『同じ夜空と月を見る』(相漂♂・全年齢)【前書き】
鳴🌊非公式ファンWEBオンリーイベント
「潮騒に踊る星々」(2025年6月28日(土)22:00~29日(日)22:00)に併せて、新作として展示させて頂きました。
お互いに、友情というには大きすぎる感情を抱いているけれど、あまり自覚もなければその気持ちを相手に話そうとしなかった2人。
ブロマンス以上恋愛未満から始まる相漂♂です。
どちらもピュアな感じを目指して書いたらこうなりました。でも2人揃って天然たらしな部分があるので、サラッと自覚無しに甘いセリフを相手に言ってそうだと思っています。
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『同じ夜空と月を見る』
――月追祭。
あの時から、俺と相里との関係は少しずつ変わっていったような気がする。
共に背中を預けて戦う仲間としてだけではなく、
友人として共に時間を過ごすことも増えた。
遠く離れた場所に居る時も、お互いにデバイスを通じて連絡をしたり近況を伝え合う事も多くなった。
そんな折、相里の忙しかった仕事が一段落して、上からは"最近働き詰めなのでしばらく休暇を取るように"と言われた為、数日間の休暇を取ることになったという連絡が入った。
デバイスには『相里 要』とメッセージの送信者の名前とメッセージが表示され、続けて相里からの音声通話リクエストが入る。
俺はデバイスを操作して、音声通話モードに切り替える。
『漂泊者、久しぶり。今話しても大丈夫かな?』
「俺は大丈夫。メッセージも読んだよ。仕事、大変だったみたいだな。」
会話が弾む。
相里は研究のプロジェクトでしばらく忙しくしていて、華胥研究院に泊まり込む事もある程だったが、忙しくも充実した研究で相里にとっては苦ではなくそれはそれで充実した時間でもあったらしい。
『漂泊者は最近はどう?忙しい?』
少しだけ遠慮がちに相里が訊ねる。
――そういえば前回デバイスでやりとりしていた時はリナシータに滞在している時で、任務もあったから、こうやって落ち着いてゆっくり話せなかったな。
「いや、最近は任務もないし落ち着いてるかな。今は瑝瓏にいるし、一度近い内に今州城に帰ろうかと思ってるよ。」
『そうだったんだ。』
心なしか相里の声はホッとしたような安心したような、落ち着いた声がした。
『もし、君が良かったら僕の休暇の間に一度会えないかな?君の旅の話が聞きたい。』
「いいよ。今州城に着くのは明日くらいになりそうだな。それでも大丈夫そう?」
『僕は大丈夫。休暇は5日間あるし全然問題はないよ。』
――その後、どこに行くかを話し合い、相里のお勧めのお店で一緒に食事をする事になった。
「相里の選ぶお店なら、きっと美味しいんだろうな。楽しみだよ。」
『そう言って貰えると僕も嬉しいよ。気に入って貰えると嬉しいな。僕も漂泊者と会えるのを楽しみにしてるよ。』
それからも、お互いに他愛ない話をして、寝る少し前まで会話をしていた。
――最後に「おやすみ」とお互いに挨拶をして、デバイスの通信を切り、寝る準備をする。
瞼を閉じて、相里の穏やかで優しく心地よい声を思い出しながら俺は眠りについた。
――翌日、俺は旅支度のまま今州城に着いた。
一度今州城に用意された俺の部屋に帰ろうかなと思ったけど、早めに華胥研究院にほど近い待ち合わせ場所に向かうことにした。
待ち合わせの時間にはまだ早いけど、
研究院の近くに居ると、何だか相里を思い出して幸せで穏やかな気持ちになる。
今日は相里は休暇中だし、待ち合わせの時間にはまだ早くて相里は居ないはずだけど、
ここでのんびり時間をつぶすのも悪くはない。
そう思いながら研究院のほど近くの待ち合わせ場所に暫く居たら、見覚えのある人影が見える。
――相里だ。
まだ待ち合わせの時間までだいぶあるはずなのに。
「漂泊者、久しぶり。待たせたかな?」
「いや、俺もさっき来たところ。少し来るのが早かったかなって思ったけど、ここに……華胥研究院の近くに居ると、何だか相里の近くに居る気分がして、落ち着くんだ。」
「何だかそう言って貰えると嬉しいな。僕も君と……漂泊者と会えるのが楽しみで、早く来てしまったんだ。」
相里も俺も、今日会えるのが楽しみで早くに待ち合わせ場所に来てしまったらしい。
互いに同じ気持ちでどこか嬉しいような、同時にどこか照れくさい感じもする。
相里のお勧めのお店までの道のりを案内されながら、夕暮れ時の今州城下の道を、相里と一緒に歩く。
ふと、並んで一緒に歩いている相里の横顔を見る。
相里の表情はいつもと同じように優しそうで穏やかで、それでいてどこか嬉しそうで。
見ていて落ち着くし、何だか安心すると思った。
「着いた。ここだよ。僕のお勧めのお店なんだ。」
大通りから少し離れた場所に、相里に案内されたシンプルだけど清潔感のあって、落ち着いた雰囲気のお店があった。
今日は晴れてて景色も良いから、と一緒に外のテラスの席に座ってメニューを開く。
初めて来るお店だし、どの料理が美味しいんだろう、と少し迷いながらもメニューを見つめていたら、
「ここの料理はどれも美味しいけれど、野菜を中心に食べたいならこれ、魚料理ならこの料理、肉料理ならこの辺りがお勧めかな。」
と、相里がお勧めの料理を教えてくれたので、相里が勧めてくれた料理を頼むことにした。
「それから、ここのお店はお茶やお酒も美味しくて飲みやすいものが多いからお勧めだよ。
……漂泊者はこの後予定はある?お酒は飲んでも大丈夫?」
「この後は特に予定もないし、部屋に帰って休むだけだから大丈夫だ。お酒も少し貰おうかな。」
「それなら、このお酒はあまり強くなくて、飲み口も軽いから良いかもしれない。」
と、相里がメニュー表を指差して教えてくれたお酒も注文する。
注文してしばらくすると、料理とお酒が運ばれてきて、料理の美味しさに舌鼓を打つ。
「……この料理、本当に美味しいな。」
「きっと漂泊者なら、気に入ってくれると思ったよ。」
「美味しいし、味付けがすごく好みの食べ物ばかりだ。」
それを聞いて、相里は俺の顔を見ると微笑ましそうにクスリと笑う。
「漂泊者は――君は、普段から料理を美味しそうに食べるけど、中でも好きな食材や味付けの料理を食べている時は、とても顔がほころんでいるからね。それに声も普段よりも弾んでいて、嬉しそうだ。
一緒に旅をしていて、旅先で一緒に食事を食べる内に、何となく君の好みは把握出来るようになったかな。」
――自分でも全く気付かなかった。
俺、好きなものを食べる時にそんなに顔に出てたのか。
「俺、そんなに顔に出てた……?」
少しだけ心配そうに相里に訊ねる。
「分かりやすく顔に出てる訳じゃないよ。ただ、いつも君の顔をよく見ていたから、少しだけ違いが分かるかな、という感じだね。」
相里の言葉に安心してホッと胸を撫で下ろす。
ん――?
でも相里の言い方だと、食事の度に俺の顔をよく見ているって事じゃないか?
別に悪い気はしないけれど。
「でも、俺の顔ばかり見ていてもそんなに楽しくないだろ。何も出ないぞ?」
少しだけ悪戯っぽく相里に言う。
「そうかな。君は表情豊かで、幸せそうな顔も、真剣な表情も、どこか遠くを見つめている表情も魅力的だと僕は思うけどね。」
相里は俺の顔を見つめながら、どこか嬉しそうに表情をやわらげて話す。
心なしか、相里の頬は少しだけ赤い気がするのは気のせいか。
……まだ、二人とも酔うほどお酒は飲んでない気がするんだけどな。
何だか照れくさくて……相里の顔を見つめるのが少し恥ずかしくなって、手に持っていた酒器に視線を落とす。
酒器には、日が沈み宵を迎えた夜空の月が、注いだ酒の水鏡に映っている。
「明月、か。見て相里、月が綺麗だ。こうやって、水鏡に映る月を見ながらお酒を飲むのも良いと思わないか?」
相里は俺の持っている酒器と自分の持っている酒器を交互に見つめながら破顔した。
「本当だ、綺麗だね。今日は天気も良いからきっと綺麗な月と星空が見えそうだと思って、外の席にして良かったよ。」
「毎日を慌ただしく過ごしているとなかなか気づけないけど、こうやって見ると月と夜空は……本当に綺麗だ。
――だから、今年の月追祭も楽しみにしてる。
また今年も、相里と一緒に月追祭で一緒に過ごして、あの綺麗な月と夜空をまた見たい。」
――あの月追祭が、相里と俺の関係を変えてくれた。仲間としてだけじゃなく、友人として。
それから、まだ言葉では上手く表せないけれど……大切な人として。
「……! あの時の月追祭の時の約束、覚えててくれたんだ。漂泊者、君は多くの人に慕われていて、色んな場所に旅をしているのに……それでもこうやって僕と会ってくれて、また今年も月追祭に一緒に行ってくれるのが……凄く、嬉しいよ。」
「俺は、相里との約束を忘れたりしない。それに、月追祭で見たあの綺麗な月と星空を――他でもない、相里とまた一緒に見たいんだ。」
本当は、月追祭だけじゃなくて、もっともっと相里に会いたいけれど。一緒に時間を過ごしたいけれど。
でも、その本心は今は心に秘めて。
「漂泊者、本当に君は――。でも、僕は漂泊者が月追祭に一緒に僕と過ごしてくれるのが凄く嬉しいし……それだけじゃない、こうやって今日みたいに、時々会って時間を共にしてくれるのが嬉しくて幸せなんだ。」
相里は続ける。
「でも君は、色んな場所に旅をしているから、今州から遠く離れている時もあるだろう?
そんな時、僕は夜空の月を見つめるんだ。
どれだけ君が遠く離れた場所に居ても、夜空には同じ月が浮かんでいるし…そして何より、夜空の月は金色で丸くて綺麗な、君の目のようだから。」
真剣に俺を見つめてくる相里の瞳。
――何だろう。褒められているのは分かるし、
相里が俺と一緒に過ごす時間を大切に思ってくれるのは凄く嬉しい。
でも、相里に言われると嬉しいのと照れくさいのと恥ずかしい気持ちが同時に襲ってきて……頬が熱い。
今の俺、きっと情けない顔してるんだろうな。
「そ、相里……!そういう相里だって、綺麗な目をしてるじゃないか。まるで太陽が沈んで、夜になったばかりの夜空の青さを切り取ったような……。
――それに、相里だけじゃない。夜空を見て相里が俺の事を考えてるように、俺だって夜空を見て、今州に居る相里の事を考えてる。」
――俺の言葉に一瞬、きょとんとした後、照れたように頬を赤らめて少しだけ目を伏せる相里。
相里のその表情が綺麗で、大切にずっと目に焼き付けておきたいと思った。
「僕の瞳が夜空みたいだなんて、そんな……。
僕はそんなに、綺麗じゃないよ。
だって僕は――君と会った後はいつも離れがたくて、君の都合など考えずにずっと一緒に居たいと願ってしまう。
だけど、僕は君の真っ直ぐで正直な心に。
どこかに困った人が居たら、どんな遠くに居ても全力で助けようとする――そんなところに惹かれたんだ。
だから、そんな君を束縛したくない。
――でもまさか、君も僕と同じで、お互いの事を考えている時は夜空と月を見上げていたなんてね。」
「案外、俺達似たもの同士なのかもしれないな。」
――お互いに一緒に過ごしていたいと思い、会いたくなる所とか。
――遠く離れた場所に居ても、互いの事を考える時は、まるで相手の瞳のようだと思いながら夜空と月を見つめている所だとか。
……そう、心の中で思いながら。
「でも、良いの?
それだと、僕は君が――漂泊者が、僕に会いたがっていて、遠く離れた場所に居るときも僕の事を思ってくれて、僕の事を大切な存在だと思ってくれている――そう、期待しちゃうよ?
僕が君を大切な存在だと、思っているように。」
ふと、相里の掌が優しく俺の頬に触れる。
俺より少しだけ低い相里の体温を感じる手だけど、僅かに赤くなり熱を持ってしまった俺の頬には、今はその温度が心地良い。
「――期待しても構わない。きっと俺も、 相里と同じ気持ちだから。」
俺が相里を大切な人だと思って、言葉では上手く表せないけど……特別な人だと思っているように。
相里にとっても俺が大切で……特別な人になっていれば良い――そんな願いを込めて。
俺は頬に触れられた相里の手に自分の手を重ねた。
END