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    無理やり恋愛感情捏造してるし最終的にくっつくから気をつけろ

    北斗くんに恋愛感情捏造した上で遊園地に行く話4〜54.メリーゴーランド

     メルヘンチックな装飾の馬たちがくるくる回っている。
    「いいね。いかにも遊園地って感じ」
    二人はメリーゴーランドの列に並んでいた。なかなか人気のようで、前に並ぶ人の数は多い。小さい子とその保護者らしき人たちの姿が一番多かったが、ちらほらとカップルも見られた。
    「巴先輩は本物の馬に乗ったことはあるか?」
    北斗の質問は、メリーゴーランドを乗る前に相応しいような、よくよく考えればおかしいようなものだった。日和は会話のノリに慣れてきたのか、明るく答えた。
    「ふふーん一応。貴族の嗜みレベルだね!」
    「金持ちなことについてあんまり自慢げな態度をとるな。全く嫌味ったらしいな」
    「そちらの家もお金持ちとお見受けしますけどねー、なんて。実際北斗くんも乗ったことあるでしょう?」
    声だけでなく日和の顔にも笑みが浮かぶ時が多くなってきた。北斗の知る先輩はいつもならさらにもっと騒がしいくらい明るい人なのだ。
    「……ある。というか割と日常的に訓練している」
    「ふーん、偉いね。そういえばきみは演劇で王子様の役が得意って聞いたことあるね。きっと乗馬の所作も役に立っているんだろうね」
    たぶん機嫌もだいぶ良くなってきたんだろうと北斗は予想した。なんと言ってもこっちを褒め始めているのだから。
    「どうだろうか。そこまで舞台の王子役は馬に乗らないが」
    「なら時代劇?」
    「先輩、まだ入り口で言ってた初陣の若武者をネタにする気か」
    「そっちこそ気にしすぎだね」
     ここで日和は自分たちの前に並ぶ人の数を見た。もう少し時間がかかりそうである。少し声を落として会話を続けた。
    「映画にドラマにいろんな役を挑戦してるよね。もう半年以上前の映画だけど『桃源郷偶像拳』も、普段と全然違うキャラなのが面白かったね」
    北斗は日和があの映画を見てくれていた事実が衝撃的で、何故声のトーンを落としたか一瞬気づけなかった。少しして、この内容だと話している相手が『氷鷹北斗』だと周りの人にバレる可能性があるからだと察した。北斗も少し声を落として話し始める。小さい声で話しているのだから当然ではあるが、日和は聞き取ろうと顔を近づけてきた。それにもいちいち初心なことに北斗の頬は熱くなった。
    「あれは普通に主演のオーディションに落ちた結果でもあって……どんな役でも経験にしようと思えるまで、本気で悔しがって、選ばれた仲間にも八つ当たりして……反省している」
    「はは、きみは好戦的だもんね!」
    「そうか?」
    「無事反抗期も超えたことで、負けん気がより強くなっちゃった感あるね」
    「馬鹿にしてるのか?」
    北斗のむっとした顔を前に、日和は手をひらひらと振って否定する。
    「別にしてないね。正しく負けず嫌いだね! それも元々は言われたことに従うだけの子が、自分でどんどん勝負をしかけるような大人になった。もう、すっかり反抗期拗らせたね!」
    「巴先輩は俺の子ども時代を知ってるわけじゃないだろう」
    子ども時代は、知っている奴には未だ揶揄われる黒歴史のため、むしろ知られたくないのが本心だ。
    「でも思春期真っ只中の高校生からの知り合いだからね。先生にも話は聞かされてたし」
    「あれは忘れろ。俺の親だと思うな」
    「うわー。お父さんに対してまだそんな感じなんだ」
    より厳密に言うと、デートの時に父親の顔を思い浮かべたくなくて過剰な表現になっただけである。これ以上父親の話が続くのならば話題を変えたかったが、幸いなことに日和の方から別の話が切り出された。
     「きみの負けたくない根性は清々しいから嫌いじゃないね。アイドルの世界の勝負も色々あるけど、これまで裏の世界のゴタゴタが入ってきたり、殺し合いレベルでギスギスしてたり。かと思えば仲良しこよしのみんな一位が正しいんじゃないかって意見が入ったり、ぼくもまた入れちゃったことがあったり……余計な思惑入り過ぎてて嫌になるね。スポーツの世界だったら、平和と愛の祭典があることと、そこで金メダルとるための苛烈な競争をすることは両立するのにね」
    「あっちの世界も試合以外では選手同士仲良くしてるんじゃないか?」
    「まあね。でも純粋に競ってる姿にぼくらは感動していると思うね。正しいアイドルの勝負ってなんだろう。きみの姿から答えを学ばせてくれない? 本気でこのぼくを恋人にしたいって言うならそれくらいしてほしいね」
    向こうから付き合うことを意識するセリフが出てきて北斗の心臓がいよいよ跳ねた。それを誤魔化そうとしてふと、日和もこの間とあるオーディションに出場していたことを思い出した。オーディション自体は選ばれていたのだが、内容に思うところでもあったのかもしれない。
    「……またポージングの勝負でもするか?」
    少し悩んでから、過去にしたことがある勝負を持ち出してみた。すると日和もその提案に乗り始めた。
    「あはははっ。それかスマイル勝負でもする? 笑うことこそ、ぼくたちがファンに一番届けやすい贈り物だからね……それじゃあお手並みを拝見しようかな?」
    ここで順番がやっとまわってきて、二人は話し続けながら隣同士の馬に乗ろうと移動した。北斗が先にまたがり
    「なんのだ? ポーズか、笑顔か、ひょっとして乗馬のか?」
    と聞く。
    「全部全部。とびっきりの笑顔でぼくを遠乗りにでも誘う演技してみて。隣国同士で王子様同士の友達みたいな設定!」
    「仕方ないな……。ふむ……友よ、我が国の朝焼けを共に見に行こう」
    いきなりのオーダーだったが、身振りまで足して即興の演技をしてみせた。北斗は内心結構おかしなことも考えつつ、経験が培われた美しい微笑みを浮かべる。……先輩が出した設定では国も分からないが、とにかく王政を採用している国の王の息子だ。友達が隣の国の王子とか、言葉が違う気もするが、演劇なんだからどっちも日本語でいい。
    「悪くないんじゃない。かっこいいね!」
    果たして褒める返答が返ってきた。北斗は(巴先輩はお世辞など言わない)と本気で信じているので、やはり本気で喜んだ。
    「そうか! ああ、当然だ!」
    「そのニヤケ顔みたら途端に減点したくなっちゃったけどね!」
    「おい」
    とたんに北斗から王子様スマイルが崩れる。日和はその横で、自分も馬に跨った。
    「嘘嘘、そんな野暮なことしないね」
    言いながら自分の頬に指をあてる仕草をして、北斗にももう一度笑うように伝えた。
    「朝の遠乗り、いいじゃない。ぼくもこれからぐるぐる回る時間、そんな想像で乗ってみるね」
    まもなくメリーゴーランドは動き出す。これまたメルヘンチックにアレンジされたBGMが流れ始めた。
     (ってあれ、かかってる曲……)
    北斗に言った手前、自分もサングラスの奥で王子のような笑顔をキープしつつ、日和は耳をそばだてた。
    (やっぱり。fineの『恋はプリマヴェーラ!』だね)
    歌唱はないアレンジだというのに、オリジナル版の歌声も脳内で勝手に再生してしまう。日和にとって因縁のある天祥院英智という奴が、この歌ではやたらと朗らかに歌い出すのである。
    (なんで? 噂のサンクチュアリとか、アトランティスとかじゃないよね。ここ)
    しかし、この遊園地は北斗が選んだ場所ではある。そして北斗はスターメイカープロダクションという、英智と同じ事務所に所属するアイドルだ。
    (スタプロの息がかかってる遊園地ではあるのかな。もう、他のfineの子に罪はないけど悪い日和! コズプロのアイドルもありなら2winkの曲でまさにメリーゴーランドをMVに使ってるのがあったのに)
    隣にいる北斗となんとなく演技勝負をしている気がしている日和はあくまで表情を変えなかったが、結局頭の中ではそんなことを考え続けてしまった。
    (ところで北斗くんは……)

     メリーゴーランドから降りたところで、日和が北斗の肩を指でちょんちょんと叩いてきた。
    「乗ってる間、ぼくの顔ずっと見てなかった? 隣にいたのは友達の王子だよ? お姫様じゃないよ?」
    「俺もそういう想像で乗っていたはずだったんだ」
    「だったけど?」
    「そういう想像でもドキドキしてしまったんだ、先輩の顔に……」
    サングラスをつけていたのだが。BGMになっていた曲は北斗も知っているユニットの曲のはずだが。まあ気づかなかったならいいか、と日和は思った。機嫌を取り直して
    「ぼくってば居るだけで周りを照らすほど輝いているからねぇ」
    と普段からよく言うセリフを、今回は少し戯けて言ってみせた。が、
    「…………っ。もはや否定することもできない」
    北斗が白旗をあげるような反応をしたので、また笑ってしまった。
     乗る前に北斗へ向け投げかけた言葉にはあまり大した答えが返ってこなかったが、まだ今日は長いのだから一旦気にしないことにした。

    5.ゲームコーナー

     それからしばらくコーヒーカップだのバイキングだの、普通に遊園地の乗り物を二人は楽しんだ。バイキングなど揺れるものにいくつも乗っては降りて……をしていると、例えば海水浴後に波に揺られた感覚が体に残るような、あのふわふわ感を味わうことになる。心地よくはあるのだが、酔いを醒ましたいような気にもなった日和は北斗に声をかけた。
    「次はちょっとゲームコーナーに寄ってクレーンゲームとかやってみる?」
    「分かった。よかったら、景品でほしいものを見つけ次第教えてくれないか」
    取ってくれるということだろう。日和の笑顔は少し意地悪いものになった。
    「北斗くん取れるの?」
    「取れるまでやれば取れる」
    「駄目なタイプのゲーマーみたいなこと言ってるね!」
    その言葉に北斗までくすっと反応した。
     ゲームコーナーと看板がかかっている建物に入ると、ゲーム機から発せられるガチャガチャ音に混ざってBGMがかかっていた。こういう場所にかかる曲も大概ガチャガチャしたアレンジをされていることが多いが、日和はどこかで聞いた曲だと気づいた。
    「普通に町中のゲームセンターみたいだな。たまにTrickstarのみんなと行く所に似ている」
    「…………」
    BGMの曲名を思い出そうとしている日和はしばらく黙っており、北斗が首を傾げて見ていると、突然「分かったね!」と声をだした。
    「北斗くん北斗くん。ここでかかってる曲……」
    「曲?……あっ『ワチャガナドゥ?』じゃないか!」
    Trickstarでつい最近リリースした曲だった。北斗は「こんなところで。気づけなかった」と呟く。
    「やっぱりこの遊園地はスタプロ系なんだね。まあでも良かったね! こういうのアイドルあるあるだけど嬉しいよね、自分たちの歌がかかるのって!」
    「あ、ああ」
    先ほどのメリーゴーランドのBGMに気づいていなかった北斗は(やっぱり?)と思いつつ、とにかく肯定した。
    「ふふ。この曲のMVでもゲームセンター行ってたもんね。だから選ばれたのかな」
    「えっ?」
    ご機嫌で話している内容に驚く。日和はさらに明るく言葉を継ぎ足した。
    「違った? あとは、スバルくんが北斗くんにドーナツあげようとしてやっぱり自分で食べちゃうところあったでしょう。あれきっとアドリブだよね、だって北斗くんが素でポカンとしてたね!」
    笑って揶揄ってくる姿を、つい北斗は凝視してしまう。その視線を感じて、日和も言葉を止めた。
    「巴先輩……出たばっかりの曲をMVまで見てくれたのか?」
    「えっ?」
     今度は日和が驚く番だった。(しまったね。ちょっとアメを与え過ぎたかな)と思う。メリーゴーランドのところで『桃源郷偶像拳』のことも褒めてしまったのだ。これではまるで自分が北斗の大ファンのようではないか。そうではなく、同世代のライバルの仕事は割としっかりチェックし研究しているだけ……いや、この場合それも少し違う。日和は首を振り、諦めるように息を吐いた。
    「まあ……うん、普通にね。ぼくTrickstarを気に入ってるから楽しんでるね」
    「……」
    「Trickstarを、だからね?」
    しっかり釘は刺そうとしたが、北斗は意に返さなかった。
    「そ、そうだ。この際俺個人じゃなくてもいい。こんなに嬉しいことはない」
    「またそんなに感激しちゃって」
    内心であーあと思ってしまう。
    (はー。北斗くんって割と大仰な表現を使う上に真顔で気持ちを伝えてくるんだよね。普通に照れちゃう。なんかずるいよね天然は。自分のユニットを褒められたことをより喜んでるのにも、地味に好感度が上がっちゃうし)
     北斗からはそんなことを思っているように見えない顔をした日和がこう言った。
    「それじゃあ感動させたお礼に、本当にどれかのゲームで景品とってもらおうかな」
    ゲームコーナーを歩き回ると、縁日の射的や輪投げの屋台のような見た目の一角もあった。射的の景品になっているような最新ゲーム機には二人ともあまり興味がなかったので、適当な会話をしながら通り過ぎる。輪投げの方では、ぬいぐるみが景品として並べられていた。オーソドックスなクマのぬいぐるみを屈んで見ている日和の姿に、北斗は以前、雑誌に載ったこの人の写真を見かけたのを思い出した。どデカいベアを抱きしめたものだった。
     しばらくして日和が「ぼくあれが欲しいね」と指さしてきたので、やっぱりクマかと確認し……思わず二度見をした。
    「ありがとう。頑張ったね」
    無事に取得された景品のぬいぐるみを抱き上げ、日和は満足そうにしていた。
    「そこまでは……狙うものが大きかったしな……」
    「お部屋のどこに飾ろうかな。この……」
    「この……なんなんだ?」
    「この……熱水噴出孔のぬいぐるみだね」
    日和の腕の中にあるぬいぐるみは、細長い岩としか形容できない色と形をしている。二度見をした時も、今も、北斗が何回見直してもそうとしか見えない。
    「……もう一回言ってくれ」
    「熱水噴出孔」
    「だからそれは一体なんなんだ⁉︎ どう見ても長細い岩でしかないぞ。これをぬいぐるみにしようとしたのはどこの誰なんだ⁉︎」
    ついつい飛び出す早口のツッコミを前にしても、日和はマイペースだった。ぬいぐるみを軽く撫でている。
    「さあ? 奏汰くんみたいな海マニアの人だと思うね。ぼくも熱水噴出孔って彼に教わったんだよね。つい、『あっ奏汰くんが言ってたやつ!』って思っちゃった」
    二人も住んでいる寮『星奏館』は男性アイドル専用の建物で、部屋割りが所属事務所関係なく振り分けられている。日和は、深海奏汰という妙に水属性な雰囲気がする人ともう一人との三人部屋だった。
    「巴先輩が同室の人間と何を話しているんだかさっぱり想像できない」
    もう一人も癖が強い男なので余計にそう感じた。しかし日和はやはりケロッとしている。もはや全員が癖強男のはずの部屋はどうも何か科学反応が起きて、割と上手くいっているらしい。
    「うーん? ざっくりと『かいていかざんのえいきょうで〜』とか『ねっすいがふきだすいわです〜』とか言われたね。それで奏汰くんの名字じゃないけど、深海では『このねっすいではぐくまれる、せいめいがあるのです〜』って」
    「な、なんとなく神秘的なものな気がしてきた」
    「だからこそぬいぐるみになったんだろうね」
    「だからこそ。……だからこそ……?」
    もしも北斗が漫画のキャラクターであるならば、頭の上に疑問符がいくつも浮かんでいるだろう。そんな表情だった。日和は北斗の顔も満足げに眺めてさらに畳み掛けてきた。
    「とりあえず前に奏汰くんからもらったメンダコのぬいぐるみと、凪砂くんからもらった茨のぬいぐるみと一緒に並べておこうかな」
    「俺が混乱している間に、さらにおかしなことを言い出すのはやめてくれ。ついていけなくなるだろ」
    「ふん。むしろボケ大魔神の北斗くんに仕返しする目的半分でわざとやってあげたね。これに懲りたら暴走はほどほどにすることだね!」
    「なんだと……」
    抗議しかけて止まった。日和がぬいぐるみをまた撫でている。よくよく見れば可愛い海の生き物もプリントされている岩で、細長く大きい形は抱き心地が良いらしい。微笑みながら、もう一度ぎゅっと抱きしめていた。
    「……いや、もういい」

    ※続く

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