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    #シエシエ

    伯爵と牧師ルートに進んだシエシエの成長if 夏の終わりの夜風が教会の回廊を静かに渡っていき、未だに着慣れたとは言い難いローブとストールの裾を揺らした。新月なのか月は見えず、ちらほらと瞬き始めた星々は見る間に輝度をあげて夕闇に沈みゆく空を彩っている。
     本日の夕礼拝もつつがなく終わり、人もはけた日曜夜の教会は敷地全体が静謐な空気に満ちていた。聖堂の扉を開け、空気の乱れを最小限に抑えるように音を立てずゆっくりと進めば、祭壇から向かって右手の中程、もはや定位置となりつつあるそこに兄の後ろ頭が見える。夕礼拝に殊勝な面持ちで大人しく参加していたそのままの姿勢で居残っていた兄は、こちらの気配には気付いているだろうに振り返る様子もない。
    「領主のとこの長男が最近よく礼拝に顔を見せるって話題になってるぞ」
     人一人分空けて兄の隣に腰を下ろしつつ声をかければ、兄はふふと小さく吐息を漏らし、橙色の灯りに溶け込ませるようなひそめた甘やかな声で応えた。
    「新米牧師先生の説教がなかなか興味深くてね」
     このまま敬虔な信徒になれそうだよ、なんて微笑む兄がどこまで本心なのか、図るすべはないし、別にどちらでも構わなかった。慣れない説教をこなす間、祭壇上の僕をずいぶんと熱の籠もった目で眺めていた兄に気付かなかったわけではないけれど、その熱意の対象が正しく神であるのかどうか、正解は兄の中にしかない。
    「今夜はまたずいぶんと盛況だったね」
     僕が牧師として就任したことと関係があるのかないのかは置いておくとしても、ここのところ礼拝に参加する信徒や村人の数は徐々に増加傾向にあり、喜ばしいことではあった。
    「おかげさまで」
    「天職なんじゃない?お前のその声、話し方、なかなか人を惹きつけるものがあると思うよ」
     無人の聖堂で何気なく零される兄からの称賛の声は、なんともむず痒くいつだって僕を落ち着かない心地にさせる。
    「……それはどうも」
     もごもごと返す僕をくすりと笑ったかと思えば、そこで兄はすっと纏う雰囲気を切り替えた。あ、と思った時にはもう遅い。無造作に椅子の上に投げ出していた右の手の甲に、意図的な熱を込めた兄の左の手のひらが重ねられる。よせばいいのに抗えない何かに引き寄せられるように横目で兄を伺い見れば、楽しげな笑みを浮かべた兄に重ねた右手をそのままとられ、口元に運ばれ口づけを落とされる。
    「もっと聞かせて欲しいな」
     明らかな色を込めて囁かれる台詞は兄らしくはあったけれど、この場所には全くもって似つかわしくなく、それすらも含めていつもの兄なのだから笑ってしまう。
    「説教を?」
     呆れを隠さない僕の上辺の返しなどもはや聞こえてすらいないのだろう兄は、しゅるりと僕の肩からストールを抜き取り、頬に手を添えるようにしてなんのためらいもなく唇を重ねた。
     幼少の頃から何百何千と重ねてきたキスは僕たちの一部と成り果てていて、もはや罪悪感の一つも沸かない間柄は大概だとは思う。
    「敬虔な信徒はどこにいった」
     自身にそっくり返ってくる台詞を義務のように吐きながら、抱き寄せる兄の腕に抗えない僕もまた、兄と二人等しく罪業を分ける咎人だ。
     ふふと場に似つかわしくない無邪気な笑みを浮かべた兄は、僕の揶揄に応えるかわりに、祈りと見紛うような口づけを一つ捧げ、そのまま固い椅子の上に僕の身体をゆっくりと押し倒した。
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