【トル団/猫トルペ】幸福の一頁 森にある水車小屋の廃墟には、そこを住処にする一匹の猫が居た。
この小さな金色の猫は、廃屋に置き捨てられたおんぼろのピアノを相手に暮らしていた。前足を使ってぽろぽろ、時には鍵盤にそのまま乗っかってぽろんぽろんと、気ままに音を奏でては、他の動物に聞かせる毎日だった。
ある日、そんな彼の元を訪ねる者があった。
春の夕焼け空が、廃屋の割れた窓を色濃く染め上げる頃だった。いつものようにぽろんぽろんとピアノの響く部屋へ、ギイと古いドアを開けて入ってきたのは、背の高い人間の紳士であった。
猫は夢中でピアノを弾いていたので、紳士の登場にしばらく気が付かなかった。ようやく一曲弾き終わり、満足してピアノ椅子へと下りたその時、部屋の真ん中に佇む彼に初めて目を向けた。
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