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    nicola731

    @nicola731

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    nicola731

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    全然けものっくす書けてないので息抜きにニャンボの話。

    地獄の現パロ。お父さん:顕光殿 長子:鬼一さん 二番目:諾子さん 三番目:香子さん 末っ子:道満(全員養子縁組)の、道満と結婚したい晴明さんによる口説き落としRTA話。「会議は踊る。絶対に許さぬ。」 https://poipiku.com/1112421/5111917.html

    ニャンボの一日 猫のニャンボは家で飼われている。動物病院に連れて行けば獣医が三度見し「えっ猫!? デカくない!?」「コーギーじゃなくって!?」と驚き、診察台に乗せる時は獣医とスタッフの二人掛かりでないと持ち上げられないほど巨大ではあるが、一応は猫である。本猫は自分のことを「小さくて可愛い仔猫ちゃん」だと思っている。生まれたばかりの頃に小学生の道満が仔犬と勘違いして道端で拾ってきた。拾ってきたのは道満なのにあまり懐いていない。道満の上には他に三人の子供がいるがその孰れにも懐いていない。「だぁはははははっ! ジャンボ! ジャンボにゃんこ!」と大笑いしてニャンボに「ニャンボ」という名前を付けた次女にも懐いていない。玩具にされるのでほぼ近寄らない。長子と三女はまあまあ、という程度だ。ニャンボが好きなのは家長である四人の子供の父親だけだった。膝に乗れば寝心地の良いように座り直してくれるし、撫でる手は静かで穏やかで何処を撫でれば一番良いのかを理解している。ニャンボの中にある家内のカーストは明確で、頂点に父親である顕光、次点に自分、以下有象無象の子供達、という構成になっている。ニャンボは自分を顕光の妻だと思っているので当然の構成だった。ニャンボが家に来る前に巣立っていった実子三人もそれぞれ立派になっていると聞くし、今だって養子を四人も受け入れてきちんと育てている自慢の夫だ。少し前に死んだ先妻のことを忘れられずとも、自分のことを可愛がってくれる夫だ。


     ニャンボの朝は早い。顕光と寝ている夫妻の寝台の上で目を覚まして伸びをする。ストレッチし毛繕いを済ませて時計を見遣る。朝の五時半。以前なら顕光の顔を舐めて起こすのだが、定年した今となってはそう早起きする必要も無くなった。ニャンボはそうっと寝台から降りて、部屋を出ててカースト最下位である末子の部屋へと行く。伸縮自在なのでニャンボが後ろ足で立てばドアノブに届いた。がちゃりと扉を開けて室内に入り、行儀良く扉を閉めてニャンボは海のように広大な布団に寝ている道満に近付いた。
    「ンッンー」
     起きよ間抜け、と鳴いてみるが道満はすよすよと寝息を立てて眠っている。
    「ンンンンンー」
     その寝汚さを罵りながらニャンボはジャンプし、道満の鳩尾に着地した。苦悶の叫びと共に起床した末っ子は巨大な飼い猫を退かしながら激しく咳き込んでいた。
    「げぇっ、げほ、げっほ、にゃ、ニャンボ……」
    「ンン」
     他人事でニャンボは朝食を催促する。猫相手ではあるが、どう叱ろうと馬耳東風なので道満は溜息を吐いて布団から出た。末子の足に嚙み付きながらニャンボは共に階下の食卓へと向かう。道満はニャンボの為に猫缶とドライフードを混ぜた朝食を高坏に置かれた餌皿に入れてやる。ニャンボが水の皿を突いて入れ替えを催促する。仕方なく道満は水を替える。漸く猫の食事が始まり、道満は自身の身支度に手を付けられるようになった。浴室に併設された脱衣所の洗面所で手早く顔を洗い、スキンケアをし、一旦自室に戻って着替え、髪を梳かして化粧を済ませる。それから台所で朝食を作り始める。
     今日の朝食は鰺の開きを五枚、目玉焼きは半熟と固焼きを三つずつ、ウィンナーは一袋を焼く。冷蔵庫から昨晩の残りである筑前煮をレンジで温め直す。諾子がノリで買ってきた糠漬けの壺から胡瓜と大根、人参を引っ張り出して切って皿に載せる。寝る前にタイマーセットしておいた炊飯器が炊き上がりを知らせた。仏前に備える分を取った後にしゃもじで掻き混ぜる。今日の味噌汁の具は青菜と油揚げにした。
     点けたままにしてある時計代わりのニュース番組が六時半を知らせる。それを聞いたニャンボは正妻の務めとして二階へと上がっていき、顕光を起こしてきた。「グワァー!」という養父の声が聞こえて、道満は「ああ……」と憐れむ。
    「お、おはよう……」
     よたよたとしながら初老の男が降りてきて、台所にいる道満に声を掛けた。その顔が涎塗れになっているのを見て末子は「今朝も酷いですね」と返しつつ茶を淹れてやる。元凶の猫はバイクのエンジン音かと思うほど大きな音で喉を鳴らしながら顕光の足に体を擦り付けていた。
     顕光も身支度を整えて食卓に着く。定年後は警備会社の取締役として出勤している彼は毛塗れのスラックスを悲しそうに見詰めながら、膝に乗ろうとしているニャンボに仕事を頼んだ。
    「三人を起こしてきておくれ。もう七時になるからね」
    「ンンン……」
     道満に行かせれば良いものを、とニャンボは思ったが、道満が仏前の供え物を交換しに行ったことを知っているし何より夫の頼みなので従った。
     ドドドドッとわざとらしく足音を立てて階段を駆け上ってニャンボはまず長子の部屋へ行く。
    「ンナァアアアーン」
     扉の前で声を上げればシャツの釦を閉じながら鬼一が出てきた。余程の深酒をしていなければさっさと起きてくるのでニャンボも起こすのは楽だった。
    「朝から元気だなぁ、お前」
     「どれ、撫でてやろう」と屈んだ鬼一が伸ばす手から逃れてニャンボは三女の部屋へ向かう。起こしやすい順に起こすのが一番楽なのだとニャンボは賢いので分かっていた。
     香子は物音に敏感なのか、ニャンボが歩いてくるだけで目を覚ます。カリカリと扉を引っ掻けば寝間着姿の香子が麗しい緑髪を梳かしながら扉を開ける。
    「ンンンン」
    「はい、おはようございます。もう皆さんは朝食に?」
    「ンー」
     ニャンボが鳴きながら次女の部屋のほうを向けば香子は頷いた。
    「成る程、諾子さんはまだなのですね」
     先に洗面台を使わせて頂きましょう、と必死に癖の付いた髪と格闘している三女を後にしてニャンボは最大の敵である次女の部屋に行く。ドスドスと走ったところで次女が目を覚ますことなど無い。ゴテゴテに派手に装飾された扉の前にやって来たニャンボは軽々とドアを開けて、色彩の暴力に満ち溢れた部屋の中へと入った。
     ロフトベッドの梯子を昇ったニャンボはグチャグチャな布団の中で爆睡している次女を見て「ンー」と唸る。顔を舐めて起こすと抱き込まれるので近付けない。ふと目をやれば、手近なところに丁度良いのがあった。目の前に毛布の隙間から飛び出した白く細長い足の指があった。
    「ンアー」
     がぶり、とニャンボは無慈悲に嚙み付いた。
    「ウッギャァアアアァアー! いってぇ~!」
     痛みで飛び起きた諾子が天井に頭をぶつけたのと同時にニャンボは即座にその場から離脱する。これで顕光に頼まれた仕事は完了したわけだ。ドスドスと足音を立てて食卓へと凱旋する。
    「ンンンンンッ」
    「あ、お帰り。凄い悲鳴聞こえたんだけど、何したのお前」
     顕光の足元に座れば、彼は食事の手を止めて頭を撫でてくれた。
     一番最初に家を出る顕光を玄関先で見送ったニャンボは軽やかなステップで階段状の本棚の一番上に昇って丸くなる。食卓を片付ける物音の後に続く、子供達の「いってきます」という言葉を四回聞いてニャンボの朝は終わる。



     数時間の眠りから醒めて、ニャンボは本棚から降りる。ぐぅっと体を伸ばしてドスドスと軽く家の中をランニングする。それから顕光がリビングでしているパター練習用のゴルフボールで遊んで、飽きたら前庭に面したガラス戸のところへ行く。魅力的で美しいニャンボはよく外の野良猫からアプローチを受ける。ニャンボは顕光という素晴らしい夫がいるので歯牙にも掛けず鼻で笑って袖にする。身の程知らずの野良猫共をからかって、それにも飽きたらまた本棚の上で昼寝する。
     自分の給仕役である子供の内の誰かが帰ってくるまでは眠るに限る。何故なら猫だから。


     玄関の鍵穴にキーが差し込まれる音がしてニャンボは起きた。「たっだいまー!」と弾むような声がする。騒々しい諾子が一番最初に帰ってきたのだ。夕陽が今の中に差し込んできていて、艶のある床板が茜色に光っていた。
    「おう! ニャンボ! 諾子さんのご帰還だぜィ!」
     近所のスーパーで買い物をしてきたらしく、大きく膨らんだビニール袋をがさがさと鳴らしながら諾子は本棚の上にいるニャンボに声を掛ける。ニャンボは尻尾を一度振って挨拶を返してやった。諾子はドタドタと台所へ入っていく。今日の夕飯は諾子が作るようだ。蛍光色のエプロン姿になった次女はわざわざネイルを落として夕飯の下拵えを始める。
    「うおおおおおおおおおおおっ! メカジキ選手、薄力粉へダーイブッDeathッ!」
     いつにも増して騒々しい支度の仕方だとニャンボが顔を向ければ、彼女はスマートフォンを小さな三脚で立てて撮影しながら料理をしていた。完璧な包丁捌きで人参やキャベツを千切りにし、ミニトマトを半分に切ってひとまずザルに入れる。舞茸を湯掻いて細かく刻んだ柚子の皮と和えた副菜を作り、それまで茹でていた馬鈴薯の様子を確認する。十分に火が通っていることを確認して引き上げると皮を剥いて荒く潰し、レンジで温めたソーセージを切って馬鈴薯の中に放り込んで混ぜ合わせる。マジックソルトと胡椒で味付けをする。米を研いで、炊飯器の炊き上がり時間を設定する。
    「フィニーッシュ! 支度! 完ッ了ッ!」
     天を仰いで諾子は勝利のポーズを決める。ニャンボは冷めた目でそれを見ていた。台所を片付けた次女は携帯を持ってニャンボのところへやって来る。ニャンボが好きなおやつをひらひらと振って、「ニャンボちゃ~ん」と呼んだ。
    「ちゅーるあげるからさぁ、ライブ出ん?」
     いつものニャンボなら無視してそっぽを向く。だがたまたま先程まで、人間になって顕光との夫婦生活を楽しむ夢を見ていたニャンボは機嫌が良かった。
    「ンッンッ」
     本棚の上から降り立ったニャンボは「ちゅーるを寄越せ」と前足を伸ばした。
    「おっ今日はサービス良いじゃんか。ご機嫌だね~」
    諾子はスマートフォンを一旦置いておやつの封を切る。差し出された半生のおやつをニャンボが味わっているといつの間にか膝の間に囚われてしまった。
    「ンンンー」
    「ブラッシングして進ぜよう。アタシちゃんはテクニシャンだから安心しなって」
     ニャンボが映るように画角を調整して諾子はライブを再開する。猫のブラッシングをしながら最近読んだ小説や観た映画、演劇の話をしたり、リスナーがコメントで投げてくる悩み相談を受けたりと喋り続ける。ニャンボが画面に出た当初は「うわでっっっっか」「犬じゃん」「生まれて間もない仔牛」「お前のような猫がいるか」というコメントで埋まっていたが数分もすれば収まっていつも通りになる。毛の量が多いニャンボの毛は梳いても梳いても抜け毛が止まらない。
     気付けば二時間以上も話していた諾子は車のエンジン音に気付いた。
    「あっパパ上帰ってきたわ。ライブ終了じゃい。なぎこファンのみんな、バイビー!『風吹けば峯にわかるゝ白雲の 行きめぐりてもあはむとぞ思ふ』、なんつって!」
     終了ボタンを押したタイミングでニャンボは諾子の膝元から飛び出した。バビュン、と擬音が付きそうな勢いで玄関へと向かったニャンボは行儀良く座って胸元や頭の毛並みを整える。美しさに磨きが掛かったところで玄関のドアが開いて、夫が帰ってきた。
    「ただいまニャンボ」
    「ンナァン」
     ニャンボを撫でながら顕光は諾子の靴を見て「今日の夕飯は諾子さんかぁ」とちょっと心配そうな顔をする。
    「ンンンンンー」
    「あ、まだご飯貰ってないでしょ。今出すから待っててね」
    「顕光さんおかえりー!」
    「ただいま。今日は早かったね」
    「三限で終わりだったからさ」
     二人が玄関で話していたところで道満と香子が同じタイミングで帰ってきた。



     夕飯にまっピンクの「夢カワボルシチ」が出た以外はメカジキのムニエルと付け合わせのサラダ、数種類の副菜と充実した夕飯だった。夢カワボルシチはちゃんと美味しいボルシチだった。遅くても八時までには帰ってくる鬼一を待ち、家族全員で夕食を取る。後片付けが終わり、順番に入浴を済ませる。
     子供達はさっさと寝てしまうが、一番最後に風呂から上がった顕光は居間の籐椅子に座って晩酌をするのが日課になっていた。ニャンボが椅子と主人の体の隙間に捻り入って自分の匂いを擦り付けていた。顕光は柔らかく艶やかな毛並みを撫でる。嬉しそうに喉を鳴らす音を聞いて「地響きみたいだなぁ」とぼんやり思った。
     日付がそろそろ変わる頃に顕光は床に入る。勿論ニャンボも一緒だった。先妻が生きていた時と同じように、隣に場所を空けて眠る。ニャンボは夫が寒くないようにその場所に寝そべった。
    「ンンン」
     おやすみなさいませ、とニャンボが声を掛けると「おやすみ」と声が返ってきて、腹を優しく撫でてもらえた。どるどると喉を鳴らしながらニャンボは眠る。昼間に見ていた夢の続きを見ようと思った。
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