夜明けの狭間「いい年して少しは落ち着いたらどうなんだ」
夏の早い夜明けの気配がカーテン越しにも届き出す頃、ベッドの上でのろのろと半身を起こした弟は、自身のいたるところにつけられた鬱血痕を目で追い、呆れたようにため息なんてついて見せた。犯人はもちろん僕。胸元にも、二の腕にも、臍の横にも、太腿の内側際どい場所まで、いくつも思うままに咲かせた所有印は、弟の白く柔らかな肌によく映えた。
幼少の頃から拗らせてきた弟への執着は、歳を重ねて落ち着くどころか増していくばかりだ。さすがに人前であからさまにそれを出すなんてことはしなくなったけれど、その分二人きりで過ごす夜は歯止めが効かなかった。
たとえばそう。たまたま一緒になった夜会で見かけた弟が、自身の会社のスポンサーなのかどこぞのお貴族様に必要以上に(と僕には見えた)愛想よく尻尾を振っている様なんぞ見てしまった、今夜のような日は。
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