破滅のゆりかごペンは剣よりも強い
それは古くから言われ続けている格言だが、私はこの言葉が嫌いだった。
誰よりも平和を望んで精力的に活動してきたと自負していた。
地位もそれなりに得た。
だが私の手には平和は残りはしなかった。
ならば力があればよいのか、そう思って力も得てみたが私の望む平和などどこにもなかった。
何のためにカオスイズムの大幹部にまでなったのか、それを時折思い起こすが辛い。
「平和」など絵空事なのではないかと突き付けられる気がするからだ。
ただ望みが尽きたわけではなかった。
自身で叶えられぬのなら、もっと才能のあるものに託せばよい。
昔、教壇に立った時、子どもたちは皆未来を見据え輝いていた。
私は未来へ託すということを知っている。
その日、部下の報告に私は心が躍っていた。
ようやく兆しが現れた、そのことが何よりも嬉しかった。
私の望む平和が直に見れるかもしれない。
何よりその手は罪深き私を壊してくれるだろう。
今はその時が待ち遠しくて堪らなかった。
「なーんか楽しそーだね」
突然声を掛けられて部屋の入口を見るといつから居たのかリバルが立っていた。
「他の大幹部の部屋に無闇に立ち入らないよう重ね重ねお伝えしているはずですが」
「そうだっけ? それよりそれ、魅上才悟だっけ? お気に入りなんだ」
リバルは話しながらニタニタと嫌らしい笑みを浮かべた。
こんなヤツにやすやす名前を呼んで欲しくないものだが、それ以上に下手に目を付けられても困る。
「別に、カオスライダー強化のヒントになりそうな資質があったので注視していただけですよ」
呆れた風を装い肩を竦めて見せるが、そんな私の姿に彼はますます口角を上げた。
「あっそ。何でもいいよ、面白そうなら」
手を口に当てくつくつと笑うリバルを思わず睨む。
「教育地区は私の管轄です。余計な手出しは控えて頂こう」
「分かってるって。直接何かしたりなんかしないよ」
間接的に何か企もうかと隠しもしないリバルとそのまましばらく睨み合う。
確かに彼であれば遊びを通じてかなりの人脈があり、ネットワークなどにも精通している。
やろうと思えば何だって出来るのだろう。
これ以上睨み合っても仕方がない、ふっと肩の力を抜きゆっくりと瞬きをする。
改めてリバルの顔を見て口を開いた。
「言っても無駄でしょうからね。ほどほどにお願いしますよ」
私の言葉にリバルは満足げに笑んでみせる。
「じゃ、そういうことで」
それだけ言って彼が入口から出ると遅れて扉がバタンと閉まった。
リバルにちょっかいを出されて終わるようなら、所詮彼もそれだけだったというだけだ。
それにあまり深く興味を持っている様子を見せるのも得策ではない。
こんなところが妥当だろうと息を吐き椅子の背もたれに身体を預けた。
さて、どんな景色が見られることやら。
リバルの様子に少しだけワクワクするような、高揚を覚えた。