手え出すな。
啖呵を切った赤鬼の、鮮やかな勝利の姿は、しかし肩を落としてうな垂れる、敗者のものとなった。
彼をこらしめに来たという者たちは、当然の、しかしなんの意味もない理想を説いた。そんなものに付き合わされ、それでも向き合ったのは、彼が正しくあろうとするからに他ならない。
「俺が悪者みてえな言い方しやがって……」
怒りというには、ずいぶん力が抜けていた。落ちていく言葉も声の調子も、魔王でさえ十分なほど知っている。
隣に並んでもまだ、頭は上がる気配がない。ここぞとばかりに手を置き、ひと撫で、ふた撫で。まだ反発がない時は、こうやって腕に包む。
それは次こそ上手くいくようにという、繰り返したおまじないだった。
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