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    sorahoshino_RH

    @sorahoshino_RH

    流花小説

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    2025年2月9日開催のめでるはVR2025の無配小話です。
    パスワードは流花の数字。
    内容はタイトルからお察しください。

    #流花
    flowering

    【めでるはVR2025 小話】哲子の居間いい天気だった。起きてすぐに天井の窓から差し込んできた朝日に目を覚ました花道は、ベッドの上で上半身を起き上がらせて、少し固まっている筋肉をグッと伸ばした。昨夜散々いじめ抜かれた体だが、花道の回復力をもってすれば怠さも何も残っていない。今すぐ十キロのランニングに出られるくらいである。
    情事の名残を見せないような軽やかな動きでベッドから出れば、背後から花道をいじめた張本人である流川の不機嫌な声が布団の中から這い出てきた。
    「……もう起きる?」
    「起きる。いい天気だから布団も干してぇ」
    「俺はもう少し寝ててぇそれだけしか言わないが、語尾には「お前と一緒に」がくっついている。言葉にしなくてもわかるくらいの甘い視線を花道に向けながら、流川が長くて白い腕を布団の裾からぬっと伸ばす。
    うずうずと身体が疼いてしまうのはもはや反射だ。流川に誘われてしまったら、花道が意図していなくても身体が勝手に反応をする。もはやパブロフの犬状態である。
    だけどもここで誘いに乗ってしまったら最後、いくらアイアンボディの持ち主とは言えきっと今日いっぱいは使い物にならなくなってしまうだろう。正午までヤって、夕方まで屍。そんな未来が軽く想像できてしまう。やっと得た休日。恋人と甘い時間を過ごすのも捨て難くはあるが、やりたいことだってたくさんある。
    花道が頭の中で流川とその他を天秤にかけた。結果、残念ながらその他の方がほんの少し傾く。
    「ダメだ。今日はちゃんと家のことをする。布団だってグチャグチャだろうが。おら起きろ、朝メシ食うぞ」
    流川が包まったままの布団を力任せに剥ぎ取れば、大きな体を小さく丸めて寝ている大男がお目見えした。まるででっかい黒猫のような彼氏は、花道の決断に大いに不服らしい。見るからに不機嫌を貼り付けた顔。イケメンと称される国宝級の顔面が台無しである。
    「……しゃーねーな」
    後頭部を掻きながら、流川の上に乗り上がった。一瞬期待に満ちた瞳が花道のそれとかち合う。だが残念。決めたことは覆さないのが花道だ。
    チュッ、と軽いリップ音と共に唇に柔らかな熱が重なった。だけどすぐさま気持ちのいい重さが遠のいていく。
    「ほら、もっとキスしたかったら今すぐリビングに出てこい」
    まるで挑発をするような言い方とイタズラを仕掛けた子供みたいな無邪気な顔を見た流川は、大きな欠伸をしながらベッドからのそりと這い出ることにより、自ら今回の敗北を宣言した。
     
     
    朝食を終えてからは、花道の宣言通りキスをしたり、ベッドシーツを洗濯したりと休日にしかできないことをたんまりと堪能した。スッキリしたと太陽に向かって破顔した男の横顔を見た瞬間、あまりの眩しさに目を細めた。正直太陽よりも眩しい。
    おかしな顔をしていたのだろう。流川を見た花道が一瞬で怪訝な顔になり、俺の顔になんかついてっか? と見当違いな事を言う。本当に可愛い。
    そんな可愛い恋人の頬をむにっと挟むと、愛おしさを重ねるように分厚い唇に思い切り重ねてやった。
    その後、公園に走った二人は昼過ぎまで無我夢中でバスケに打ち込んだ。引退をして数年。未だ衰えを知らない二人のワンオンワンは昔から変わらず白熱し、いつしか周りには大勢のギャラリーができていた。
    何度目かの勝負に入った頃。小学生らしき子供が「お昼だ!」と叫んだのをきっかけに時計を見る。短針がテッペンを指しており、長針はそれを少しだけ追い越していた。
    「あ、そういや今日じゃなかったか? あの番組」
    「む?」
    「む、じゃねぇよ。オメーが自信満々で帰ってきたアレ。哲子の居間」
    「ああ、アレ」
    花道の言う『哲子の居間』とは、毎週月曜から金曜までの午後二時に放送されているご長寿番組だ。毎回ゲストを招待して、居間の主人である哲子嬢と和気藹々とお喋りをするというトーク番組である。
    博識であり、新しいものを含めて全ての方面の情報収集をしている哲子嬢とのトークは、相手が大御所芸能人であれば和やかなムードの中、昔話に花を咲かせて終始穏やかに収録が済まされる。だが一部の芸能人の間では、哲子の居間はこうも呼ばれていた。
    新人殺しの居間。特に芸人相手になると、哲子嬢は毎回お茶目な無茶振りを振りまくっては、新人達を地獄の底へと叩き落としている。本人に自覚がないのがお茶の間を賑わせている一因ではあるのだが。
    そんな哲子の居間に先日お邪魔したのが、誰でもない流川だった。引退したとは言え今なお人気が衰えることを知らないスーパースター。元バスケットボール日本代表である流川が呼ばれたのは、偶然ではあるが必然だった。
    その時の収録が放送される。今の時刻は十二時を少し回ったところ。今から走って帰って昼食を食べればどうにか放送には間に合うかというところだ。
    「なに? オメー見んの?」
    「あ? たりめーだろ。お前が余計なこと言ってねーかちゃんと確認しねーと」
    「余計なことは言ってねー」
    「…………いまいち信用できねーからゼッテー見る」
    「俺の生涯かけて一緒に幸せになりたい大事な人とかそんなんは言ってねー」
    「だーー! だからお前はどうしてそう恥ずかしい言葉をポンポンと!」
    「全員に言いてぇ」
    「全員って何だよ! つーか言われてたまっかんなこと!」
    「全員は全員だし、恥ずかしくなんかもねー。オメーのことが大事なのは本当」
    「ふぬー!」
    ほぼ全速力で走りながら言い合いをしている二人を通行人が好奇の目で見ている。だけどそんな視線には見向きもせずに、いつの間にかどちらが先に家に着くのかを競う勝負にスライドしていた。
     
     
    ゼハゼハと息が上がるほどの激走の末、足先の差で決着がついた。
    勝者のリクエストにより、この日の昼食はオムライスになった。爆速で食材を切り刻み、冷凍ご飯をレンジで解凍する。オメーのオムライスがこの世で一番とか都合のいいことを言うもんだから、負けた悔しさ半分、褒められて嬉しくなる気持ち半分で、花道はいつも流川の要望を聞いてやっている。
    真っ黄色の卵にくるんと包まれたケチャップライス。味付けは極力シンプルに。ソースなんてオシャレなものもなく、ケチャップで『キツネ』と書いてやるのがせめてもの愛情の現れだ。
    それを様々な角度からカメラに収めた流川は、いただきますと言うや否や目をキラキラさせながら見つめていたケチャップ文字にスプーンの背を押し付けて迷いなく潰した。
    ガツガツと食べ進める流川を見ながら花道も食事を始める。毎回どこにでもあるような味だと思うのに、これを美味い美味いと言って数分でペロリと平らげる流川を見れば、愛されていることは重々実感することができた。そんな流川を前に花道も食事を終わらせて、二人で選んだソファに座る。弾力のある革張りのソファは二メートル近くある男二人が隣り合って座っても何ら問題がない。ギシッと鈍い音が鳴り、二人の重さを受け止めた。
    「お、始まるぞ」
    ナチュラルに腰に回された腕を無視してテレビのリモコンを操作する。該当チャンネルに表示されたデジタル時計は番組開始まであと一分を告げていた。
    しばらく待つ。すると、画面が華やかなスタジオのそれに変わり、耳馴染みのあるメロディがリビングに流れ込んできた。
     
    ♪ル〜ルル、ルルルル〜ルル、ルルルル〜…
     
    日本に住んでいれば一度は聞いたことのあるメロディに、花道がつられて口ずさむ。最初は哲子嬢に寄っていた画角が徐々に広がり流川が画面に映し出されると同時に、哲子嬢によるゲスト紹介が始まった。
    『みなさんごきげんよう。哲子の居間です。本日のゲストは元NBAプレイヤーであり、元日本バスケットボール日本代表で現在チームジャパンのコーチを務めていらっしゃいます、流川楓さんです。本日はどうぞよろしくお願いします』
    『……っす』
    国民的番組だというのに普段と変わらず無愛想な男に頭が痛くなる。だが世の中はおかしなもので、誰もがこの無愛想な雰囲気がいいと宣うのだから意味がわからない。
    『それにしてもあーた、本当にお顔がお美しいのね』
    単刀直入にぶっ込まれた賛辞に花道が飲んでいたミネラルウォーターを吹きかけた。この世のどこに初対面の流川に対して真っ先に顔面を褒める人間がいるだろうか。恐るべし哲子嬢。さすがだ哲子嬢。
    『……俺は、そういうのよくわかんないんで』
    『あらご謙遜を。でもいいわ。そう言うところが人気の源なんでしょうね』
    『そう言うもんですか』
    『ええ。ところであーた、バスケはいつから?』
    最初こそぶっ飛んだ始まり方をした番組だったが、そこからはバスケの話で盛り上がり――と言っても流川はほぼ『っす』しか言っておらず、全編通して哲子嬢のマシンガントークになっているのだが――何一つ事件らしいものは起こりそうにもない。
    流川のことだからてっきり問題発言をいくつかかましているだろうと身構えていた花道は、二度目のコマーシャルに入るところでようやく全身の力を抜いた。
    「まあまあちゃんと会話になってんじゃねーか」
    「だから言ったろ。余計なことは言ってねー」
    「みてぇだな」
    安心したのか、花道がおもむろに流川の方へと体重をかける。腰に回された手の甲に自分のそれを重ねながら、分厚い胸板に頭を傾けた。
    甘えている。花道が。レアな姿に流川の喉が変な音を立てる。今すぐ抱き抱えてベッドルームに閉じ込めたい衝動をグッと我慢する。ここで手を出したら最後、きっと花道は数日間、話どころか目も合わせてくれないだろう。それだけは絶対に避けたいため、楽しみは夜まで待つことにした。
    そうしてしばらくすると、また番組が再開する。今度はどうやら高校時代の話が話題の種らしい。
    『あーたの出身校は、ええと、確か湘北高校でしたっけ』
    『そうです』
    『そこでもバスケ部主将でいらしたとか。昔からお強かったのね』
    『……自分ではわかんないですけど、でも、俺が強くなったんだとしたら、多分あいつがいたからです』
    「…………ん?」
    何か聞いてはいけない言葉が聞こえたような気がした。気のせいだと思いたかったが、真横にいる流川を見ると、前髪をちょいちょい弄って照れている。待て、嫌な予感しかしない。
    「オイ、余計なこと言ってねーんだよな?」
    「うん。余計なことは言ってねー」
    嫌な予感がどんどん膨らんでいく。だけどそんな花道のことなんか知らない画面の向こうにいる数日前の二人は、どんどん話を進めていった。主に哲子嬢が。
    『あいつって、ひょっとして桜木選手のことを仰ってるの?』
    心臓が嫌な音を立てて爆ぜた。バックバクである。
    「だー! おまっ、名前出してんじゃねーか!」
    「どあほう。俺じゃねー。あの人が言ったんだ」
    「屁理屈言うな! 名前出たたらどっちだろうと一緒なんだよバカ!」
    そもそも哲子嬢が花道の名前を口にしたのは、その前の流川の言葉を受けたからだ。全ての元凶となる犯人は明白である。それなのに当の流川は澄ました顔をしているものだから花道としてはどうしようもない。いや、そもそも数日前にこれが収録されている時点で花道の運命は終わっていたのだ。
    『桜木選手とあーたはずいぶん仲が悪いとお聞きしましたし、日本代表の時も何度か喧嘩をなさっていたみたいだけれど、本当に不仲なの?』
    『ああ、俺は悪いと思ったことはないです。あいつが勝手に噛み付いてきてただけ』
    『あーたは別に嫌じゃなかった?』
    『そうですね。むしろ可愛いなって思ってました。俺のこと目の敵にしてるくせに、俺のプレーに近付こうと踠いてんのとか見たら、たまんなかったです』
    ……何を見せられているのだろうと思った。画面の向こうで何が起きて、これから何が起きるのか怖くて直視できない。
    『あーたは桜木選手のことお好き?』
    爆弾どころの騒ぎではないものが落ちてきた。昔、父親と見たエイリアンの映画が花道の脳裏に蘇る。今この瞬間地球が破壊されればいいのにと真剣に願ったことは初めてだ。
    『まあ、そりゃあ。一緒に住んでるんで』
    「…………あ゙?」
    『あら、そうなの。それはつまりいいご関係ということかしら』
    『……ですね』
    「…………あ゙?」
    画面の向こうでも流川が前髪を弄り始めた。照れている仕草。今まさに花道の真横でシレッとしている男も全く同じことをしている。
    ビキビキとこめかみに青筋が浮かぶ。顔色なんかはとっくに赤を超えてドス黒くなっている。そんな花道の怒りに気付いていない流川は、満足そうな目を画面に注ぎ続けていた。
     
    ♪ル〜ルル、ルルルル〜ルル、ルルルル〜…
     
    『お聞きしたいことはまだたくさんありますが、今回はこれで。次回はぜひ、桜木さんと一緒にいらしてくださいね』
    『はい。ぜひ。よろしくお願いします』
    『それでは本日のゲスト、流川楓さんでした。それでは皆様ごきげんよう〜』
     
    ♪ル〜〜〜ル〜ル〜ル〜〜〜
     
    軽快に音楽が流れて番組が終了する。画面の向こうでは、哲子嬢がにこやかに手を振り、流川は相変わらずの無表情で硬く手を振っていた。
    「な、余計なことは言ってなかったろ」
    「お前、本気で言ってんのか」
    わなわなと握り拳を震わせる花道に、流川が何でもないように口を開く。
    「だって、どれもこれも余計なことじゃねーから」
    俺にとっては、という前置きがちゃんとあるのを理解した花道だったが、それはそれこれはこれである。許されると思ってんのか大馬鹿野郎。
    「……とりあえず」
    「ん」
    「オメーはこれから一ヶ月、セックス禁止な」
    「え」
    「俺に触るのも禁止! わかったか!」
    「……はぁああ!?」
    ここ数年の中で一番大きな声を出した流川は、花道の宣言通り地獄の一ヶ月を過ごす羽目となり、同時にやっぱりあの時無理矢理にでもベッドルームに連れ込めば良かったと激しく後悔した。
    その代わりと言っては何だが、流川の望み通り、この放送をきっかけに二人の関係は地上波どころかネットを通じて地球上の『全員』の知るところとなった。
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