ツイステ→まほやく
クロスオーバー
ツイステの世界の人々がまほやく世界にトリップする話です。特に細かいことを決めてないため色々と矛盾があります。
続きません。
オールキャラで恋愛要素は無しのつもりですが、書いてる人はカップリング厨の腐女子(主人公総攻め総受け)なので苦手な方はご注意ください。
ツイステはパーソナルストーリーほぼ未履修(時々履修してる)、まほやくは親愛スト未履修(全員1~2話は読んでる)です
監督生(ユウ)と賢者(真木晶)はどちらも男性設定。
まほやくは犬使いのバラッドまで、ツイステは5章前編1まで読んでます。(そこまでの全イベスト履修済)
まほやくもツイステも原作にないオリジナルの設定がその場のノリで出てきます。
公式程度のキャラ同士の絡みがあります。
↓
「観月の儀って…星送りとは違うの?」
クルーウェルから説明を受けたオンボロ寮の監督生は隣に座っていたエースとデュースに声をかける。
「すっげぇ退屈な行事でさぁ。マジカルペン片手にただひたすらに月を眺めんだって」
「…お月見みたいなものかな…?」
自分のいた世界では、月見団や農作物やススキを供えて収穫に感謝して月を見るのだと監督生が説明するのを聞いた二人が顔を顰めた。
「収穫に感謝ぁ?観月の儀よりはマシだけど何が楽しいんだか」
「観月の儀は本当にただ月を見るだけの行事だからな…」
「団子が食えんのか!?」
「いや観月の儀では食えねえんだよ。お前話聞いてた?」
「ふなぁ!?だったら監督生の世界の観月の儀がしたいんだぞ!」
「監督生の世界ではお月見だから観月の儀とは別物だろう」
月を見ることになんの意味があるのだろうかと首を傾げる監督生にデュースがぴっと指を立てて説明を始める。
「古来より月には魔力が宿っていて、月の光を浴び、祈りを捧げることで、自らの力を高めるという昔からの風習なんだ」
「実際は俺たちの力に月がどうとか関係ないらしいけど」
「監督生は魔力がないのに1時間近くも月を見続けなければいけないんだよな…」
「うわ、最悪じゃんそれ!…え?行事なら仕方ないっ…て真面目か」
「お前それ本気で言ってるんだぞ?」
「真面目なのは監督生のいい所だな」
ツッコミを入れながら監督生の額を手刀で軽く叩くエースと呆れるグリムに関心して頷くデュース。それぞれが部活に行くことになりその話は終わった。
そして観月の儀当日。校庭に集められた生徒たちがだるそうに列を成していた。
学年クラス番号順に並んで居るものの、どう見繕っても3分の1はサボっているのかこの場には居ない。ハーツラビュル寮の面々はサボろうとして居たものは全員リドルに首を跳ねられて強制的に参加している様だったが、サボりの常習であるサバナクロー寮長のレオナはもちろんこの場には居ない。
生徒たちの目前で学園長であるクロウリーが演説を始める。短時間で終わった演説はクロウリー自身も面倒くさがっているのがはっきりとわかる。そうしてクロウリーの言葉が終わると同時に生徒たちが、取り出したマジカルペンを月の光を浴びるように翳したその時だった。
オンボロ寮に所属している監督生は、グリムと二人離れた列で、ぼんやりと月と、月の光を浴びるマジカルペンを見ていた。
「え…!?」
「どうしたんだ」
白い月の光が突如赤みを帯び、マジカルペンがそれぞれの色でうっすらと発光する。その一瞬の出来事は、離れたところで全体を眺めていた監督生にしか観測出来ない。
儀式というのだから何が起きてもおかしくは無いが、監督生が皆から聞いていた話とは違う。
一応用心として教師に声を掛けるために歩き出そうとした監督生はその場で膝から崩れ落ちた。何が起きたのか目を白黒させる監督生の目の前の世界がぐにゃりと歪み、どん、と地面から突き上げられるのような衝動で体が宙に浮かんだ感覚が襲ったと思えば、そのまま落下する。本来あるはずの地面には落ちずフリーフォールで落下するような勢いで放り投げられたような感覚に堪らず監督生は目を閉じた。地面に叩きつけられることを覚悟するものの、すぐに地面に座っているような感覚が戻ってきて目を開ける。
薄暗い空間に耳に届く篭ったような風の音。きんと冷えた冬の空気に監督生は体を震わせた。そこはどうやら石で出来た建物の中のようだ。
吹き抜けのような頭上にはめ込まれたガラス窓から白い月が覗いている。月明かりに照らされた暗い部屋の中には監督生以外にも気配がある。
探るように手を伸ばせば、触れるのは毛皮。監督生のすぐ側でグリムがうつ伏せの状態で倒れている。暫くして暗闇に目の慣れた監督生が辺りを見渡すと、冷たい床に倒れ伏す顔見知りの姿があった。けれど観月の儀に出ていた生徒全員がいる訳ではなく、本当の意味で監督生の知り合いしかないが、教師たちの姿はこの場には居ない。とりあえずこの状況となんとかしなければと監督生が手当たり次第に起こしていく。
どうやらこの場にいるのはハーツラビュル寮のリドル、トレイ、ケイト、エース、デュース、サバナクロー寮のレオナ、ラギー、ジャック、オクタヴィネル寮のアズール、ジェイド、フロイド、スカラビア寮のカリム、ジャミル、ポムフィオーレ寮のヴィル、ルーク、エペル、イグニハイド寮のイデア、オルト、ディアソムニア寮のマレウス、リリア、シルバー、セベク、オンボロ寮の監督生とグリムの24人が集っていた。
観月の儀を行っていたはずなのに別の場所にいた、というこの状況では流石に全員協力してこの場から学園に帰る手立てを議論し始める。
拘束されてる訳でもなく自由に動けるようになっているのは連れ去ったものがここから出れないと踏んでいるのか、不可抗力で起きたことなのか。とにもかくにもここがどこかを把握するために5人で固まって探索することになった。
監督生は魔力もなく何か起きたら危険だろうということで強制的に最初の空間で留守番という形になった。グリムは探検がしたいのだと監督生を置いてハーツラビュル寮について行った。
その変わりに監督生の側で何かがあった時のために待機することにしたのはナイトレイヴンカレッジの中でも実力のあるマレウスと、共に残ると言い出したリリアだ。シルバーとセベクはサバナクロー寮の三人と別の部屋を探索に出かけている。
「ただ待ってるっていうのも忍びないなぁ…」
静かな空間に監督生の呟きが響く。きょろりと辺りを見渡して、マレウスの顔を見て声をかける。
「いつもみたいにいい感じのアドバイスとかない?」
「この状況で僕に助言を求めるのか?残念ながら特にないな。どう思う、リリア」
「皆目見当もつかん。が、人生でこのような仕掛けの施された塔を見たことがない。あとはそうじゃな…空気が儂たちの暮らしている世界とは違う…何処か自分自身が異物のような感じがするのう。まるでこの土地に弾かれるような」
「僕は特にそのようなことは感じないが…」
「マレウスはドラゴン族じゃから、ワシとは感じ方が違うのじゃろう」
自分たちの居る世界と違うというリリアの言葉に監督生は自分の元いた世界を思い浮かべる。もしかすると自分のいた世界に戻ってきたのかもしれない。こう言った広そうな塔のようは場所なら観光地や立ち入り禁止の重要文化財でも不思議ではない。少しだけ緊張を解いた監督生の顔をリリアが覗き込む。
「この場所を見て回るか?もちろん階段を登ったり他の部屋には行かせられんが。退屈なんじゃろう?」
頷いた監督生にリリアが微笑み、部屋の中を歩き出す。マレウスと監督生はその後ろに続いた。
数分の時間が経った時に、マレウスとリリアが弾かれたように顔をあげる。何が起きたのかと問おうとするのを制止するようにリリアが監督生の目の前で指を立てる。
「シッ、大人数の魔力を感じる」
「増えたな…そして強い」
「ふむ、勝てそうか?」
「1人だけ、僕たちが束になっても勝てるかどうか怪しい者が居る」
囁き声で交わされる緊張感のある会話に監督生も口を閉じる。どうやらこの塔の中に監督生達を連れてきた、もしくは同じように連れられてきた者が現れたのだろう。
ぱき、
乾いた木の板が割れるような音がして、3人が一斉にそちらを向くと、壁に扉のような亀裂が入っており、監督生を庇うようにマジカルペンを構えたマレウスとリリアの前で音を立てて壁が外から蹴破られた。
…………………………………………
■賢者と北と監督生と長寿コンビ
「ははっ、大当たり!」
「「さっすがブラッドリーちゃん!」」
「はあ、そんな回りくどいことせずに壁を壊せば良かったじゃないですか」
「そしたら塔が崩れてぺしゃんこになっちゃうけどね。それで死んでくれたら良いのに」
突然現れたの5人の男達の、緊張感のまるで無い声に呆気に取られた3人を置いて、男たちが部屋の中に入ってくる。
「あ?んだよ先客が居るじゃねぇか、敵か?」
猟銃を肩に担いだ顔に傷のある白と黒の髪の男が真っ先に監督生達に気づき声を上げる。それに反応していくつかの目が向けられ、真っ先に前に出てきたのは髪型とリボンの色以外同じそっくりな双子の子供だ。
「この塔に起きた異変はお主達の仕業かの?」
「返答には気をつけるのじゃぞ?我ら北の魔法使いには歯向かおうなどと思わない事じゃ!」
頬を膨らまし腰に手を当てて三人を可愛らしく睨みつける双子とは違い、血のような髪色をして首に切り取り線のような傷のある男が気だるげにため息を吐いて手を3人へ翳す。
「はぁ…さっさと殺せば済む話じゃないですか。アルシ…」
「「ミスラちゃんメ!」」
子供達がそれを阻止する中、帽子を被ったオッドアイの銀髪の男が監督生の姿を捉えてじっと見つめる。
「人間がいる」
目を見開き、ぽつりと呟いた言葉の温度に監督生が気持ち悪さを感じ顔を顰めると、存在感の強い5人で隠れていたのか平々凡々な雰囲気の青年がオッドアイの男の横から姿を見せる。
「おい賢者下がってろ」
「「賢者ちゃん!」」
賢者と呼ばれた青年が少しだけ困ったような顔をしながら双子に近寄って口を開く。
「スノウ、ホワイト、先に話を聞きませんか?上手く言えませんが、悪い人達に思えなくて…」
「さっさと拘束して目的吐き出させりゃ良いだろうが」
「殺した方が早いと思いますよ」
「なんでもいいからさっさとしてよ」
「確かに出会っていきなり攻撃された訳じゃないもんね」
「賢者ちゃんの言うことも一理あるもんね」
「「おっけー!」」
青年の言葉に一気に他の5人の敵意が少しだけ下がる。どうやら対話の姿勢に持って行ったようだと警戒を解いたマレウスとリリアを見て、双子が愛くるしい笑みを浮かべて手を広げる。
「「知っとるかもしれんが、我らは北の魔法使いであり賢者の魔法使いでもあるスノウとホワイトじゃ」」
「こっちがミスラで」
「そっちがオーエンで」
「あっちがブラッドリーじゃ」
赤髪の青年とオッドアイの青年と猟銃を構えた青年を交互に示しながら、双子の子供が名前を呼ぶ。
「北の魔法使いや賢者の魔法使いなどという言葉は聞いたことがないんじゃが…」
リリアが訳がわからないとため息を吐きながらマジカルペンを懐に戻すと、双子が同時に口元に手を当てて驚いて飛び上がるように踵を上げる。
「北の魔法使いや賢者の魔法使いを知らないなんてある!?」
「魔法士ではないのか?」
「魔法士って何?」
「賢者ちゃんわかる?」
「えっ……と…騎士…とか医師みたいな…職業…ですかね…?」
「「えー!?そんなの初めて聞いた!」」
「へぇ、てめぇらにも知らねぇことがあるんだな。おいお前らどこの出身だ?」
話が見えてこないままブラッドリーと呼ばれた男が気さくにリリアに話しかける。
「ワシとマレウスは茨の谷の国出身じゃ」
「茨の谷の国だぁ?どの国にあるんだよ」
「茨の谷の国って言ってるんだから茨の谷の国なんでしょう?馬鹿じゃないの?」
「アァ!?お前こそ馬鹿だろ。この大陸にゃ5つの国しかねぇんだから茨の谷つってもどこかの国には存在してんだろ」
「聞いたことありませんね」
「二人はその茨の谷の国?出身だとしてその後ろに居る子も同じなのかのぅ」
双子の片方が監督生に視線を向ける。状況を遠巻きに見ていた監督生が違うと首を振る。
「多分言ってもわからないと思うけど…日本っていう」
「え!?」
監督生の言葉に大袈裟な反応をしたのは賢者と呼ばれた青年で、オーエン以外の4人も少し驚いたように監督生の方を見る。
「に、日本って…お日様の日と、本当の本って書いて日本って読む日本ですか…?」
「そうだけど、もしかして貴方も日本人?」
学園長に聞いたことも無いと言われる国の漢字まで言い当てられて監督生は賢者に問いかける。
「日本といえば賢者ちゃんと前の賢者の出身じゃな」
「でも賢者の居る世界って魔法使いも魔法士?もおらんくない?」
双子聞かれてこくりと頷いた賢者に、監督生が元は日本に住んでいて、気づいたらツイステッドワンダーランドに来ていて元の世界に帰れなくなったと説明すると、賢者が視線を落として考え込む。
「ツイステッドワンダーランドだぁ?もしかして賢者の居た世界ともこの世界とも異なる世界から来たっつーことかよ」
「ブラッドリー冴えておるの」
「はあ、なんだか面倒くさそうですね…」
特別焦った風でもなく呑気に会話をする4人の傍で、先程まで何処吹く風という顔をしていたオーエンが笑みを深めて賢者の肩に手を置き、耳元で囁いた。
「じゃあ今の賢者様は用済みって訳だ」
「っ」
「だってそうじゃない?賢者様の居た世界と同じ場所から新しい人間が召喚されたってことは、あっちが新しい賢者様かもしれないでしょ?」
「お、オーエン……」
「想像してみなよ。賢者様賢者様って賢者の魔法使い達に慕われてたのに、新しい賢者様が現れたら皆新しい賢者様を慕って君のことなんて初めから居なかったみたいにされるんだ、君はそこに居るはずなのに蚊帳の外…ああ、ところで君は誰だっけ?」
びくりと体を震わせながら賢者がさ迷わせた視線を真っ直ぐにオーエンに向ける。
「例え賢者じゃなくなったとしても、元の世界に帰るまでは他の人達みたいに皆さんを支えられたらいいなと思います。賢者の不思議な力が無くなっても皆さんが全力を出して厄災に挑めるようにサポートさせて下さい」
「……あっそ、勝手にすれば」
つまらさそうにすっと笑顔を引っ込めたオーエンが賢者の側から離れる。
「しかし異世界から賢者以外が召喚されるなど聞いたことが無いのう」
「厄災の影響かもしれんな」
「……と、いうことは俺と同じように、彼らが元の世界に帰る方法は…」
「我らだけではなんともいえんな」
「ムルなら何かわかるかもしれんぞ」
「とにかく迷子っつー事なら1度ここから出て中央かどっかで保護してもらった方がいいんじゃねぇの?」
「「確かに!ミスラちゃんお願〜い!」」
「嫌ですよ、オズに言えばいいじゃないですか、あの人ならこの塔に居る全員を魔法舎まで飛ばせるでしょう」
「ミスラが連れてって中央の奴らに説明すんのか?」
「僕も帰ろうかな」
「こらオーエン!」
「オーエンちゃん帰ろうとしないで!」
監督生達のこれからの所業をどうするか相談している中で監督生が片手をあげる。
「あの、実は他にも飛ばされた人が…」
「ほう、そやつらはどこに居るんじゃ?」
「4組に別れて塔の出口を探してて」
「ミスラに扉を往復してもらうか全員オズと合流するしかないのか」
「しかしみんながどこにおるかわからんしのぅ」
「オーエンちゃんそういうの得意じゃろ?」
「…へぇ、僕に案内させるんだ?」
双子に声を掛けられたオーエンがくっと意地悪な笑みを浮かべる。どう考えても素直に案内してくれそうになさそうなオーエンは、片側のはちみつ色の瞳に手のひらをかざすと、口元だけで不気味な程に柔らかく微笑んだ。
「騎士様の居場所ならすぐにわかるよ」
………………………………………
■中央の魔法使いとハーツラビュル寮、時々グリム。
四手に別れて塔の中を調べることになったハーツラビュル寮の面々には監督生を最初の場所に放置したままグリムがついてきていた。
「何が起こるかわからないから皆好き勝手な行動は取らないこと、お分かりだね?」
というリドルの一声もあり、珍しく大人しく着いて行く四人だが、ケイトがきょろきょろと辺りを見渡して壁に触れる。
「こういう廃墟みたいな塔ってばえそうだよねー。写真撮っちゃお〜」
携帯を取り出したケイトがぱしゃりと写真を撮影する。
「こらケイト軽率な行動は」
「えっとぉ、ハッシュタグ……って、ここ圏外だ」
「やっぱりか」
「うっわ、お約束って感じ〜」
「ということはかなり辺鄙な所に来てしまったということだろうか。学園のある地域だと確か電波が通らない場所は無かったはずだからね」
「厄介なことに巻き込まれたということだけはわかるが」
「とにもかくにも敵を見つけ出して目的を吐き出させるところからか…」
「俺様達をこんなところに連れてきた奴なんてコテンパンなんだぞ!」
「2人とも。これだけの大人数を移動させる程の力の持ち主なのだから油断しないことだよ」
真面目に辺りを観察するリドルとトレイに、面倒くさそうに3人と1匹が付き従っている。それから10分ほどして、1つ目の階段の終わりが見えてきた。上に上がる階段はなく目の前の扉を開かなければ先へは進めなさそうだ。
「罠が仕掛けられていたりする気配は無さそうだけど」
「透視の魔法は掛けられそう?」
「どうだろうね、この塔自体に魔術がかかっていれば妨害される可能性もあるのだけど」
「試してみる…のはリスクが高いか?」
「扉を自体に掛けるのは危険かもしれないけれど、自身の瞳にかければ或いは」
リドルの言葉が終わらないうちに、取り出したマジカルペンで自身に魔法をかけたトレイがじっとドア見つめ、2秒ほどで首を振ってから瞬きを繰り返す。
「中には何も無いぞ」
「ご苦労。では開けるとしようか」
率先してリドルが扉に手をかけて中へと押し込む。かちゃりと音を立てて開いた先は殺風景な部屋ではあるものの、地下や廊下よりは視界が良好だ。
「ここまで何も無いと拍子抜けっていうかテンション下がるー」
「ここまで人の気配がないとは、何の目的があって作られた塔なんだろうな」
「いやもーこんなん誰かのイタズラでしょ」
「ドッキリにしては驚くようなことが最初だけだったな」
「探検にきたってのになーんにも面白くないんだぞ!これなら監督生のところで寝ておけばよかったんだぞ」
「お黙り」
適当に部屋の中を歩き出した面々に突然リドルの鋭い檄が飛ぶ。一瞬で緊張感にマジカルペンを取り出したトレイとケイトに、残りの3人は訳が分からないと首を傾げた。
そんな中、一行が進むべき方向にあった扉が遠慮なしに開かれて、部屋の中に誰かが入ってくる。
「誰だ!?」
一瞬でこちらに居ることを把握したのか1番先に開けたらしい男が鋭い威嚇の声とともに西洋風の騎士剣の刃を煌めかせる。
「ファイアショット!」
ほとんど反射のようにリドルが呪文を唱えると、マジカルペンから生成された炎が男に向かって迸る。
「グラディアス・プロセーラ!」
「ファイアショット」「フレイムブラスト!」
一息に呪文を唱えた男が騎士剣を振り下ろすと向かう炎が剣に両断される。
後ろから隠れるように飛んだ二撃目に合わせるように、ケイトとトレイの炎の魔法が飛ぶ。
剣を切り返し向かう炎を再び弾こうとする男の後ろで2つの声が響いた。
「パルノクタン・ニクスジオ」
「サンレティア・エディフ」
2つの声から放たれた光の軌跡が炎にぶつかり、小さな爆発を起こさんとする。
「ヴォクスノク」
焦りや戸惑いの感じさせない低く落ち着いた声が聞こえたかと思うと、互いに向かう魔法が一瞬で掻き消えた。相殺された訳でもなく急激に魔法の勢いが衰え消滅するという圧倒的な力を間に、リドル達は隙を見て逃げ道を作るためペンを威嚇のように掲げて短く息を吸う。
「出会い頭に攻撃をしてくるなんて非常識です!」
幼く高い声質の中に混じる妙に威厳のある言葉で、騎士剣を構える男の後ろから、胸の前で手を組んだ金髪の少年がまるで嘆かわしいとでも言うように首を振って苦言を呈する。あまりにも場違いなその言葉にぽかんとするリドル達に金髪の少年の横に居た銀髪の少年が口を開いた。
「すまない。お前たちを驚かせるつもりはなかったんだ。敵対の意思がないのであれば対話に応じたいと思うのだが、どうだろうか」
どことなく皇族に似た雰囲気の少年の言葉にも警戒を解かないままリドルが代表して話に応じる姿勢を取るためにマジカルペンを降ろす。それを見た騎士が剣を鞘に戻した音がキンと小さく鳴ったところで、小さな影が飛び出した。
「隙ありなんだぞ!くらえ俺様のほの」
「「空気を読め!!!」」
皆の前に立ち炎を吐き出そうとするグリ厶の頭へと、ものの見事にエースとデュースの拳がヒットする。
「ふな!?何するんだぞ!せっかくのチャンスを!」
「今何となくいい感じに収まりそうだったでしょーが!」
「向こうが話し合い持ちかけてんのにこっちからケンカ吹っ掛けてどうするんだ!」
「うるせーんだぞ!お前らのせいで俺様の活躍が封じら」
「喋る猫だ…」
「「は?」」
少しばかりはしゃいだ様な声に3人が前を見れば、金髪の少年が瞳を輝かせてグリムを見ている。
「初めて見ました!外の世界は広いのですね…お喋りのできる猫がいるだなんて…」
「いや、私も初めて知った…。オズ様は見たことがありますか?」
銀髪の少年の服の裾を掴み小さく跳ねる少年の問いに対し、3人の後方に立っていた長い黒髪をポニーテールにした威圧感のある男に投げかける。たっぷりの間を置いた後、男は一言、いや…とだけ言って口を閉じる。
「オズが知らないということはムルならしってるでしょうか?賢者様は猫が好きだから持ち帰ったらお喜びになりますね!」
「確かに晶の喜ぶ姿は想像できるが、あの猫は向こうの子達と暮らしてるだろうから、ちゃんと許可を取ってからじゃないと」
「あ、そうですね。僕としたことがついうっかり舞い上がってしまって!」
「普通の動物は…人語を介することはあっても自ら発す「オズ、賢者様の居場所は分かりますか?ミチルも驚くでしょうから南の魔法使い達の居場所も、ああでもファウスト様も猫がお好きなので東の魔法使いに珍しいものが好きな西も…あ、北の魔法使いは何をするかわからないので後回しにしてください。でも仲間はずれはよくないのでちょっとだけ見せてあげます。なのでオズよろしくお願いします」
興奮したように詰め寄り、オズと呼ばれたポニーテールの男に矢継ぎ早に言葉を浴びせかける。
「……居場所な「その前に許可を取らないといけないですよね?そちらの代表者は誰ですか?」
オズが返事を聞く前にくるりとグリムの方に向き直った少年が続けた言葉に流石のグリムも一瞬置いてけぼりになる。
「アイツもしかしてヤベー奴なんだぞ…?」
「それちょっと俺も思ったわ…」
「コホンッ」
代表者を問われ、軽く咳払いをしたリドルがスっと姿勢を正す。
「僕はナイトレイブンカレッジ、ハーツラビュル寮、寮長のリドル・ローズハートだ。前の赤髪がエース、黒髪がデュース、後ろの茶髪がケイトで緑髪がトレイだ」
「それではこちらも自己紹介をさせてもらおう。私は中央の国の王子アーサー。こちらの騎士がカインで、こちらはリケ、あちらにいらっしゃるのがオズ様だ」
「王子?」
「中央の国…聞いたことが無い国だな」
「ナイトレイブンカレッジ…?」
「組織か何かか…?何をしている所なんだ?」
互いに聞き覚えのない言葉に戸惑っていると騎士剣の男、カインが問いかける。
「ナイトレイブンカレッジを知らないのか…?」
「ナイトレイブンカレッジは魔法士養成学校の1つだよ。でもほんとに知らない感じ?一応名門校のはずなんだけど〜」
トレイとケイトの説明に、アーサー達は不思議そうに首を傾げる。
「魔法士…?」
「育成…」
「学校は人々が学びを得る場所ですよね。魔法士養成とは何を学ぶ所なんです?」
「なにをすると言われても魔法士を育てる学校と言う以外に説明のしようがないな…」
会話を交わせば交わすほど互いの認識がズレていく。全くと言っていいほど合わない会話に互いの警戒は既に解けていた。
「そういえば」
思い出したように顔をあげたアーサーが仲間を見る。
「前の賢者様がおっしゃっていたことを思い出した。確か前の賢者様の世界では魔法使いの事を魔術師、魔道士、うぃざーどなどと呼んでいる文献があったそうだ。これが何のきっかけになるかはわからないが…」
「ってことは晶に聞けば詳しくわかるんじゃないか?」
「では猫を連れて賢者様の所へ向かいましょう」「決まったか?」
「はい、オズ様。あちらの方々の了承を得たら賢者様の元へ急ぎましょう。彼らがこの異変に関わっている可能性もありますので」
「僕らとは異なる価値観の持ち主のように見えるけれど」
「聞いたことない魔法を使ってたけどユニーク魔法なのかな?」
「ド田舎とか辺鄙なとこに住んでるんですかねー?」
「それにしては着ている服の仕立てや育ちががいい気もするが」
「悪い人たちじゃ無さそうですね」
「敵かどうかはまだ分からないのだから警戒は怠らないことだよ」
「特にあのオズって奴には逆らわない方がいいだろうな」
「5人分の魔力をあんな簡単に打ち消すなんてウチの先生達でも難しいんじゃない?」
「確かにあの人からだけ殺気感じますしね」
「え、デュース殺気とかわかんの?」
「不意打ちでカチコミかけられてると解るようになるぞ」
「カチコミて」
「デュースちゃんって相変わらず戦闘民族って感じだよね〜」
「とりあえずは向こうに従うって形でいいか?」
「ああ、僕らも争いたい訳では無いのだからね」
話をとりあえずまとめたところで、リドルがこちらの様子を伺っているであろう中央の国の人達に方針を伝えようと輪から離れる。
「ふな!?そんな美味いツナ缶があるんだぞ!?」
「はい!缶には入ってないんですけど賢者様がつなまよおにぎりが食べたいネロと一緒に作っていました。お魚で作ったつなにまよねぇずという調味料と混ぜるだけなんですけど、それが炊きたてのスタ米ととても合うんです」
「ツナに何かをかけるなんてツナへの冒涜なんだぞ!?」
「素材の味を楽しみたいという美食家もいるが、グリムもそうなのか?」
「ネロの作る料理は絶品だ。好き嫌いせず一度食べてみるといい」
いつの間にかグリムが向こうの輪の中に入って呑気に食事の話をしているのを見てハーツラビュルの面々が一瞬静止する。
「………な」
「えー!?グリちゃんめっちゃ馴染んでる〜!」
「向こうが全く警戒してないんスけどぉ」
「メシの話で盛り上がってる…なんか腹減ってきたな」
「マヨネーズが一般的じゃないのか…?」
「トレイくん、そこじゃないそこじゃないよ…」
「〜〜〜!!全員黙れ!!!」
ぴしゃりとまるで雷でも落ちたかのようなリドルの声に何処かはしゃいでいた全員が口を閉じる。
「はあ、はぁ…。僕らはあなた方について行く。あなた方が知らないとしても、この場に留まってたところでナイトレイブンカレッジへ戻る手立てはないからね。そしてもし君たちがこの塔のことを知っているのなら教えて欲しい」
改めてリドルがそう告げると、中央の国の面々が不思議そうに瞬いた。
「ん…?…お前たちはここがどこか分かっていないのか?」
「気付いたらここに居たんで」
「気付いたら?…ということはこの塔が突然現れたのも彼らがここに居るのも厄災の影響か…?」
「塔が現れた…?」
「ああ、ことの発端は……」
……………………………………………………………
■サバナクローとディアソムニア従者と南
「いやぁこれ完全に人選ミスっスよね」
マレウスに探索を任されたことで気合十分なセベクと、真面目なジャックが先頭を切って歩いている。セベクが先走らないようにとシルバーがその斜め後ろを歩き、かなり間をあけて歩くレオナという統率も何も会ったもんじゃない探索隊を見て、レオナの前を歩くラギーが肩を竦める。
「つーかレオナさんが探索隊に出たことがビックリなんですけど、残らなくてよかったんっスか?」
「ハッ!ドラゴン野郎がオンボロ寮の監督生の側に居るって言い出しやがったからな」
「そういやあんたら仲悪かったっスね」
「後はやる気ある奴らに任せておけば良い」
「でもレオナさんが手綱握らないと暴走しません?だーってマレウスドラコニア信奉者とくそ真面目代表とイラふわコンビの片割れとかもう言葉にするだけでもめんどくさい匂いするじゃないっスか」
「テメェが何とかすればいい話だろ」
「金の出ない労働はしたくないんで」
二人がそうして話していると、先を行く1年が廊下の突き当たりで立ち止まる。