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    City4629_twyume

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    ※ねつ造ありまくり注意!
    名前アリなジャミ監夫婦息子と、名前有りカリム息子が出ます!
    ヒトトセさん(@sksthtts)にひたすら語った、「もしもヒトトセさんのジャミ監ヤンデレ夫婦の間に生まれたのが光属性息子君なら」を書かせていただきました!ファンアートです!以前書いてくださった息子君ネタより少し前、「チャコールグレーデイズ」「いとしき辺獄」のジャミ監の間に生まれた子をイメージして書きました!

    ヤンデレジャミ監夫婦の息子が光属性な話親に連れてゆかれた晩餐会は、目がくらむような絢爛豪華さだった。
    晩餐会の主催は、熱砂の国にて、右に出る者はいないと言われるほどに歴史と資産をも抱える輝かしきアジーム家。今日は、かのアジーム家の長男殿の誕生パーティーということで、宴に招かれたというわけなのだ。
    本来ならば、自分の家などアジーム家に声をかけられるような素晴らしい家柄などでは決してない。では何故自分の家がそんなアジーム家に招かれているのかと言われれば、ここ最近の好景気のおかげだった。

    熱砂の国で起きた経済成長たる黄金の風が国中で吹き上がり、たった数年で爆発的に資産を増やした新興成金の企業があちこちで生まれた。
    尊い血筋などを持たない新興成金たちに対し、顔をしかめるわけでもなく、無邪気に笑ってビジネスパートナーとして多く迎えたのが、現在のアジーム家当主というわけである。つまり裏を返せば、アジーム家に気に入られれば、次期当主に我が子と婚姻を結ばせることが出来れば、この国最高の後ろ盾が手に入るというわけだ。
    それは、新興成金たちにとって、福音のような素晴らしいチャンスだった。新興成金たちはアジーム家にとにかく気に入られようと、招かれたパーティーには積極的に参加し、時には我が子さえビジネスの道具として使い、野心のままに奔走した。
    古き血とは違う匂いのする新しい華やかさに、顔をしかめる古き歴史を持つ一族はもちろんいる。だが、その新興成金たちの持つ資産の多さや今後国を支えるビジネスの在り方には、文句を言いたい口を閉ざすしかなく、見てみぬふりを決め込むものも多い。
    例えば、魔導士の道具を作ることで名を馳せていた一族が、IT化が急速に進む世の中についていくためには、IT技術で急成長している企業と手を組んだ方が良いというのは、誰からも分かる話だ。いつまでも古さだけにこだわっていれば、他の貴族や周りの国に置いて行かれてしまう。
    己自身がこれからも誉れ高き歴史を持ち続けるためには、新しい華やかさでさえ、柔軟に取り入れてゆかねばならないというわけだ。

    そういうわけで、時代の風が新興成金たちに強く激しく吹いているこの間に、アジーム家や古い一族に取り入ろうと、両親は張り切っているというわけである。ただ、娘だけはどうしてもついてゆけず、憂鬱気に瞳を伏せた。
    父の代から始まった会社が軌道に乗り、起業僅か数年で従業員を増やし、大企業へと上りつめた。上り詰めた者は次に願うのは安定である。そしてその安定のために、娘をアジーム家の長男に近づかせようとしているのだ。
    それが将来自分達の為に、そして娘のためになると本気で信じている。我が子には貴族として相応しくあるようにと、幼いころから教育を叩き込んだのだ。遊びたい盛りの子から自由な時間を奪えば、子供が親を嫌うのは当然の事である。
    だからこそだ。娘はもう、貴族としてなんとか立場を保とうとしがみつく両親をひっそりと軽蔑していた。
    女とは政治の道具だと言わんばかりの、古い考えに囚われた両親。渡された果実のジュースを飲み、必死に笑顔を作ってパーティーを切り抜けようとするも、1時間ほどすれば限界を感じた。娘はトイレに行くフリをして、煌びやかな晩餐会を抜け出した。
    豪奢なシャンデリアも、身の丈に合わない豪華なパーティードレスも、流行りのハイヒールも、何もかも合わなかったのだと逃げ出したかった。冷たい夜風が頬を撫でるのが救いで、月明りが照らすベランダへと出てゆく。白い柵に手をつき、もたれかかれば、先ほどから我慢していた靴擦れの痛みが追い打ちをかける様にどんどん強くなった。
    (ここから、私を連れだして)
    誰に言うわけでもなく、ただ心の中でそう願う。伝説のプリンセスが、若者に外の世界を連れ出された様に、誰かが、自分を連れ出してくれたら。そう願った、その時だった。
    「お客様」
    突然、後ろから声をかけられ、娘はパっと振り返る。振り返って、一瞬息をのんだ。いつの間にそこにいたのか。月明りに照らされる少年が、あまりにも美しかったから、娘は息さえ忘れた。
    この灼熱の大地に愛されたような、シミひとつない滑らかな褐色の肌。夜風に揺れる、宵闇を溶かして染め上げたような艶やかな黒髪は、絹より上等な滑らかさ。
    月明りを受けて聡明に輝くチャコールグレーの瞳は涼し気に細まり、瞼をブラウンのアイシャドウと長いまつ毛が色どりを添えていた。
    伝統的な白い使用人服に、シンプルな化粧。パーティーを運営する側の使用人だと一目で分かるのに、そのシンプルさが少年の危うげな美貌を完璧にしている。言葉を失っていた娘に、少年は近づくと、もう一度声をかけた。
    「お客様、いかがなさいましたかお加減がすぐれませんか」
    コツ、と靴を鳴らして娘に近づく少年に、娘は我に返り、ようやく喉から声を絞り出した。
    「い、いいえ」
    とっさに喉から出たのは、強がりで、虚勢だった。本当は、足が痛い。足をモジ、と動かした娘の動きに少年は目ざとく気が付くと「足が痛みますか」と言葉を続けた。
    何故分かったと言葉を出す前に、少年は胸ポケットに差していた白いマジカルペンを取り出すと、ペンを振って椅子を出した。椅子は座り心地が良さそうなクッションが敷かれてあり、少年から「こちらにお座りください。」と誘導される。
    このパーティーの使用人と言うことは、アジーム家に仕える人間ということになる。使用人まで優秀とは、流石のアジーム家だなと、娘はぼんやり重い、誘導されるままに椅子に腰かける。
    「ッ」
    座った瞬間、またビリっとした痛みがアキレス腱に走り、娘は顔を歪めた。ビクッと動いた右足を見て、少年は娘の前に膝まづいた。そして下から覗き込むようにして、娘と目を合わせる。
    「お客様、履き物をお取りしてもよろしいでしょうか」
    下から覗き込むチャコールグレーの瞳には、威圧感などなかった。娘は作り物の様な美貌を持つ少年に見つめられていることに羞恥心を覚えながらも、何処か逆らえずに、頷く。
    少女の頷きを肯定ととらえた少年は「失礼します」と声をかけてゆっくりと少女からハイヒールを抜いた。まるで王子がうやうやしくプリンセスにするような仕草に、少女の胸は小さく高鳴る。抜かれたハイヒールから僅かに血が糸を引き、少年から「うわ、これは痛い……」と嘆息のような言葉が聞こえた。
    少年は胸もとに付けたインカムを服ごと口に軽く引っ張り、何処かへと繋げる。
    「もしもし、父さん怪我されてるお客様を見つけた。治療してから、カルマ様の元に戻るね。」
    端的に言葉を伝えると、少年はインカムを切り、再び娘に向かう。ペンを振るって今度は医療箱を取り出した少年は、慣れた手つきでピンセットで挟んだコットンに消毒液を含ませた。
    「お客様、申し訳ありませんが、少し沁みます。」
    娘の瞳を見つめた少年は、再び足に視線を戻した。娘の足をベランダに膝まづいた己の太ももの上に乗せ、コットンで傷を優しく拭う。
    「いった……」
    「もう少しですよ」
    少年は血の付いたコットンを小さなジップロックに入れると、絆創膏を取り出し、傷口に優しく張った。その仕草、その優しさが、随分与えられなかったものであると少女は気が付く。気が付いたら、もう駄目だった。表面張力のように張った感情が限界を迎えて、それが涙になって流れる。
    「放っておいてくれればよかったのに……」
    口から出た言葉は、感謝の言葉ではなく、可愛げのない八つ当たりだった。黙っていればいいことは分かるのに、惨めさに口が止まってくれない。
    「私は、優しくしてなんて頼んだ覚えはないわ。なのに、なんで放っておいてくれなかったの。私は、お父様とお母様が期待した通り、貴族として強くなければならないのに、こんなところで泣きたくなかったのに……」
    漏れる言葉を自分で聞きながら、何を言っているのだろうと客観的に思った。貴族と言ったって、尊き血筋を持たない下級貴族。しかも新興成金だ。プライドなどかなぐり捨てて素直に権力に屈服すればいいだけだ。
    それなのに、生意気な子供の癇癪に、少年は口を挟まなかった。ただじっと少女の言葉を聞いて受け止めると、胸ポケットから白い清潔なハンカチを取り出し、そして当たり前のように娘の目元にハンカチを当てた。
    「それは、とてもお辛い日々でしたね。よくぞここまで、強くあられましたね。」
    その言葉に、その声色に、娘は驚いて顔を上げる。
    涙にぬれた頬など、赤く腫れた瞳など気にすることを忘れて、少年を見つめる。「甘えるな」と一蹴されるのが当たり前だと思っていたのに。少年の声が、微笑みが、言葉が。あまりにも優しかったから、思わず彼女は驚いて涙が止まったのだ。
    「お客様。どうやらサイズが合わないようですので。もしよろしければ、こちらのハイヒール、少し手直ししてもよろしいでしょうか」
    少年は、決して娘の頭を馴れ馴れしく撫でたりなどしなかった。ただ柔らかく微笑んだままに、娘の言葉を待っている。
    娘は思考が追い付かないまま頷くと、少年は娘の足の指先に引っ掛けるような形でヒールを履かせ、ハイヒールをペンで1回軽く叩く。すると、ペン先から星屑のようにキラキラと光る金の光がハイヒールを包み込み、そしてサイズもデザインも、より娘に合ったものになった。娘の着るスカイブルーのパーティードレスに合わせたブルーのハイヒールはガラスの靴の様なホワイトに変わり、踵の部分には翅を広げる金色の蝶々の飾りがついた。足首にはベルトが付き、ハイヒールからパンプスへと変化した。どうやらサイズもワンランク上にあがっているようだが、中にクッションが敷かれており、これなら靴擦れは起こさないだろう。
    まるでガラスの靴のように変わったパンプスを見つめていると、少年が恭しく娘の足を取り、ゆっくりとパンプスを穿かせなおし、足首のベルトを締める。
    「痛くありませんか」
    そう聞かれたため、少女は頷けば、少年はホッとしたように優しくほほ笑んだ。
    「よかった、涙も止まったようですね。」
    優しい声色で、優しい微笑みで、月光の下で娘に微笑みかける。喧噪は遠く、まるで二人きりのような空間。少年は言葉を続けた。
    「俺は貴女ではありませんから、貴女の苦しみや悲しみの全てを、知ることはできません。ですが、靴に魔法をかけたその瞬間、現実は忘れられていたのではだからこそ、涙はとまったのでは」
    少年の言葉が、煌めく星屑となって、娘の胸を満たしていく。柔らかくほほ笑むその優し気な瞳に、娘の心はいつの間にか囚われてしまった。
    「一時でも、生きるツラさを忘れさせ、この魔法で魅せることが出来たのなら。そして、この靴を見るたびに思い出してくだされば。俺にできることはこれぐらいしかありませんが、どうかこの時だけでも、心が感じる痛みを忘れることができたらと願います。」
    そう言う優しい少年の言葉に、娘は気が付く。踵の痛みももう無く、どうやら軽い治療魔法もかけてもらったようだった。
    けれど少年はあえてそのことを言わず、膝まづいたまま、エスコートするように娘に手を差し伸べた。
    「さぁお客様、パーティーはまだ続きます。どうか、心行くまでお楽しみ下さい。」
    少年の言葉はどんな薬よりも娘の心に染み渡り。もう、世を憂う事は無かった。

    *

    少女を治療し、彼女をパーティーに帰した後、少年は早歩きで己の主人の元に戻った。今日は己の主人の誕生日パーティーだ。だというのに、主人は不機嫌そうに頬杖をついて高価なベルベットソファーに腰かけていた。
    「ただいま戻りました、カルマ様」
    名を呼ばれた主人は少年をゆっくりとした動作で見ると、舌打ちせんばかりに眉間にしわを寄せ、低い声を出す。
    「遅いぞ、ヴァサンタ。」
    カルマと呼ばれた高圧的なその青年は、隠しもせず不機嫌さを出す。その怒りのオーラは、普通の人間が見れば怯えて引き下がるような息苦しさがある。しかし少年にとって、主人の不機嫌な姿はもはやデフォルトであり、怯えるものではなかった。
    ヴァサンタと呼ばれた少年はチャコールグレーの瞳を苦笑いに細めると、手を胸に当て、紳士的に頭を下げる。
    「申し訳ありませんカルマ様、お客様の手当てをしておりました。」
    少年・ヴァサンタの言葉に今度こそカルマは舌打をすると、赤い瞳を細めて「お人よしめ」と軽くなじった。
    カルマの膝の上に乗せられ、大人しくカルマに撫でられている魔獣がゆるりと顔を上げると、蒼い焔のような瞳を細める。そしてカルマとヴァサンタに兄のような口調で「お前ら、もう少しで宴も終わるから、頑張るんだゾ」と声をかけてくる。
    その魔獣は、ナイトレイブンカレッジを魔獣の身で卒業した唯一無二の存在であり、卒業後はアジーム家の魔導士として雇用されたグリムだった。
    しかし、カルマが生まれてからはカルマがすっかりグリムに懐いてしまい、今やカルマの護衛として、忙しい日々を過ごしているのだ。
    ソファーに腰かけるこの青年の本名はカルマ・アルアジーム。アジーム家の現当主であるカリム・アジームの長男であり、次期当主という華やかな立場を持つ、18歳の青年だ。
    ひと房三つ編みにし、それ以外は下ろしている白銀の長髪と、褐色の肌。柘榴の様な赤い瞳は、カリムと似た美貌を持っている。だが、似ているのは外見だけだ。性格は明るい性格のカリムとは似ておらず、カルマは真面目さからくる神経質な性格をしている。
    カルマは現在、父や父の従者が若い頃に通っていた、魔導士名門校であるナイトレイブンカレッジにグリムを護衛として連れながら通っている。今は長期休みを利用して実家に帰ってきたというわけだ。そしてホリデー中に自分の誕生日を迎えたために、こうして父主催の誕生日パーティーが開かれているのである。
    だが、主役のカルマは退屈そうに腰かけたままだ。来客を睨む青年のその顔は、かつてカリムが己の従者にユニーク魔法をかけられた時と同じような冷たさがある。
    真面目がゆえに、父に比べてずっと優秀なカルマは、しかし尊敬する偉大な父と常に自分を比べてしまい、心に燻る苛立ちが収まらない。
    例えば、パーティーを楽しめない性格は、朗らかで優しいカリムと全く似ていない。本当は、大勢とわいわいとするよりかは、部屋に籠って己の従者が淹れてくれた紅茶をゆっくり飲みながら、本をめくったり、キャンパスに絵を描くほうが好きなのだ。正直言うと、今でも描きかけの絵が気になっている。
    そしてそんな人嫌いのカルマが心を許す数少ない人物の一人が、カルマの2つ年下の従者であり、カリムの腹心であるジャミル・バイパーの一人息子であるヴァサンタ・バイパーだ。
    ヴァサンタとは春の意味を持つ名前であり、その名の通り、春の朧月ような穏やかさで優しくほほ笑む少年だ。父に似た賢さと魔法の才能を持っていながら、今はかつて父が通っていたナイトレイブンカレッジではなく、ロイヤルソードアカデミーの1年生として、学業に精を出している身の上だった。
    チャコールグレーの瞳も、短い艶やかな黒髪も、父であるジャミルによく似た美貌を持つが、柔らかく微笑む優しさは、ジャミルではなくジャミルの妻であるユウに似ている。
    ジャミルは現当主であるカリムから最も信頼されている従者であり、アジーム家に仕える従者の中でも最も強く、最も賢く、最も優秀で。そして、最も恐ろしい男だ。
    代々すぐに命を落とすと謳われる、アジーム家長男を守り抜いて、当主にまでさせてみせた。これを聞くだけで、熱砂の人間であれば従者がどれだけ優秀かが理解できる。カリムの父。すなわちカルマの祖父である前代でさえ、アジーム家3男という立場である。兄である長男と次男は幼い時に暗殺された。
    つまり、ジャミルは赤子の時に命が消える程にもっとも狙われる存在を、全ての害意を跳ね除けて守ってみせたというわけなのだ。
    アジーム家の守護神であるバイパー家の中でもひときわ優秀だからこそ、ジャミルは他人にも自分にも厳しい。低い声で部下の使用人に命じる姿や、訓練で軍隊をなぎ倒す苛烈さには、使用人の多くが恐れていた。
    仕事中でジャミルの空気が和らぐときは、カリムとプライベートな話をして「やれやれ」と言わんばかりに溜息をついているときか、愛する一人息子と話している時である。
    だからこそ、アジーム家の使用人たちはヴァサンタを見て「性格は奥様に似たのだろう」と噂をする。最も、その苛烈なジャミルが執着し溺愛する妻は、ジャミルのどす黒く深い愛が故、許可なく外に出ることを許されていないから、使用人たちは予測の話しかできない。
    事実、ジャミルは心優しい妻に執着するあまり、恋慕と愛欲を毎晩のように孕むほど注ぎこんでは「他の男に攫われるかもしれないから」と囁いて家に軟禁しているのだ。
    妻が出会える人間と言えば、夫と息子。そしてジャミルが許可をしたときに会える息子の許嫁とその両親ぐらいしかいない。
    だからこそ、使用人たちに会ったことがあるわけがないため、使用人たちは面白い噂の1つとして、ジャミルの妻の話をするのだ。かのアジーム家の鬼神であるジャミルを射止めた奥方とはどのようなお人か。ご子息があんなにも朗らかのだから、きっと奥方も美しくお優しい人なのだろう。
    ただ、深く話し過ぎると、苛烈な毒蛇が牙をむかんとするため、あくまで軽い興味があるだけのふりをする。誰だって、とばっちりは喰らいたくないのだ。

    カルマは膝の上に父から譲り受けたグリムを乗せ、ゆるゆると背中を撫でながら、お祝いの言葉を述べる客たちに挨拶をした。客たちは委縮しきった様子で頭を下げてゆく。だが、カルマがとある家族に挨拶をした所で、ピクっと眉を動かした。その家族がいなくなり、次の家族がやってくるのをヴァサンタに止めさせる。そして、隣のヴァサンタに声をかけた。
    「おい、ヴァサンタ。さっきの家族の娘が、お前が手当てしたという例の娘か」
    そう言われ、ヴァサンタは素直に頷く。
    「はい、流石はカルマ様。靴の魔力で分かりましたか」
    「……まぁ、そんなところだ。」
    本当は、魔力を感じ取る前に、明らか過ぎる娘の空気に察しただけにすぎない。カルマは再度口を開くと、主人の命令を下す。
    「ヴァサンタ、ジャミルをここに呼んで来い。なるべく早くだ。」
    「父さんを、ですか」
    「あぁ。ジャミルが来たら、お前は一度キッチンに戻れ。俺のマンゴーラッシーを作ってこい」
    「随分と急ですね…。かしこまりました」
    カルマの急すぎる命令に驚きながらも、ヴァサンタは従者として頷き、ジャミルにインカムで話しかける。ほどなくしてカルマの元にアジーム家の鬼神たるジャミルが上等な靴を鳴らしてやってくると、命じられた通りにヴァサンタはキッチンに戻っていった。「ついでにクッキーも持ってこい。急がなくていいぞ」というカルマの声に、はーいと返事をして、ヴァサンタは消えてゆく。
    「カルマ様、お待たせいたしました。」
    カルマに美しい礼をするジャミルに、カルマは高圧的な態度から少年らしさを取り戻したように目を伏せる。
    「急に呼び出してすまないなジャミル、お前も父上も忙しいだろうに」
    「いいえ、カルマ様がお気にされるようなことではございませんので」
    ジャミルは、カリムの若い頃の生き写しのようなカルマを見つめて、柔らかくほほ笑んだ。
    カルマはアジーム家に相応しい朗らかさを持たないと、己自身に悩んでいるが、ジャミルからすれば、学生の頃は傲慢なほどに能天気なカリムよりも、しっかり者で真面目なカルマのほうが、好感を持てる。
    学生の頃、オーバーブロット事件を起こすほどにカリムを嫌っていたが、もしも己の主人がカルマであれば、自分はオーバーブロットを起こさなかっただろうなとさえ思うぐらいだ。
    だが、オーバーブロット事件があったからこそ、今ジャミルは最愛の妻に激しい恋が出来たのだから、人生何がいいかなどわからないものである。
    「それで、急に呼び出した理由とは、なんでしょう」
    ジャミルの言葉にカルマは溜息をつくと、率直に言った。
    「また、ヴァサンタのお節介でのぼせ上った女が出てきた」
    カルマの言葉に、ジャミルはヒク、と目元を動かす。カルマが何を言おうとしているかは、すぐに分かった。
    「先ほど挨拶に来た家族の一人だ。ガーダルシアという名前の会社があるだろあそこの社長令嬢だった」
    齢18にして、もう一族と会社を一致させているほどの記憶力を見せるカルマに、「カリムの5倍は優秀なお方だ」という言葉を心の中に留めて、ジャミルは続ける。
    「ガーダルシア…、確か、カルマ様の婚約者候補として、挙げられてたところですね」
    「あぁ。ヴァサンタが言うには、靴擦れをしていたところを治療したらしい。その時になにか余計な慰めでもしたんだろ。娘の目が恋する乙女よろしく潤んでヴァサンタを見ていた。まったく、あのお人よしは……。」
    ハァー、とカルマは眉間に指をあてて溜息を吐く。カルマの膝の上にいるグリムは、昔からは考えられない程の大人しさでカルマの膝の上で丸まって言葉に耳を傾けていた。
    「ジャミル、すまないが、あの家を調べていてくれ。近いうちにあの娘がなにかしでかすだろう。必要であれば、オレの名を使って構わん。従者に近づく女暗殺者の疑いでもかけて追い払う」
    カルマの言葉は、従者を守るだけではなく、裏を返せば己の婚約者候補から外しても構わないと言っているのと同義だった。ジャミルがそのことを指摘する前に、カルマは言葉を続ける。
    「ああいう女は、いざ恋に堕ちると、それを免罪符に暴走するのが常だ。ヴァサンタには許嫁がいるし、すぐに調べればそれも分かるはずだ。
    それでも貴族の娘という自分の立場をわきまえず、アジーム家の従者に手を出そうとする卑しい女狐など、俺は願い下げだ。俺の従者に手を出せばどうなるか、分からせてやる」
    苛烈に光る赤い目は、決してカリムには似ていない。カルマは、ジャミルやレオナ寄りの苛烈で獰猛な人間なのだ。賢さゆえに、ある程度は大人しくするが、己の地雷を踏み抜かんとする存在には容赦をしない。
    ジャミルもジャミルで、愛する一人息子の貞操を狙う女をこれまでも見てきたため、そのような女には容赦をするつもりはない。
    ユウによく似た優しさを持つ息子は、妻によく似て、厄介な人間に好かれやすい。それは重い友愛を従者に向けるカルマもそうだし、ジャミルもまた厄介な人間であるのだ。
    「かしこまりましたカルマ様。俺にお任せください。何か怪しい動きをすれば、女狐1匹、狩るといたしましょう」
    従者として優秀に頭を下げるジャミルだが、口元はゆうらりと薄くほほ笑んだ。作り物のように妖艶で、獲物を捕らえる蛇のような獰猛さを称えるその笑い方は、息子のヴァサンタには似ても似つかない。
    愛する妻とよく似た息子を、訳の分からない女になど渡すわけにはいかない。それがカルマにも伝わったのだろう。カルマも妖艶に、獰猛に微笑み、毒を溶かすような優しさでジャミルに口を開く。
    「あぁ、頼んだぞ。」
    カルマの笑みを見て、嗚呼やはりカルマの本質は、カリムがひた隠していたユウへの愛執に似ていて、そしてカリムにユウを取られないようにと、オーバーブロット事件時に先にユウの処女を奪い退路を断ったジャミル寄りなのだと、ジャミルは実感する。
    新しい時代が来たとして、自分達の根は一切変わることはない。
    自分のお気に入りは、自分達だけに囲われていればいい。その為には手を変え品を変え、うまく囲い込んで鳥かごに閉じ込めるのだ。
    可愛い小鳥たちがずっと自分の鳥かごでさえずっていてくれるために、必要な害虫駆除を、ジャミルはすぐに始める。
    こうして数日後、本当に娘はヴァサンタあてにGPS尽付きのガラス細工の置物や熱烈なラブレター、挙句の果てには媚薬を仕込んだ菓子などを送り付け、ジャミルに法的に「処遇」されることになった。
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    ヤンデレジャミ監夫婦の息子が光属性な話親に連れてゆかれた晩餐会は、目がくらむような絢爛豪華さだった。
    晩餐会の主催は、熱砂の国にて、右に出る者はいないと言われるほどに歴史と資産をも抱える輝かしきアジーム家。今日は、かのアジーム家の長男殿の誕生パーティーということで、宴に招かれたというわけなのだ。
    本来ならば、自分の家などアジーム家に声をかけられるような素晴らしい家柄などでは決してない。では何故自分の家がそんなアジーム家に招かれているのかと言われれば、ここ最近の好景気のおかげだった。

    熱砂の国で起きた経済成長たる黄金の風が国中で吹き上がり、たった数年で爆発的に資産を増やした新興成金の企業があちこちで生まれた。
    尊い血筋などを持たない新興成金たちに対し、顔をしかめるわけでもなく、無邪気に笑ってビジネスパートナーとして多く迎えたのが、現在のアジーム家当主というわけである。つまり裏を返せば、アジーム家に気に入られれば、次期当主に我が子と婚姻を結ばせることが出来れば、この国最高の後ろ盾が手に入るというわけだ。
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