俺だけの男セックスをする度に、思うことがある。
真っ赤に染まった体躯。潤んだ瞳。漏れる吐息と甘い喘ぎ。それらを全て真正面から受け止めて、どうして俺は正気でいられるんだろう。普通こんなの正気じゃやってられない。顔を合わせるたびに、会話をする度に、体を重ねるたびに、俺の中の花道への愛が大きくなって、毎回俺を狂わせる。
「なあ、……なあ」
「ん、ぅあ? あ、かえ、」
「なあ、オメー何で、そんな可愛いの」
「……あ?」
「可愛い。他の高校ン男もみんな、オメーのこと可愛いって思ってる」
「……何、言ってんだ?」
「ハナミチ」
ヒュッと零れた吐息は俺のものか、花道のものか。気づけば、俺の手が花道の太くて逞しい首に添えられていた。添えて、どうしたいんだろう。どうしたい? こんな事をしておきながら、答えがわからないなんて滑稽すぎるだろう。
「か、かえ……で、あ゙!?」
「ハナミチ、俺の、俺だけのもんになって」
「がっ、あ゙、あ!!~~~ッッ!!」
指先が花道の皮膚に食い込んで、すぐそこに血管が通ってるのが指先に伝わる振動でわかる。生きている花道。好き。好き。死なないで、死ぬならぜったい、おれのもとでしんで。
「がッ、で!!」
花道の顔が赤く染まる。可愛い。そんなところもたまらない。
花道の穴がきゅうきゅう締まる。こんなことされてコーフンしてんのか。可愛い。他のやつにはぜってー教えたくねーし、知られたくもねー。俺だけの秘密。俺だけの花道。俺だけの……
萎えてるちんこからゆるく精液が流れた。そんなとこも可愛い。俺に首絞められて殺されそうになってんのに、快感を拾ってる。とんだ天才だなと思う。俺のことを大好きになる天才。俺をメチャクチャにさせる天才。
「あ゙、あ゙……あ゙………………」
「ハナミチ?」
ブッ飛んだ脳ミソに流れてきた声にハッとして手を離す。真っ赤に染まっていると思った顔は、よく見ればどす黒くなっていた。うっ血しているのだろう。目も虚ろで上を向いていて、俺のことが映ってない。
ドッドッと心臓の音が遅れて届く。――花道?
「……は、あ゙、ゲホッ! あ゙、あーー?」
「……ダイジョーブ?」
本当に滑稽だと思った。殺しかけた張本人が、何を。
言葉を出した瞬間、ハッハッと呼吸が荒くなった。どうやら花道の首を絞めていた間、俺も息を詰めていたらしい。血液と酸素が一気に全身を駆け巡る。それは花道も同じなのだろう。コヒュコヒュとまだ整わない肺をどうにか動かして、酸素を取り込もうとしている。顔に血の気が戻る。それを見て安堵した。
「ハナミチ?」
伸ばした手が向かった先は、今度は首じゃなく頬だった。自分の行動にホッとして、その表情を見られたらしい。眼下の花道が、俺の手を掴んだ。
心臓が冷えるとはこのことかと、初めて思った。いや、初めてじゃない。本当の初めては、コイツの背中がダメになったあの時だった。
また離れるのか。そう思って、だけれど今回は俺が離れさせるようなことをしたのだと自覚している。やってはいけないことをした。その一線を越えてしまった。誰かに奪われるくらいなら、自分の手で殺したいだなんて。そんなのどう考えたって間違えている。
「ハナ、」
「なんつー顔してんだ。バカヤロー」
ケホッと咳をした花道が俺を見上げている。視線が交錯して、涙が出そうになった。
いかないで。ずっと俺のそばにいて。
そんなガキみたいな思いが胸の奥深くで渦巻いてる。本当にどうしようもない。
「…………不安になったんか?」
「なに?」
「俺のこと、殺そうとした」
「……ごめん」
「ごめんで済んだらケーサツはいらねーんだぞ」
「うん。ごめん」
本当に子供みたいだ。謝ってどうにかなることじゃないのに、俺の口からは「ごめん」以外の言葉が出てこない。そんな俺を、花道が唐突に抱きしめた。本当に唐突で、俺は何が起こったのか理解できないでいる。
「え」
「ンな顔すんな。俺はちゃーんと、オメーのもんだから」
「…………ほんとに?」
「んだよ。信じらんねーのか? っつーか、首絞める前にちゃんと言えよ。不安ですーって」
「言えるわけねー」
「殺すよか簡単だろうが。わかってんのか? 死んだらもう一緒にバスケできねーんだぞ」
「! それは、困る」
「オメーの基準って時々すげー怖くなるわ」
ハハハと普段と同じように笑う花道。俺からすれば、オメーの方がよっぽどこえーよ。
なんで笑ってられんだ。今さっき、お前は殺されかけたんだぞ。なのになんで、そんなふうに笑えんだよ。
「不思議だって顔してる」
「俺、おめーのことが時々わかんなくなる」
「それは俺も一緒。でも、ちゃんと覚えていてくれよな」
「何を?」
「俺は、最後の最後までオメーだけの男ってこと。そんで、オメーも俺の男ってこと」
そう言って、花道がまた笑った。太陽みたいな笑顔で、本当に、この男は。
「ああでも、俺が万が一にも浮気なんかしたら、そん時は殺して」
「ったりめーだ。その時はちゃんと責任もって俺がオメーを殺してやる。オメーを殺して俺も死ぬ」
そう言ったら、今度は爆笑しやがった。本気だぞ。本気なんだからなと知らしめたくて、大きく開いた口に噛みつくようなキスをした。