春とストーカーとお団子と花「変な男に惚れられた。半助、助けてちょうだい」
「またですか?」
調査のため町に出かけていた伝子さんは、別件で買い出しに町に出てきた私を視認するや否や、無駄のない、しかし軽やかな動きで私の腕を取り、私を路地裏に押し込んだ。少し疲れた表情だ。
またですか、というのは、これが初めてのことではないからだ。
紫の着物を着た、艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、きょろりとした大きな目をつけまつげで囲んだ、以前の真紅よりは肌色に合っている口紅を差した男ーー伝子さんは、時々男にモテるのだ。山田先生は変装の腕も良く、何に化けても上手く仕事をするのだが、何故か女装を好んでする。私から見たらどう見ても化け物の類なのだが、所作のせいかツボを抑えているせいか、山田先生を知らない人間にはなぜかあれで本当に女性に見えるらしい。本人がお茶に誘われたと言うのを嘘か冗談かと失笑していたのだが、どうやらそれは本当のことらしい。時々、いや稀に、やまーー伝子さんはこうやって私に助力を求めることがある。いわく、まともな男や立場がある男は断れば済むらしいが、中には粘着質な人間が含まれていて、後を追われたり逆上されたりと、仕事の支障になる場合があるとのことだった。
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