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    numata

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    numata

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    楽団のモブ視点のトル団。トが楽団に入るまでの両片思い話。モブは見守り系ではなく、がっつり二人に関わってきます。序盤の感じが最後まで続きます。団長がちょっとやんちゃかもしれない
    (モブの要素→楽団のベテラン/既婚者子持ち/ノリが適当/世話焼き/団長の友人)

    【トル団】ある弦奏家の言うことには 俺はしがないバイオリン弾きだ。ある町の楽団でそれなりに活躍して、それなりに楽しく、またそれなりにつまらない生活を送っている。
     ところが、平凡な人生の中にも、流れ星みたいにきらっとして、でもちょっとやっかいな出来事というのは降ってくるものだ。
     これから話すものが面白いかどうかは人によると思うが、例のピアノ弾きにまつわる話だと言ったなら、少しは興味もそそられてくれようか。



    (人形みたいな奴だ)
     オーディション会場にあいつが入ってきた時、俺が最初に思ったのがこうだった。ちょっと癖のある金髪、不安そうに伏せた睫毛も金色。ガチガチに緊張した表情は、その柔らかそうな童顔をむしろ無機物っぽく見せている。
     長机に着いている団員らの方も見ずに部屋の真ん中まで進み出たそいつは、ぺこん、とぎこちなく一礼をした。粗末なシャツから、痩せた鎖骨が覗いている。果たして音楽をやる余裕があるほど食えてるのか? 思わず隣に座る団員と顔を見合わせた。
    「ピアノ希望の、トルペ君だね」
     明朗な声が響く。長机の一番奥側に座った団長が、部屋に漂う妙な雰囲気をものともせずに話しかけた。
    「君、昔からピアノはよく弾いているだろう。手の具合と、背筋がそんな感じだ。一応、課題曲はいくつか設定してあるが、君ほどピアノに堪能なら、好きな曲を弾いてもらって構わないよ。控えている人も少ないし、少しくらい長くかかっても大丈夫だろう」
     穏やかな口調だが、俺はトルペとやらが少し心配になった。
     団長には、無意識に相手を洞察してしまうという悪い癖がある。こんな風に演奏前から見透かしたようなことを言ったりして、時々受験者を萎縮させてしまうのだ。だが楽団に入るなら、この人のちょっとばかし鋭い一言に当惑する程度の胆力では困る。つまり、彼らにとっては第一の関門といったところなのである……本人にそのつもりがあるかはともかく。
     さて、ド緊張した奴にはよっぽど効くだろうと思われた団長の発言だが、意外にもあいつは顔を上げて、大きな目をさらにぐりぐりさせて団長を見返した。食い入るような視線だった。団長の言葉に反応したのか、単に彼の綺麗な見た目に驚いているのか、判断はつきかねた。
    「……あの、僕、ピアノしか取り柄がなくて……」
     乾いた唇が、ようやくぼそぼそと声を出した。子供に特有の、線の細さが残る声だった。
    「町の楽団は、ずっと憧れだったんです。弾けるか分からないけど……聞いて、ください……」
     トルペは団長に向かってもう一度お辞儀をして、ぎくしゃくと部屋の奥のピアノに向かった。やれやれ、もう団長しか見えてないみたいだが、俺達だって楽器の専門は違えど演奏は聞いてるんだぜ。

     トルペはピアノ椅子に座ると、震える指を鍵盤の上に置いた。顔色は真っ青、唇は強く噛まれて、見ていられないほどの緊張っぷりだ。どうなることやら。
     だが、目を閉じて、深呼吸をしたらしい辺りから違った。
     再び開かれた瞳が、ランプが灯ったように明るくなる。鍵盤の上を、痩せた指が滑らかに動いた瞬間、もう世界が変わってしまった。曲名は言わなかった。そんな余裕もなかったのだろう。が、誰でも知っている、耳馴染みの良いメロディだった。
     きらきら星変奏曲。弾き初めの難易度は割合簡単なのに、こいつの音ときたら圧倒される。音がぱっと光って世界を創り出すのだ。ちらりと団長を窺えば、彼の目がすっと細められていた。ああ、目を付けたな。自分なんかが驚かなくたって、あの人には音の良し悪しなんざ筒抜けだ。
     次の繰り返しで、運指は一息に細かくなる。トルペはそれもそつなく、だが情感たっぷりに弾いてみせた。
     そこでふと、町のはずれで耳にした、とある噂を思い出す。ピアノ弾きのトルペ──人見知りの天才ピアニストの、知る人ぞ知る小さな噂。ああ、こいつのことだったのか。なんだか伝説の生き物を目の当たりにしたような気分だ。光に照らされた柔らかい頬と金色の睫毛は、確かにちょっと人外めいた感じだ。妖精かなんかかもしれない。
     三回目の繰り返し。時間も忘れ、ついつい聞き入ってしまう演奏だ。団長も目を閉じてじっと耳を傾けているが、隣にアコーディオンの子が居るからタイムキーパーは大丈夫だろう。あいつはまだ子供だが、しっかりしている。
     が、事件はそこで起こった。
     あっと小さな声が聞こえて、和音が少しズレてしまう。異変に気付いた団員らの方を、ちら、と奴の大きな目が一瞬窺った。そこからもうてんでダメで、ぽろぽろと運指が崩れて、たちまち風に吹かれたロウソクみたいに音が小さくなり、ついには消えてしまった。
    「…………」
     会場は、水を打ったように静かになってしまった。かわいそうなピアニストは冷や汗を流し、鍵盤に指を置いたまま、震えて動けない様子だ。この一転したボロボロ具合には団長も戸惑ったらしく、檸檬色の目をぱちりと見開いて閉口していた。こんな時になんだが、ちょっとレアな表情だ。
    「……どうかしたかな、トルペ君」
     流石に立ち直りは早く、団長はトルペへ問いかけた。
    「君のピアノの腕は確かだ。そのまま演奏を続けられたなら、すぐにでも我が楽団で手腕を振るってもらいたいくらい……どうだい、もう一度やってみてくれないかい。トルペ君」
     団長が再びの演奏を催促しても、トルペはずっと俯いている。あんなに生き生きした演奏だったのに、また人形に戻ってしまった。団長のこれまた作り物みたいに整った横顔がそれを見つめていて、なんだか薄暗い人形劇でも見ている気分だ。
    「……ありがとう。またの機会を待っているよ、トルペ君」
     時計を見た団長が、首を振って退室を促した。トルペは俯いたまま立ち上がり、よろよろと扉に向かう。きっと気付いちゃいないが、団長が再来を期待するなんて初めての事なのだ。光栄に思えよ。
    「……ありがとう、ございました……」
     扉を出る瞬間、あいつの口が確かにそう言った。ただの挨拶じゃない、演奏を聞いてもらえたことへの感謝だ。一応、こいつもいっぱしの音楽家なのだ。ああ、勿体ないな。なんでこんな事になっちまったんだ?

     その日のオーディションは振るわず、採用されたのはやたらアクロバティックにハーモニカを演奏する青髪の女の子ひとりだった。といっても、規模の大きさよりは個人の質(素質、ではないらしい)に重きを置いている楽団なので、すぐにどうこうなる訳でもない。が、やっぱり新人が入ってこないのは寂しいものだ。ちなみにこのハーモニカ少女が一人で新人5人分相当の賑やかさを楽団にもたらしたのは、また別の話である。
     審査員となった団員には、あらかじめ受験者の一覧が配られている。一人一人がメモ程度にコメントを付けるので、それを勉強ついでに見て回すのが一部の団員内でのちょっとした楽しみだ。
     今回注目されているのはやはりあのトルペで、皆して『なんであそこでああなるの?』とか『上手いんだけどなぁ』とかまあ口惜しそうに色々書いている。俺も似たような事を書いた記憶がある。
    「ねえ、団長さんのこれ、どうしたのかな?」
     好奇心旺盛なタンバリン担当が、横からずいと俺に聞いてくる。持っているのは団長のコメント紙で、それぞれの受験者に『練習不足。筋はいい』『音楽に対する姿勢に疑問有り』など達筆で簡潔に書いている(結構ズバズバ書くタイプである)。
     その中のひとつ、タンバリンっ子のちんまりした指が差した先は、トルペの欄だった。
     それを見た途端、俺は思わず固まってしまった。そこには細く震えた字で、たったこれだけ綴られていた。
     ──『何故?』

     その日から、団長は少しおかしくなった。



     意外に思われるが、俺は団長を除けば二番目に長く楽団に所属している。知識も才能も無いので恥ずかしい限りだが、経験だけはやたらあるんで一応ベテランという扱いにはなっている。一番の古株は団長よりも長く居るチェロ奏者のじいさんなのだが、いかんせん無愛想で近寄りがたいので、若い団員どもの相談事は大抵ノリの軽い俺に回ってきた。
     で、最近のあいつらの相談事といえば、「トルペって結局いつ入ってくるの?」と「団長元気ないからなんとかして」の二本立てだ。
     前者については俺も分からない。楽団のオーディションは不定期だが、大抵は春に大きめのが1回、夏の終わりから秋にかけて補填じみたのが2回と、年に3回行われることになっている。例のトルペはあれ以来その全てを受けて、ついこないだ5回目の不合格を食らったので、ここに通って落ち続けるのもかれこれ一年以上経つのである。
     ここまで来ると、上手いんだし一旦入れてあげたら? という同情や、逆にしつこいから出禁にした方がいいとかいう意見も団員から出てくる訳だが、肝心の団長は同情的でありながら、あくまで待ちの姿勢を貫いていた。
     まあ一年ちょい粘られた程度でもう来るなというのも気の毒だし、とはいえ入れてみて上手くいきませんでしただと双方のダメージがでかすぎる。彼の立場としては、今のところ妥当な対応ではあるだろう。
     で、その団長だが、こっちが少し厄介だ。団員に与えた動揺具合ではトルペの件より切実かもしれない。
     団長は、トルペのピアノに恋煩いをしている。
     変な表現だが、そう形容するしかない。あれ以来、ふとした時に窓辺で溜息をついていたり、空を見てぼんやりしていたり、練習場の隅の使われないピアノを切なげに撫でたりしているのだ。暇があればトルペが弾いた曲の楽譜を眺めているし、酒場で飲んでいてもいつの間にかピアノの話題になってしまう。まあ、なんというか、仕草や行動が総じて恋する人間のそれなのである。
     とはいえ、彼もいい大人なので練習や仕事はきちんとこなしていた。鈍い奴なら普段と変わりなく見えるくらいにはしっかりしているし、団員のほとんどはそんな様子を気にしつつもだんだん慣れ始めていた。
     でも、彼を昔からよく知っている俺みたいな奴には、その作られた余裕が逆に痛々しく映るのだ。日常の刹那に見せる瞳の昏さにいちいち気付いてみれば、この気持ちも分かってもらえるだろうか。

     本日の練習後も、俺はなんとなく楽団の本部でぶらぶらしていた。家族仲が悪いつもりはないが、とはいえ早く帰ったところで歓迎されるでもなし、かみさんだって自由な時間は多い方がいいに決まってる。
     資料室の窓から降りしきる秋雨を眺めながら、考えるのはやはり最近の団長のことだ。
    「元気出せ、っていうのも違うよなぁ」
     こっちだって、団長とはもう長い長い付き合いだ。あっちのが少し早いがほぼ同時期に楽団に入り、俺のがちょっと年上だが同年代として接し続けている。彼が団長を継いで立場の上下はできたものの、根本的な友人関係は変わらないままだ。
     そんな訳で、若い奴に言われずともちょっかいかけて励まそうとはするのだが、なかなか成果はないのが現状だった。
     大体彼も頭がよいのだから、自分があれからおかしくなっている事に気付いていない訳がない。だからそれとない指摘にも苦しげに笑う訳で、それをなんとかしたいという思いばかりが俺達の内心で膨らんでいるのだ。
     考えてる内に眉間の辺りが重くなってきて、俺はばりばりと頭を掻いた。こういう時はやっぱ音楽だ。愛用のバイオリンケースを掴んで、俺は本部に併設された練習場へと舞い戻る事にしたのだった。

     渡り廊下を歩いていると、練習場の方からぽろんぽろん、と雨に混じって綺麗な音が聞こえた。
     ピアノ? まさか。今うちの楽団にピアノの担当はいないはずだ。
     トルペの一件以来、何故かピアノ希望の受験者が軒並みしょうもない奴しか来なくて、もうかれこれ10人近く落としている。この前やっとまともなピアニストが入ったのだが、そいつも家の都合とかでひと月もしない内に遠くの町へ行ってしまった。楽団内ではもっぱらトルペの呪いだという噂になっている。
    (……ってことは、とうとうここに執着するトルペの生き霊でも出やがったか?)
     我ながら突飛な発想だが、取り巻く状況が状況なので許してほしい。急いで練習場へと走り、鍵の掛かっていない扉をバッタンと大きな音を立てて開け放った。
     こんな天気なのもあって中は薄暗い。雨模様の窓からぼんやりと明かりが入っていて、それに照らされたピアノに着いているのは、闖入者に驚いた顔の団長だった。
    「……はー、なんだよ、団長か」
     気が抜けてがっくりと肩を落とした俺に、穏やかな笑顔が向けられる。
    「やあ、まだ帰っていなかったんだね。慌ててどうしたんだい」
    「ピアノの音がしてたら慌てもするでしょうが。俺はてっきり……」
     そこまで言って、口を閉じた。トルペの名前を出せば、また団長が憂鬱に陥ってしまう。もごもごと誤魔化しながら──彼相手に誤魔化せているかは甚だ疑問だ──ピアノに程近い椅子をガタガタ引いてそこに腰掛けた。
    「部屋、随分暗いじゃないか。あんただって若くはないんだし、目悪くするぞ」
    「おや、さっきまではそうでもなかったのだがね。雨だし、暗くなるのも早いのかな」
     その口振りからすると、解散してからずっとここでピアノに向かっていたのだろうか。だとしたらまあまあ気味の悪いことだが、頭を振って一旦その考えを追い出した。
    「ところで団長、なんでピアノなんか弾いてるんだい。得意はフルートだろう」
    「うん、まあ、そういう気分でね」
     団長は微笑んで、またぽろんぽろんとピアノを弾いてみせた。あいつが最初に弾いたきらきら星変奏曲、その一番最初の部分だけを、繰り返し。
     譜面を追いながらなので若干たどたどしいが、トルペのとはまた違った、穏やかに心の奥へと落ちてくる音だった。
    「……あいつのピアノ、そんなに好きかい」
    「君達だって好きだろう」
    「ああ。あんな勿体ないもん毎回聞かされていい迷惑だ。上手いんなら恥ずかしいだのなんだの言ってないで一発で入ってこいってんだ」
    「ははは、人の性格は如何ともしがたいよ」
     話しながら、ピアノは鳴り続ける。こいつも久々に弾いてもらって嬉しいのだろう。なんだかそういう音をしていた。団長の、そこだけ年相応に思慮深い目元が、そんな幸福な鍵盤を見つめて優しく優しく緩んでいる。
     それにしてもいい眺めだ。トウが立ってはいるがこんな美形である。世間は放っておかないと思いきや、驚くことに団長は未だ独身だった。モテない俺が気の合う女となんだかんだで結婚した一方、彼は今に至るまで、常に孤独の香りを纏っていた。男女の仲に限らず、団員達に慕われる最中も、旧知の友と飲み交わし笑い合う間も、どことなく、である。そんな彼が初めて恋慕を示したのがピアノの音とは、彼らしいといえばそうかもしれない。
     さて。こんな状況で俺は何を言うべきか。元気出せ、というのは違うのだ。もっと、付き合いの長い俺くらいにしか言えないような事を言うべきだ。良くも悪くも状況を動かさないまま、この部屋からは出たくなかった。
    「……なあ団長」
    「なんだい」
    「俺は、そろそろあいつはダメだと思う」
     ぴた、と団長の手が止まり、沈黙が訪れる。さあさあと降る雨音の中で、彼の白い横顔が、濡れそぼった花みたいな寂しさでそこにあった。
    「だってそうだろう。あいつが落ちるのも何回目だよ。背だけならちっとは伸びたってのに、緊張しいはさっぱり治らない。あんただって今までずっと、待つしかできてないだろう。断ち切る覚悟くらいないと、あいつにも悪いんじゃないのか」
     ああ、俺はなかなかに最低な事を言っている。分かりきってなお待ち続ける相手に終わらせる覚悟を強いるなんて、無責任な奴のすることだ。けど、苦悩を隠し通す事に慣れすぎた団長には、こんくらいの揺さぶりは必要だ。なんならもっと、もっと手酷い揺さぶりが。
    「俺が聞いた話じゃあいつ、オーディションを受けてるのはうちだけじゃないみたいだぜ。耳の早いあんたの事だ、そんな噂だってとうに知ってるだろうが。あいつは入れれば楽団なんてどこでもいいのに、あんたばっかりずっとやきもきして、嫌じゃないかそんなの。なあ、本当はどうしたいとか無いのかい」
     団長が目を上げて、口元を歪めた。……多分、笑っているのだ。けど、嗚呼。やっぱここで言ってしまってよかったよ。そんな辛そうな顔、見てしまったのは俺だけでいい。
    「……それが本当だったとして、私がやる事は変わらない」
     団長は立ち上がって、雨の降る窓辺に寄った。青白い手がカーテンを軽く握って、力無く窓枠に体を預けている。
    「私は、限界まで待つよ。それに、彼が楽団ならどこでもいいようにね、私だってピアノが弾けるなら誰でもいいんだ。だから同じだよ。私とあの子は同じ立場にいて、お互い何も特別じゃない」
     団長が自嘲気味に言った。
     実際、そこそこの規模の楽団なのにピアニストがいないのはなかなかやりにくい事態で、団長もコンサートに当たっては毎回ピアノ無しの曲を選ぶなり、他から助っ人を呼ぶなりしてなんとかやっているのだった。
     だから、彼の言うことはもっともだ。でもこれがまた少し嫌な感じだ。誰でもいいという言葉の裏に、「彼でないと嫌だ」という本音がキレイに隠れてしまっている。
    「……トルペの奴も似たような気持ちかもな。本当はここがいいって、思ってるかもしれんよ」
    「気休めかい」
    「勘だ」
    「君の勘は昔から当たらないがね」
    「あんたから見ちゃ誰だってニブチンさ。それともなんだい、あんな毎回入りたい入りたいって必死な音出されて、それをあんたは聞いてないのかい」
    「……今日はなんだか意地が悪いな、君」
     じろりと団長がこちらを向いた。眉を顰めて、ちょっと拗ねたような顔をしている。こんな顔だって、俺じゃなきゃ滅多に見られないだろう。ささやかな優越感は古い友人の特権だ。
    「でも、そうだね……私がどうしたい、という話だが、一つだけ、彼に関して考えていることがある。先の話だが、大きめのピアノコンクールが開かれることになっていてね。それを彼に勧めてみようと思う」
    「へえ?」
    「私の経験だが、少人数に見られているより大勢の前の方がむしろ緊張しないだろう。それで彼に自信をつけてもらうんだ」
    「なるほどな。だが、そう上手くいくかねぇ」
    「難しいだろうね。奇跡が起きれば、あるいは……けど、彼が賞の一つでも取れたならば〝君達〟だって納得するだろう。ならこれが手っ取り早いさ。違うかい」
     団長の瞳が、ちょっと強い光を宿してこちらをひたりと見つめた。悪くない顔だ。若い頃の、今よりよっぽど不器用だった彼を思い出して、なんだかくすぐったくなってしまう。
     何にせよ、動く気になったなら重畳。俺にできるのは精々こんなもんだろう。ふうと満足げに息を吐いてやれば、団長は降り続く雨を背ににっこりと笑った。
    「ところで君、その様子だとバイオリンを弾きに来たんだろう。少し聞かせてくれないかい」
    「あいつみたいに綺麗にはいかんぜ」
    「本当に意地悪だ。今は君のが聞きたいのさ」
     そう言われれば、悪い気はしない。ごそごそとケースから相棒を出し、団長のピアノから音を貰って調律を確認してから、静かに楽器を構える。
     申し訳ない事に、俺のバイオリンは大変ガサツだ。弾き始めれば、雨の音をかき消してぎーこぎーこと我ながら田舎くさい音が踊り出た。団長は、それをにこにことまぁ楽しそうに聞いている。何がいいのか分からないが、こうやって誰かの憂いを少しでも払えたならば、こんな音ながら大したものである。
     ああ、音楽ってのは、こうでなくちゃいけないよな、なんて、彼の惜しげない拍手を聞きながら思うのだった。



     とある昼下がり。俺は本部の前庭のベンチに、見慣れない男が居るのを見た。
     いや、正確にはもう結構見知ったつもりの顔なのだが、こんな所で見るのは珍しかった。濃い金髪と、粗末な服装。人形めいた童顔は、今は赤みが差して血の通った印象だ。
    (……ありゃ、トルペの野郎じゃないか)
     楽団の施設は、町の人達に対してそこまで厳しく入場を制限していない。庭で近所の子供が遊んでいる事もあるし、内部の談話スペースにも音楽好きのご老人がよく来ている。だから別段、奴が居たところで特に問題ではない。ただ珍しい、ちょっと非現実じみた光景なのだ。
     それにしても何やってんだか。トルペはそわそわしながら、ベンチの空いている隣に向かって何やらぼそぼそ話している。少し近付いてよく見れば、そこにはトルペと同席する形で小さな猫がちょこんと座り、にゃあにゃあと鳴き声を上げていた。
    「──こら、今はあまり話しかけるなよ、誰かに見られたら僕が変に思われるんだから」
    「──ああ、もう、あっちに行けってば。折角ここまで来たのに、うるさくて何も聞こえやしないじゃないか……」
     話しているのだろうか……猫と? 例えば猫が好きすぎて話しかける奴なんてのはザラに居るが、聞こえてくる内容は逆に向こうから喋られて迷惑している、といった感じだ。どういうこっちゃ。自分が考える以上に、こいつはキテレツな奴かもしれない。
     で、少々迷ったが、こんな機会もないだろうと思い声をかけることにした。何、変な奴の相手なんて慣れてるさ。団長とかでな。
    「よお、トルペ君じゃねえか」
     ひっ! と大袈裟に息を飲む音がして、血の気の引いた顔がこちらを向いた。ついでに猫も驚いて一目散に向こうの茂みに逃げてしまった。まぁ俺みたいなおっさんに話しかけられても嬉しくはないだろうが、そんな化け物が出たような反応されるとちょっと悲しいぞ。
    「珍しいなぁこんなとこで。オーディションはまだ先だぞ? それとも見学にでも来てみたかい」
     なるべく気さくに話しかけてみるが、トルペはもうすっかり怯えて固まってしまっていた。かさついた赤い唇をわななかせ、視線で「誰?」と訴えている。そこからか。ちょっと面倒だな。
    「あー、脅かしたみたいで悪いな。俺楽団でバイオリンやってるんだ。オーディションでも会ってるだろ。いつも団長のふたつ隣に座ってるぞ」
    「……あ。もしかして」
    「おう」
    「この前のコンサートの、音のがさがさした第三バイオリンさん……?」
     こいつ気弱かと思ったが、結構ずけずけ言う奴かもしれん。ちなみに、最近第三バイオリンをやったのは、彼のいう通りこの間のコンサートの大トリ曲だ。聞いてもらえていた事を喜ぶべきか、指摘に悲しむべきか悩ましい。
    「はは、まあ俺は才能もなけりゃ伸びしろもなし、お前さんと違っていい音はそう出せないのさ。がっかりだろうが、俺みたいなのでも受け入れる程度に度量の広い楽団だってことは保証するぜ」
    「あ、いえ、そういう事ではなくて、あの……なんか、面白い音だったので、記憶に残ってて……」
     やれやれ、結構言うクセに取り繕うのは苦手ときたか。つまり失言が多いタイプな訳で、その性格と合わせてさぞ生き辛かろう。
     だが裏を返せば、それだけ素直で嘘をつけないという事だ。不器用なりに一生懸命な奴は、嫌いじゃない。
    「ありがとな。演奏聞いてくれた上、悪気なく思ったこと言ってくれんなら、釣りが来るほど有難いぜ」
     隣にどっかり座りながらそう言ってやると、トルペは大きな目をぐり、とこぼれそうな程に見開いてこっちを見た。黒目がちな目にこう近い距離で見つめられるとなかなか迫力がある。この眼差しを受けて毎度ノーリアクションの団長は、並大抵の肝ではないようだ。
    「そういやお前、結局ここには何の用だい」
    「……あの、皆さんの練習を、聞きに来たんです。いつもは敷地の外から聞くんですけど、ここは誰でも入っていいと教えてもらったので……」
     そう言いながら、トルペは練習場の方を指差した。今は俺が参加しない曲の練習中だが、言われてみれば、風に乗せてその音がちょっとばかり届いてくる。
     にしても、古い建物ながら一応防音はちゃんとしてあるので、聞こえるにしてもほんの微かだ。それこそ見学にでも来ればいい話だろうに、そんなのも極度の人見知りには酷な話なのだろうか。
    「……この部分のチェロ、いいですね。重たいのに、ハーモニカの小刻みなメロディにぴったり合って。聞いてると、不思議と懐かしい気持ちになります」
    「ほぉ、よく聞こえるもんだ。お前さん耳いいんだな」
    「……すみません、なんか、盗み聞きみたいですよね」
    「んな顔すんなよ、こっちは褒めてるんだぜ」
     俺は俯いてしまったトルペの頭をわしわしと撫でてやった。無遠慮な指にかき混ぜられる金髪が、太陽に照らされて麦穂のように光る。その隙間からべっこう色の瞳が見えると、俺は少し感心してしまった。陽の下でじっくり見るとまあ綺麗な顔をしているもんだ。目鼻立ちもくっきりしているし、もっと堂々とすれば音楽じゃなくてもやっていける道はあるだろう。
    「……ところで、あなたは僕に何か御用でしょうか」
    「うん? 用もなしに話しかけちゃダメかい」
     トルペは返事の代わりに、小さく首を傾げた。ちょっと困惑してはいるようだが、嫌がられてはいないようだ。多分。
    「じゃあ話題でも提供しようかね。お前さん、最近うちの団長には会ったかい」
    「えっ……?」
     団長の名前を出した途端、ぽっとトルペの頬は赤くなり、その目が冬の夜空みたいにきらきらした。
    「あ、だ、団長さん……ですか? いえ……何度かお話ししたことはありますけど、最近は、あんまり……」
    「へえ、話したことはあるんだな。また多分近いうちに機会があると思うぜ。なんでも、伝えたいことがあるんだとよ」
    「……はぇ」
     トルペは形容しがたい奇妙な声を出したと思うと、みるみる内に顔色が悪くなって、時期を過ぎたヒマワリみたいにしょんぼりしてしまった。
    「……いえ、きっとそうでしょうね。あんまりしつこいから、やっぱり出禁になるんでしょうね。いいんです。もう5ヶ所受けてみっつはそうなってますから。でも残った内のここじゃない方は、なんか大きいだけであんま惹かれないし、こわいし。ああ、僕がこんなんじゃなければきっとここに、入って……でも団長さん……あはは、だ、団長さんがおっしゃるなら僕……でも僕……」
     半ば独り言でありながら、こんなに饒舌なトルペも初めて見たのでしばらく見守ってしまった。が、紙みたいに真っ白な顔色、薄ら笑いの涙目でぶつぶつ話し続ける金髪野郎はもはや恐ろしい。
     そういえばこいつの笑った顔も初めてな気がするが、笑顔の知り方としてはかなり嫌なパターンである。ほっといたら過呼吸になりかねない勢いで絶望しやがるので、ほどほどの所で痩せた肩をばしばし叩いてやった。
    「おいこら、こっちはまだなんも言っちゃいないだろうが。なんなら団長はお前が入団する事には一番好意的だっての」
     あんなにゾッコンなんだぞ、という言葉は辛うじて飲み込む。あの時の、雨音の中でピアノを見下ろす横顔が、目の前で不安に震えるトルペに一瞬、重なった。
    「しかしまあ、なんだ、今のを聞いてちょっと安心したよ。ここに入りたいって意思はしっかりあるんだなぁ」
    「……ぁ、はい……勿論」
     トルペも少しは落ち着いたらしい。呼吸を整えて、ぱっちりと大きな目をこちらに向けた。妙に立ち直りが早い。団長のように切り替えが早いというよりは、単に目の前の話題に思考が全力で傾くタイプのようだ。
    「僕は楽団でピアノを弾くのが夢ですが、最初に入りたいと思ったのは、やっぱりこの楽団でした。ここの演奏、好きなんです。友達も、いろんな楽器が出てきて楽しいって、言っていました」
    「……おー、そうかよ」
     言いながら、頬を掻いた。ここまで素直な物言いをされると、らしくもなく照れてしまう。
     それにしても友達ねぇ。失礼ながら、こいつが誰かと親しく会話している姿がさっぱり想像できない。まさかさっきの猫ではあるまいが……いや、人の人間関係を訝るのも良くないだろう。
     つらつら思いながら、もう一度トルペの癖っ毛をもすもすと撫でてやる。痩せてはいるが決して悪くない体格なのに、潤んだ目とおどおどした態度がなんとなく捨てられた子犬みたいで、つい頭に手を置いてしまうのだ。息子と歳が近いというのもあるかもしれないが、あいつは音楽に興味がないから、トルペと話はあんまり合わないだろう。
    「あの、僕の頭、音楽的に見てそんなに面白いんですか」
    「んん? なんだ音楽的にって」
    「いえ、団長さんも会う度に僕のこと撫でてくるので、楽団の人には何か思う所のある頭なのかと」
    「なんだそりゃ。……んー、にしても、そうか。そいつはいけねぇな。団長に怒られちまう」
     撫で心地のいいもさもさ具合を名残惜しみながら、俺はすっと手を引っ込めた。
     団長は、ああ見えて意外と嫉妬深い。普段寛大なのは間違いないが、自分が心を砕く物に対しては、一種狂気じみた、庇護的な執心を垣間見せる事があった。随分昔になるが、彼の愛用のフルートを出来心で吹いてみたのを見つかり、大変おっかない思いをした事がある。
     大人として他人を尊重できる彼が、トルペを自分の所有物だと思う事は無いと断言していい。ただ彼の手が触れている以上、この金色の宝物みたいな青年に不用意に触るのはなんだか気が引けた。万一という事もあるし、彼を怒らせるのはマジであれきりにしたい。昔を思い出して遠くを見ている俺を、トルペは不思議に不思議が重なった顔でじっと見つめた。
    「団長さん、そんなに怖いんですか?」
    「まさか。あんなにいい人もそう居ないぜ。ちょっと変なとこあるけどな」
    「変……なんですか」
    「そうだな、昔の話だが、仲間内で駄弁ってたらあの人だけふっと居なくなっちまってさ。皆で慌てて探したら、森の奥のでかい木の上に居たんだよ。向こうから綺麗な鳥の声がするとか言ってな。たっかい所まで登ってるし、まだ聞き足りないって駄々こねるしで、下ろすのに一苦労だった」
    「へぇ……?」
     トルペはさらに不思議そうに首を傾げた。あの落ち着いた佇まいからは、そんなアクティブな奇行に走るなどとなかなか想像できないのだろう。傾げた首の角度が考える内にだんだん深くなっていく様が少しおかしい。
    「まあ今は昔ほど暴走しないが、とにかくいい音には目がないもんで、そういう話には事欠かないよ。その割に俺のあんなバイオリンもしょっちゅう聞きたがるし、趣味がいいかまでは分からんが。まあ耳の利くお前さんなら、いい話し相手になれるかもな」
     そこまで言った時、リンゴーンと重たい鐘の音が響いた。町の時計塔の針が、ぼちぼち日の傾き出す時間を差している。それを見たトルペが、のそりとベンチから立ち上がった。
    「……あの僕、そろそろ仕事に向かわないとなので、失礼します」
    「お、そうかい? ご苦労だな。でもあっちの練習もそろそろ終わるし、もう少し待てないかね」
    「えっ?」
    「団長、多分すぐここに来るぜ。『トルペ君の声がしたと思うけど、見なかったかい?』つってな。えらい地獄耳なんだ、あの人」
    「…………」
     トルペは迷っているようだった。視線をうろうろさせると、その目が夕日を映した海にも似てちらちらと光る。が、最後にその金色の睫毛を伏せて、ゆるく首を振った。
    「……僕、失礼します。団長さんと会ったら、しばらく離れたくなくなりますから……今日は、お話聞かせてくださってありがとうございました」
    「そうかい。こっちこそ色々煩くて悪かったな。また来てくれや」
    「はい……あの、僕この楽団にあなたがいる理由、ちょっと分かる気がします」
     トルペはにこりと控えめに笑った。想像してたよりずっと、愛らしい笑みだった。
    「あなたのバイオリン、聞いててとても楽しい気持ちになるんです。音が綺麗とか汚いとか、そういう理屈ではなくて……団長さんも、そう思ってるんじゃないかな……」
     トルペはそれだけ言うと、軽く会釈をして門までパッと走っていってしまった。最後にでかい爆弾を落とされた俺は、呆然とするしかない。参ったな、あいつとんでもない人タラシの才能持ちかもしれん。
     トルペを見送ったままの俺の方へ、練習場から別の誰かが走ってくる音がする。見なくても分かる疾走具合だが、相変わらず速いよなぁ。どんな運動神経してんだか。
     立ち上がりお疲れさんの一言でも掛けてやろうと振り向くと、その刹那にもう懐に飛び込んできた団長が、俺の襟元を思い切り引っ掴んだ。綺麗な顔が目と鼻の先にまでぐいと寄る。
    「君、トルペ君の仕事先くらい聞いてくれたんだろうね?」
     ……あーしまった。そこうっかりしてたわ。
     俺が額を叩くのと、団長が大きく溜息をついたのはほぼ同時だった。



     あれからまぁ、色々あった。
     トルペはその後、オーディションを受けては落ちをあと2回だけ繰り返す事になる。一方団長はその間に、例の地獄耳で彼の職場を突き止めて──というか、聞きとめて──その際もちょっと〝暴走〟を起こしたもんで、それを追って奔走した俺の足が後日筋肉痛になったりした(言っておくが、俺が運動不足なのではなく、団長がヤバいだけだ)。
     そこからは段取り通り、何も知らないトルペはコンクールを勧められ、そして本当に賞を取ってしまい、めでたく入団と相成って今に至る。奇跡というのは起こるものだし、物事は上手くいくものなのである。

     とある晴れた日。
     練習から解放された団員らがぞろぞろと帰路へつく中、今日とて俺は本部をぶらつくために門とは反対側へと足を進めた。
     ふと振り返れば、最後に練習場から出てきたらしい団長が、真昼の陽に照らされた金髪を従えて前庭をゆっくり歩いていた。気ままな散歩は団長の趣味のひとつだが、あれ以来トルペが側にいる事の方が多いので、彼の纏う孤独感はだいぶ払拭されているように感じる。
     それにしても、あの二人が並んで歩くとまぁ絵になること。物腰も顔付きも、月と太陽みたいに正反対の彼らだが、それがむしろぴったりとして互いにお似合いなのである。
     そんな様子を眺めていると、鳥の囀りを聞いていたらしいトルペが、何故かちょっと恥ずかしそうに俯いてしまう。それからおずおずと団長の側に寄って、ちょい、と片手を差し出した。団長は微笑みながらそれに指を絡めてやって、手の繋がれた二人はまた歩きだす。門の方へ向かっていったので、ちょっとどこかへ足を伸ばすか、昼飯でも調達に行くのかもしれない。
     二人のあの関係について、誰かが何かを言うという事は特に無かった。恋路に多少の試練はあっても、それ自体を否定するような要因はこの町に無いという、ただそれだけの事である。
     彼らの背中が見えなくなってから、俺は空を見上げてみた。初夏に入りつつある快晴を、風が吹き抜けていく音がする。あの二人だったら、こんな静かな中にももっと何か聞こえるんだろうな。そんなことを思いながら、しばらく無為にぼんやりして、平凡な一日は過ぎていくのだった。



     以上は、きっと君達にとって意味のない俺の人生の、語るに値する数少ない彩りの一片である。暇つぶしにでもなったなら幸いだ。

     今思うとひとつ疑問だが、団長は最初のオーディションの時点で、ピアノ弾きのトルペの噂を知っていたんだろうか。今更彼に聞く事もできないし、これはご想像にお任せする他ないだろう。
     けどトルペがうちの練習を聞きに来ていたみたいに、団長もこっそりトルペの元へ演奏を聞きに行っていたとしても不思議ではない。あの人は、いい音のする方へはどこまでも、本当にどこまでも行ってしまうんだからな。
     そう思うと、トルペが後年あんなに綺麗な音を出すようになったのも、団長を繋ぎ止めるための執念の賜物だと想像できないこともない。……まあ、なんだ。音楽をするって、こういう事でもあるよな。俺はあいつのそういう所、嫌いではないよ。
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    Replies from the creator

    numata

    DOODLE楽団のモブ視点のトル団。トが楽団に入るまでの両片思い話。モブは見守り系ではなく、がっつり二人に関わってきます。序盤の感じが最後まで続きます。団長がちょっとやんちゃかもしれない
    (モブの要素→楽団のベテラン/既婚者子持ち/ノリが適当/世話焼き/団長の友人)
    【トル団】ある弦奏家の言うことには 俺はしがないバイオリン弾きだ。ある町の楽団でそれなりに活躍して、それなりに楽しく、またそれなりにつまらない生活を送っている。
     ところが、平凡な人生の中にも、流れ星みたいにきらっとして、でもちょっとやっかいな出来事というのは降ってくるものだ。
     これから話すものが面白いかどうかは人によると思うが、例のピアノ弾きにまつわる話だと言ったなら、少しは興味もそそられてくれようか。



    (人形みたいな奴だ)
     オーディション会場にあいつが入ってきた時、俺が最初に思ったのがこうだった。ちょっと癖のある金髪、不安そうに伏せた睫毛も金色。ガチガチに緊張した表情は、その柔らかそうな童顔をむしろ無機物っぽく見せている。
     長机に着いている団員らの方も見ずに部屋の真ん中まで進み出たそいつは、ぺこん、とぎこちなく一礼をした。粗末なシャツから、痩せた鎖骨が覗いている。果たして音楽をやる余裕があるほど食えてるのか? 思わず隣に座る団員と顔を見合わせた。
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