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    3rdHonests

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    大学生パロ「おまえさー」
    川西は道端に落ちていた、車に轢かれてぺしゃんこになったストロング缶をつま先で転がしながら伊丹の横を歩いている。カラカラ、とアスファルトとアルミが引っかかる音はあまり耳に心地よいものではない。
    「まじ気ぃつけろよな」
    「はい?」
    「はい?じゃねーって」
    ボアジャケットのポケットに突っ込んだ手はそのまま、川西がぎろりと鋭い視線を向けたので伊丹は少し後ずさる。
    「……だってあんなことになると思ってなくて」
    「なるだろ普通」
    「そうですかねぇ……」
    「そうだっつの」
    伊丹はやおらしゃがみ込んで、足元に転がっている潰れた空き缶を手に取った。
    「何ゴミ拾ってんの」
    「じゃあこれは……僕は飲んじゃダメなお酒ですよね」
    「間違いない」




    今日は新入生の歓迎会、というか、そうやって銘打っただけの飲み会だった。上級生は待ってましたとばかりに酒を流し込み、下級生にも同様にするのを勧める。4月の居酒屋では悲しくもよく見る光景だろうか。
    伊丹はというと、端の方でウーロン茶をちびちび飲みながら、店員が一気に持ってきた酒のグラスをそれぞれ注文者のもとにせっせと運んでいた。

    「おまえ、そんなことしてんともうちょい構ったれよ」
    頭の上から、ほどほどに酔っているのだろう、平常よりは調子の良い声が降ってくる。川西は空のビールグラスを片手に伊丹を覗き込んだ。
    馬鹿騒ぎをしている上級生たちの集団から離脱してきたらしい。川西はそのまま伊丹の右側に無遠慮に座り、空いていた左手で肩を掴んだ。その拍子に、ウーロン茶に伊丹の腕が引っかかる。
    「あ、ちょっと」
    ゴトン。
    幸い中身は少なくなっていたので机の上に小さな水たまりができるにとどまったが、伊丹は慌てた様子で台拭きに手を伸ばす。
    「あー、わり」
    「ほんとですよ、邪魔しにきたんですか?」
    「悪かったって」
    川西は少し決まり悪そうに、溶けた氷で薄まっているのだろう薄い色のビールを飲み干した。
    「それでなんですか、わざわざ」
    「わからんの?あの子ら」
    川西が顎で指した先は座敷の隅の方、伊丹たちが座っているのと反対側にかたまってなにやら話しているところだった。それは新入生の女子が数人で、上級生のハイテンションなノリについていけなかったのであろう、酔いが回って盛り上がっている集団を一歩引くように見ている。彼女らは時折伊丹ら二人の方に目をやっては、またすぐに視線を戻して話し始めた。
    「あ、こっち見た……ハナオに用ですかね?」
    「あほ、どう見てもお前目当てだろ」
    川西は伊丹の隣に座って、彼の肩に肘を置いたまま言う。伊丹はこぼれたウーロン茶を拭き終わった台拭きを元のように四つ折りにしながら怪訝な顔で聞き返す。
    「えぇ……?」
    「自覚なしとかありえんわぁ……」
    「どういうことですかそれ」
    「コーヤくんにはこの気持ちがわかんないんですかねえ」
    はあ、と川西はわざとらしいため息をつき、空になったグラスを勢いよくテーブルに置いた。底に残った小さい氷のかけらが音を立てる。
    「おまえ今回一年の勧誘担当だったろ」
    「はい」
    「なんで勧誘担当にされたかわかる?」
    「人数の兼ね合いですか?」
    また大きなため息が一つ。川西は驚いたような呆れたような顔をして頭をかく。
    お前頭いいんかアホなんかわからん。そうやってぼやいて、川西は大皿に少しだけ残った鳥の軟骨唐揚げに箸を伸ばした。
    「あれだよ、顔」
    「はい?」
    「おまえの顔が良いから」
    「……」
    黙ってしまう伊丹に冷たい視線が注がれる。
    「俺に言われて赤くなんな、きめえ」
    「ちがいます、これは酔って」
    「おまえウーロン茶しか飲んでねえだろ!」



    だからさあ。川西は面倒臭そうに続ける。
    「おまえは客寄せパンダなわけ。わかる?」
    「は、はあ」
    「おまえニコニコしながらビラ配ってさあ一年に喋りかけたりしただろ?」
    「そうですね」
    伊丹の相槌が要領を得ない様子なので、川西の語気に苛立ちの色が見えだす。
    「まだ入学したばっかで訳のわかってない女の子がさあ、前みたいにヘラヘラして人畜無害そうなイケメンに声かけられたらそらついてくだろ?」
    「そうですか?!」
    「そーだから今年は一年の女子比率高いんだよ!」
    「えっそうなんですか!?!」
    「うっせーよお前声でかい」
    川西は鬱陶しそうに、目を丸くする伊丹をこづく。声に反応して女子生徒の複数の視線が一気に、明確に二人に向いた。
    ほら、サービスしろ、と耳打ちされて伊丹は困ったように小さく手を振る。きゃっ、とその小集団は小さく色めいて、いくつかの手は同じく控えめに振り返され、いくつかの頭がぺこりと前後した。
    「ほれ、パンダはパンダの仕事しろ」
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