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    kadohashi_

    @kadohashi_

    多分期間限rkrnアカ
    中在家長次は右固定、それ以外は雑食
    長子かわいいよ長子

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    kadohashi_

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    きり長のお話。だけどまだ二人とも無自覚なのでカプ成立はしていないので「後のきり長である」って感じです

    この気持ちがなんなのか忍術学園の放課後は、活気に満ちてそこかしこで賑やかな声が聞こえてくる。
    一日の授業が終わり、夕食や風呂が始まるまでのこの限られた数刻で、生徒達は委員会活動や自主トレーニング、または趣味を満喫するために自由に過ごしている。
    そんな賑やかな学園の中で、例外的に静かな場所が図書室だった。


    本日の図書当番は六年生の中在家長次と一年生の摂津のきり丸の二人で、図書室内の受付カウンターに座り、テキパキと仕事をこなしていた。
    主にきり丸が貸出と返却の作業を行いながら、隣に座る長次は簡単な本の補修や、延滞チェックをする。
    また本を探している生徒に声を掛けられれば、図書室内の蔵書を知り尽くす長次が静かに起ち上がり、その本の置かれている本棚へ案内する。
    そうして真面目に図書委員会の活動に勤しんでしばらく、本の返却を終えた生徒が出ていって、図書室内には長次ときり丸の二人だけになった。
    出入り口の障子戸越しに入ってくる日の光も、図書室の奥に届きそうな程伸びてきていて、日が傾いてきているのがわかる。
    この時間になれば、今日はもう新たな利用者がくる可能性も低いだろう。
    「……今日は、早めに終いにするか」
    「そうっすねぇ」
    長次がもそりと呟けば、隣に座ってるきり丸も頷いた。


    本日返却された本を二人で確認して、補修の必要があるものとないものに仕分けていく。
    補修の必要がない本がある程度積み上がったのを見て、きり丸はその本を抱えて席から立ち上がる。
    「この本、本棚に戻してきちゃいますね」
    「手伝おう」
    長次が小さな声できり丸へ話しかければ、きり丸は
    「これくらい平気ですよ。僕だけですぐに終わりますって」
    と本を両手でしっかりと持ちながら、さっさと本棚の間に姿を消してしまう。
    それでもやはり手伝おうと長次も席を立ったところで、貸し出しカウンターのすぐ近くの床に小さな紙片が落ちているのに気がついた。
    いつからそこにあったのか、つい先ほどまでには落ちていなかったように長次は記憶しているが、小さく折り畳まれた紙片なので、見落としていたのかも知れない。
    長次はそれを拾いあげると、その場で紙片を広げてみる。
    この紙切れの持ち主が誰なのか、手がかりがあるかと考えて中身を改めようとしたのだが、その紙を広げて目に入ってきたのは見慣れた長次自身の書き字だった。
    「三木ヱ門が門を砲で……ぎりぎりまで砦に……」
    長次はそこに書かれた内容を読んで、以前低学年だけで行われた委員会対抗戦での山賊退治の際に、自分がきり丸へ渡したメモだと思い出す。
    と言うことは、この紙片の持ち主は。
    「先輩、なんか言いましたー?」
    メモを読み上げる長次の小さな声も耳ざとく聞きつけてきり丸が、本棚の間から顔を出す。
    きり丸は先ほどの宣言通りすぐに本を所定の場所に戻したようで、その両手はすっかり空になっていた。
    「って、それ!」
    調子良く長次の元へ近づいたきり丸だったが、その長次の手の中にある物を見て、さっと表情を変えた。
    やはりこれはきり丸の持ち物だったか、と長次は考えながら、こちらへ慌てて駆け寄ってくるきり丸を眺める。
    それにしてもきり丸はこのメモを常に持ち歩いていたか、それとも何度も開いているのか、長次が渡した時から比べて紙はずいぶんくたびれていて、折り目は擦り切れて今にも千切れそうになっていた。
    「か、返してください!」
    きり丸が手を伸ばしてメモを掴めば、返さない理由もない長次はあっさりと手を離してメモを奪い取られる。
    「これは別に、なんでもないです! そう、僕ってばケチだから、こういうの捨てられないもんで……!」
    「……」
    笑って流そうとするきり丸だが、無言で見下ろしてくる長次の視線に耐え切れなくなったのか、恥ずかしそうにうつむく。
    「その、これは……お守り、にしてたんです。中在家先輩から貰ったものだから。これ見てるといつも先輩が近くに居てくれるような気持ちになれて、嬉しいし落ち着く感じがして……って、あーヤだなぁ、僕ってば変なこと言ってますね! 何でもないです、忘れてください!」
    ぽつぽつと話すきり丸の言葉に、長次は僅かに目を丸くする。
    しっかり者で普段はあまり甘えてくることのないきり丸が、意外なところで自分を必要としていてくれた。
    その事実に長次は内心驚いていたが、当然ほとんど表情にはその驚きは表れない。
    「……これを」
    突然長次は自身の懐を探ると、そこから一枚の薄い木製の栞を取り出し、きり丸に差し出した。
    それは長次の愛用の栞で、きり丸も以前「中在家先輩の手作りだよ」と五年生の不破雷蔵から聞いていた物だった。
    紙のように薄く加工された木製の栞には、墨一色で描かれた朝顔の絵と小さな字で『中在家』と名前が書かれていて、上部に開けられた小さな穴には、長次が身に纏っている6年生の制服と同じ色の紐が通されていた。
    長次は屈み込んできり丸の手を取ると、その手のひらに栞を乗せて、自身の両手できり丸の手を包み込む。
    「メモよりは、丈夫だろうから……」
    「え、え……? あ、ありがとうございます……」
    きり丸の礼を聞くと、長次は小さくうなずく。
    「あの」
    一瞬の沈黙のあと、きり丸が口を開いたのと同時に、終業を伝える鐘の音が聞こえてきた。
    「今日は、終いにしよう……」
    「あ、はい……」
    鐘の音を聞いて閉館支度を始めた長次に何も言えず、きり丸はその日の委員会活動を終えた。


    「はー……」
    忍たま長屋の自室へと戻ったきり丸は、部屋の真ん中に寝転んで何度もため息をつきながら栞を眺めていた。
    時折紐をそっと摘んでみたり、栞に書かれた朝顔の絵や中在家の文字をまじまじと見つめ、声に出さず、唇の動きだけで何度もその名前を読みあげてみる。
    貰ってしまって、よかったのだろうか。
    先輩にとって、これは大切な物だったのではないのだろうか。
    なぜ突然これを自分にくれたのだろうか。
    色々と考えずにはいられないが、性分として一度貰ったものを返すことはできそうにない。
    栞を鼻先に近づけてみると、元の材質である木の匂いではなく、古い紙と墨の入り混じった書物の匂いがした。
    それはつまり、いつも図書室で会う時の長次の匂いで、この栞が長い時間をかけて彼が使い続けていた物に他ならないのだと実感させた。
    その匂いが引き金になって、栞を渡された時のことをまた思い出す。
    屈み込まれた時に間近に見た長次の顔。
    栞を渡した時に触れた長次の大きな手の感触。
    自分にだけ向けられた、長次の控えめな声。
    「……へへ」
    思い出すだけで、笑みがこぼれてきて、今までに感じたことがないほどにふわふわとした気分になってしまう。
    二人だけの時間は、栞ごときり丸の宝物になった。


    きり丸が一人で栞を眺めていた頃、長次もまた長屋の自室で一人で過ごしていた。
    夕暮れの室内で机に向かって、先日図書室で借りた本の頁を静かにめくっていると、突然軽快な足音が響いてくる。
    こちらへ一直線に向かってくる足音は部屋の前で停止した。そして間髪入れずに勢い良く戸が開け放たれる。
    開いた戸の前に立っていたのは、この部屋のもう一人の主である七松小平太だった。
    今日も元気に体育委員会の活動で山を駆け回っていたのだろう、小平太はとても晴れやかな笑顔を長次に向ける。
    「ただいま長次! 夕飯に行こう!」
    「……おかえり」
    読書のついでに小平太を待っていた長次は、小平太の夕食の誘いに素直に頷く。
    長次は読みかけの本を閉じるために栞を挟もうと、いつもの癖で懐に手を入れたところで、その栞は先ほどきり丸に渡してしまったのを思い出す。
    あいにく栞の代用になりそうな物も手元にはなかったため、長次は諦めてそのまま何も挟まずに本を閉じる。
    「あれ、栞は?」
    小平太は長次が栞を挟まず本を閉じたのを見逃さず、不思議そうに首をかしげる。
    「きり丸にやった」
    「なんで? あれ大事にしてなかったっけ?」
    「……なんでだろうな」
    長次はそう言って、小平太の真似をするように小さく首を傾げて見せると、机の上に本を置いて立ち上がった。
    「夕飯、行くんだろう……?」
    小平太を促しながら、長次は自室から出て廊下へ向かう。
    栞を後輩にやってしまった理由について、長次が今はこれ以上話す気がないのだと小平太も察したらしい。
    小平太も詳しくは聞かずに、長次の隣に並んで歩き出した。
    食堂へ向かって歩きながら、長次は先ほどの小平太の「なんで?」について思いを巡らせる。
    小さなメモを大事に持っていたきり丸が、いじらしいと思った。
    自分が与えてやれる何かがきり丸の安心や喜びになるのなら、惜しみなく渡してやりたい。
    紙切れとは違う、なにかもっと、自分と繋がりがありそうな物を贈りたくなったのだ。
    とはいえ、あの栞は自分にしてみれば大切な物だったが、きり丸は妙な物を渡されたと困惑しているかも知れないなと、長次は考えてしまう。
    それでもきっと、きり丸の性格ならばあの栞も粗末には扱わないだろう。
    (大切にしてくれたら……嬉しいが)
    栞を渡した時に触れた、きり丸の小さな掌を思い出して、長次は誰にも気付かれないほどささやかに微笑んだ。



    きり丸も長次も、相手へのこの気持ちがなんなのか、今はまだわかっていなかった。
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