな!それから、ちゃんと……愛して」

    今までと何が違うんだ?と聞きたかったがやめておいた。
    零が今にも泣き出しそうな顔をしていたから。
    俺が零の元を離れたのは、その石を探すためだった。
    なくても別に困りはしないのだが、母神から「神らしく社を持て」と言われて探す羽目になった。
    思いの外なかなか見つからず、別の何かを人間に祀らせればいいかと考えていたところだった。
    それがまさか家の引き出しから出て来るとは。
    零によからぬものが寄り付かないようにこの家には結界を張ってある。零の乳歯やはじめて字を書いた紙なんかをしまっている引き出しには特に厳重にしてあったから、気配を見つけられなかったのだろう。
    それが仇となったわけだが、俺の可愛い零から可愛いおねだりを聞けたのだから無駄な時間ではなかった。
    「ほら、こっちにおいで」
    「石を取り返すつもりでしょ……」
    「そんなことはしない。俺もそいつも君のもんだ」
    「……いいの?」
    「ああ」
    この身滅びるまで、そばにいると誓おう。
    百年に一度生まれ変わる君へ。
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