フォロワー監聖杯戦争(ikzさん監ちゃんver)『ようこそ。貴方は1人目のマスターです』
『元の世界に、帰りたいでしょう』
『そんなあなたに、帰るチャンスを差し上げます』
『貴方にはこれから、聖杯戦争に参加していただきます』
『貴方には、7つの世界線。7つのパラレルワールド。貴方と同じようにナイトレイブンカレッジに誘拐された7人の少女と戦っていただきます。』
『少女はそれぞれ、貴方の世界に存在した、歴史や神話、物語の英雄。すなわち英霊を召喚していただき、それぞれの英霊と殺し合いをしていただきます』
『なお、殺し合いに向かう被害は英霊のみで、貴方たちマスターに向かうものではございませんのでご安心ください』
『最後まで生き残った英霊を持つマスターには、元の世界か、異世界に帰るかの選択を差し上げます。』
『英霊には、どんな願いも叶える権利を差し上げます』
『なお、所持する英霊が消滅した時点で、異世界へと強制送還になりますのでご了承ください』
『それでは、ご武運を。』
「いや、意味わからない」
ポケットに入っていた4つ折りの真っ白な紙に思わずツッコミを入れてしまった。
不機嫌になりながら紙を睨んでいたが、どうやらもう文字は変わることはないらしい。
手に持っていた紙は文字を読み終えてしばらくすると、隅に勝手に火がついて燃え上がり、やがて紙のすべてを灰にした。
手に燃え移る前に、冷静に紙を手放したため、手に燃え移ることはなかったが、少女は大きく溜息をつくと、誰もいないビルの屋上。ビルが立ち並ぶ見知らぬ都会のど真ん中で、恐ろしいほど巨大な満月を見上げて呟いた。
「というか、ここ何処。」
魔法の無い科学が行き届いた世界から、ある日突然魔法が当然の世界、ツイステッドワンダーランドに誘拐され、ナイトレイブンカレッジという魔法学校に強制入学させられたオンボロ寮の異端児。
魔獣と共にペアを組まされたことによって、監督生という称号を得たユウは、今日も今日とてさっぱり分からない授業になんとかついてゆきながら、復習と予習を終えてお風呂に入り、パジャマに着替えてベッドに入ったはずだった。
目覚めれば制服をちゃんと着て別の世界なんて、何度も経験したくないというのに、2回も経験してしまった。
しかも制服のポケットには、見知らぬ紙が入っていて、ふざけたルールを押し付けられるというオマケ付き。
これもまた、なかなか元の世界の帰り道を見出さない学園長の仕業かもしれないなと、脳内で軽く学園長を罵りつつ、屋上のフェンスに体を預けながらぼんやりと街を眺めた。
ビルが立ち並ぶ姿は、日本の都会を彷彿させるが、違うというのは本能が理解する。何故違うと分かるかと言えば理由は一つ。
先ほどから、自分以外の人間が誰一人見当たらないのだ。
まるで、つい先ほどまでこの都会で生活していた人間を、たった一瞬で全員神隠しをして見せたといわんばかりに人の生活をした証が見えるのに、不自然なほどに誰もいない。
それでもユウがひどく冷静な理由は、これまで散々魔法と言うものを見せられてきたからである。魔法が存在すると見せられた以上、慌てる理由などどこにもない。
一人と言うことは、相棒の魔獣にも頼れない。マブであるエースにもデュースにも頼れない。そんな状況で、あのふざけた紙を差し出した相手の言う通り、殺し合いとやらをしないといけないという事らしい。
7人の少女たちで、英霊とやらを呼び出して殺し合いとは、内容を深く知らないユウでも、とことん悪趣味であるということだけは分かる。
けれどもう一つ分かる理由は、今回のふざけた遊戯こそ、元の世界に自分が帰るチャンスなのだということだ。
ならば、ユウが長い髪をバッサリと切る前。元の世界に置いてきた最愛の少女にようやく再開できるチャンスでもある。そういうことであれば答えは決まっている。
負けるわけには、いかないという事だ。
街を見下ろして、夏の夜の風を受けて。深く考えず、右手の甲を撫でた。その時だ。
ふと、頭に見知らぬ『歌』が浮かんだ。
その歌を、どこで聞いたのか、いつ聞いたのかなど全く分からない。だというのに、はっきりと浮かんだその『歌』を、当然のように口ずさんだ。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
右手の甲が、少し熱くかゆい。カリ、と軽く爪を立てて、頭に浮かぶ『歌』の続きを歌う。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
月光が鴉の濡れ羽のような見事な黒髪を輝かせる。風が真白の肌を撫でる。何もかもが、少女を導くようだった。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。」
最後まで歌い終わったその時だった。
ゴォと顔面に強風が殴りつけた。
「わ」
顔を腕で覆って強風から守った。
風が強すぎて目が開けていられない。強風から我が身を守るために顔を伏せて風が止むのを待つ。
数秒もしないうちに恐る恐る顔を上げれば、目の前に広がる景色はたいして変わらなかった。
「なんだったんだ……」
ぽつりと、独り言を言えば、その孤独さが宵闇に広がるだけだと思っていた。
「へぇ君が、僕のマスターかい」
突然だった。背後から声をかけられて、ユウは勢いよく背後を振り替える。
いつの間にそこにいたのか。誰もいないはずのビルの屋上。その背後に、ユウと同い年ぐらいの少年が立っていた。
金色の髪は稲穂を連想させ、青灰色の瞳が真っすぐにユウを見つめていた。少年はニコっと人懐っこい笑みを浮かべると、銃を握っていないほうの手を差し出し、握手をしようとする。
「やあ僕の名はビリー・ザ・キッド
新しめのサーヴァントだけど、役に立つと思うよ
よろしくね」
少年はユウの右手に刻まれた真っ赤な令呪を見つめて、そう告げる。満月を背後に微笑む少年と、何が起きたか分からずに絶句する少女。
交わらぬはずの時代の者が手を取り合い、家に帰るための戦争が、幕を開けた。